(1)文献調査

収集した既存文献の一覧を表3−1−3−1−1表3−1−3−1−2表3−1−3−1−3表3−1−3−1−4表3−1−3−1−5表3−1−3−1−6に示す.以後,引用する文献はこの一覧からのものである.

(1)テフラ

調査地域周辺には,支笏カルデラ・樽前火山・クッタラ火山群に由来する降下火砕物・火砕流堆積物などのテフラ,およびより遠方の第四紀火山(屈斜路カルデラ,阿蘇カルデラ,白頭山)からもたらされた広域テフラが厚く堆積している(春日井ほか, 1980;山縣, 1994;町田ほか, 1985; 町田ほか, 1987;町田・新井, 1992など).それぞれのテフラは,地質学的時間スケールにおいてほぼ同時(数時間〜数日)に広範囲を覆うため広域的な等時間面として追跡できる.今回,地形面区分および第四紀地質層序を確立するため,活断層のイベント発生時期・活動履歴を評価するために,特にテフラ層序に注目して地形地質調査を行った.図3−1−3−1に,調査地域内に分布する第四紀後期以降の火山噴出物の模式柱状図,表3−1−3−2に年代・別名・記載岩石学的特徴を,表3−1−3−3−1表3−1−3−3−2にこれらの噴出物についてこれまで報告されている放射年代値を示す.以後,テフラ名は表3−1−3−2に示した略記号で記述する.

(2)地形面区分

南部地域全体の地形面区分については,松野・石田(1960),藤田・石狩低地帯研究会(1967)がある.

松野・石田(1960)は5つの地形面,すなわち標高140〜180mの第T面,標高80〜130mの第U面,標高35〜80mの第V面,標高25〜40mの第W面,沖積面の第X面に区分した.このうち,第T面は,定高性をもつ山稜線から推定された開析のすすんだ地形面であり,堆積物の存在は確認されていない.第U面も同様に開析の進んだ地形面であり,砂礫層(第U段丘堆積物)が確認されている.第V面は,広範囲に広がる平坦面であり,砂・礫.シルトからなる海成面である.シルト中には,Ostrea gigas Thunbergの化石の密集帯が認められ,有孔虫化石からは50mより浅い海の群集を示す.第W面は,第V面の前面に狭長な分布を示し,かなりの平坦面が残存している.主として植物片を含む,青灰色の塊状シルト質粘土からなり,薄く礫層を挟み,30〜50cmの泥炭層を介在する(第W段丘堆積物).第W段丘堆積物は,内湾あるいは潟湖の堆積環境が推定されている.

藤田・石狩低地帯研究会(1967)は,厚真地域の地形面について,高位よりニタッポロ面(標高50m前後),美里面(24〜30m),下安平面(15〜20m)および汐見面(10〜15m)に区分した.そして,各地形面に対応した堆積物を,ニタッポロ層,美里層,下安平面層および汐見層(角田層)と称した.

(3)第四系層序

馬追団体研究会(1983,1987)は,本地域を含む厚真―由仁―安平に分布する第四系の層序の再検討を行なった.藤田・石狩低地帯研究会(1967)の層序のニタッポロ層,美里層および下安平面層の一部をあわせて早来層,下安平面層の一部を厚真層,汐見層のうち風成テフラを除いた泥炭を主とする部分を本郷層と再区分し,さらに鵡川・支笏・恵庭・樽前降下軽石堆積物,段丘堆積物(宇隆段丘堆積物,美里段丘堆積物)に覆われる層序を示した.早来層と厚真層は不整合関係,厚真層と本郷層は整合関係である.このうち,本郷層には,Aafa−1〜4のテフラを挟むことが確認された.このうち,Aafa−1はKt−8に,Aafa−2はToyaに,Aafa−3はKc−Hb(Kc−4)に対比される(表3−1−3−2を参照).

既存ボーリングの位置(図3−1−3−2)および柱状図を示す(図3−1−3−3).ほとんど河川付近で調査が実施されているため,沖積層が被覆する.注目すべきは,沖積層と新第三系の基盤岩類(砂岩または泥岩と記載されている)の間に,シルト層または粘土層で特徴づけられる更新統が存在することである.また,更新統は基底高度から2つに区分される.馬追団体研究会(1983)から,高位の更新統は早来層に,低位の更新統は厚真層に対比されると考えられる.

(4)活断層

早来・厚真地域に分布する活断層は,NNW走向に並列する馬追断層(東側:15km,西側:4km)と嶮淵断層(4km)が知られている(活断層研究会,1991).これらの断層の記載は,卯田ほか(1979),活断層研究会(1980),山岸(1986),松田(1989)によって行なわれ,活断層研究会(1991)によって整理された.活断層研究会(1991)に基づく断層パラメータを示す(表3−1−3−4).

これらの断層群は,千歳市の東縁,早来町の直下に位置する.また,馬追断層は北方で,西側と東側の2つのセグメントに分かれる.活動度B〜C級のこれらの断層群は,直線的な逆向き低断層崖を形成している.

断層露頭に関する情報はわずかである.馬追断層では,新栄においてTa−dを切る小断層露頭(活断層研究会,1980)が確認され,その後,山岸(1986)により,En−a上面(論文ではSpfa−1としているがEn−aの間違いである)で,110cm,Ta−dの下面で30cmずらす馬追断層の派生断層露頭が確認され,断層がTa−c直下の腐食土までを切断していることを確認している.

以上述べたように,本地域に分布する活断層群の既存情報に関しては,決して十分なものとはいえない.特に,地形面の年代が決まっていないことから,平均変位速度が求まっていないなど,起震断層を評価する上で重要なパラメータが未確定のままである.