泉郷付近から長沼市街付近にかけて地表踏査を行ない,リニアメントについての地形地質状況の把握,地質断層・活断層露頭の観察および高位面・中位面を構成する堆積物の層序学的調査などを行った.長沼市街付近および北海道横断自動車道路沿いについては既存ボーリング資料と地表踏査結果を合わせて断面解析を行った.なお,断層露頭の観察に関連して14C年代測定を2点行っている(表3−1−2).調査の集約結果については中部地域の露頭など位置図(図3−2−1−16)および地形判読・地質図(図3−2−1−17)として示すが,調査地域の第四系を中心とした層序については断面解析とともに述べる.
[踏査結果]
@変位地形
まず,明らかな変位地形を示す泉郷断層沿いの地形状況の確認を行ない,一部については簡易測量を行った(図3−1−2−18).信田温泉北方の台地およびいずみ学園裏の台地では中位面がそれぞれ5mおよび8mの東落ちの変位を示している.コムカラ峠では図3−1−2−13および図3−1−2−14に示すように高位面について15m前後の東落ち変位がある.
南長沼断層(スラスト)沿いの地形状況については,幌内神社付近などで,国土地理院の1/5,000国土基本図により段丘面について30m以上の変位が存在するように読みとれる.しかし,地質調査の結果などでは本断層をはさんだ両側の段丘堆積物については西側が中位段丘堆積物であるが東側は高位段丘堆積物である可能性が高く,異なる堆積物を変位基準にすることはできないことから変位状況については不明である.
地形面の傾動については,断面解析の中で変位量などについて述べる.
A断層露頭
断層露頭については,北から南4号東11線の小沢(南長沼),幌内神社下の河床(南長沼),いずみ学園裏(泉郷)およびコムカラ峠があり観察を行ったが,このうちコムカラ峠については文献調査の項で説明したとおでりあるので,ここでは述べない.
南4号東11線の小沢(図3−1−2−19):現河川氾濫原を切る高さ2.5m・長さ8mの露頭であり,南長沼層の頁岩と高位段丘堆積物が断層関係で接している.断層は西落ちで,断層面の走向・傾斜はNS70°Wであり,高位段丘堆積物は断層付近で引きずられるように急傾斜をこうむっている.小露頭であるため,断層による落差などは不明である.南長沼層と高位段丘堆積物の上に明確な斜交不整合関係で重なる現河川氾濫原堆積物(層厚約2m)中には変位は全く認められない.
幌内神社下の河床(図3−1−2−21):ここでは岡(1998)で示すような延長100mあまりのルートマップが作成できた.南長沼層中に幅70m+の破砕帯(ほぼ南北方向の走向で直立・逆転した層理方向の破砕面が多数存在)が存在しており,南長沼断層(スラスト)の存在を反映したものとみなされる.
いずみ学園裏(図3−1−2−20):旧林道沿いの小露頭を人力により5m×5m程度に広げることにより観察できた.ここでは明らかに恵庭a火山灰までの地層を変位させている様子が観察できる.断層は走向・傾斜がNW−SE60°程度SWの正断層である.この露頭地点は空中写真判読で確認できる泉郷断層のリニアメント上に存在することからこの断層の現れであることは確実であるが,コムカラ峠で確認できた泉郷断層が逆断層であることと明確に異なっている.このような違いの理由としては,次のようなことが言える.コムカラ峠の観察結果では泉郷断層地表部での現れは図3−1−2−15(写真)に示されるように階段状の正断層群をともなう地すべり状の地層変位をともなっており,類似のものは南部地域の自衛隊駐屯地内の馬追断層の地形変位部でも観察される(写真3−1−3−1).このことから,本露頭では地震によるずれの発生後生じた地すべりの断面を観察している可能性があり,断層本体(逆断層)はさらに掘り込むことによりとらえられると思われる.
B断面解析と層序
長沼市街付近の東西断面:
長沼市街付近に関しては深度50m程度までの地質調査ボーリングの地点が多数存在している(北海道農業土木協会編,1990).さらに,市街東方では大規模な山砂利採掘場があり,大きな露頭があちこちに存在し,採掘に関連して調査ボーリングも行われた(近藤ほか,1987).これらのボーリングの柱状図および露頭柱状図のうち直線的に並ぶものをつないで地質断面図を描いた(図3−1−2−22および図3−1−2−23).本地質断面図(図3−1−2−23)での解析結果は以下のとおり要約できる.
@)支笏カルデラの主要噴出物(Spfl,Spfa1)以前の陸成層(層厚20m前後)が鍵層として広く追跡できる.この鍵層は東千歳層H6(岡,1998)または本郷層(馬追丘陵南端部)に対比できる.
A)この鍵層(東千歳層または本郷層)を対比基準にして,上位より沖積層,支笏火山噴出物・上位のローム質層,本郷層(東千歳層H6),厚真層(同H1〜5),新第三系(追分層など)の層序が認められる.長沼市街東方の台地では新第三系と厚真層以上の地層は明確な斜交不整合関係をとり,支笏火山噴出物などから厚真層までの地層はいわゆる“中位段丘堆積物”を構成している.
B)砂利採取場東側露頭の調査では,さらに高位の段丘面が識別され,厚さ10m程度の堆積物(砂礫・火山灰質泥・ローム)をともなうが,高位段丘堆積物で早来層(馬追丘陵南端部)に相当すると判断される.
C)断面図中では本郷層(6万年前前後の地層)で55mの垂直変位(西へ12.2/1,000の傾動)が認められ,高位段丘堆積物は水平距離800mで30mの垂直変位(西へ37.5/1,000の傾動)が認められる.
北海道横断自動車道路沿いの東西断面:
千歳市東部の北海道横断自動車道路(現在建設中)に沿っては多数の地質調査ボーリングが行われたが(図3−1−2−7),その柱状図(図3−1−2−8、図3−1−2−9、図3−1−2−10、図3−1−2−11、図3−1−2−12)を並べて断面解析を行うと図3−1−2−24のようになる.解析結果を要約すると以下のようになる.
@)長沼市街付近の断面とほぼ同様な層序が認められるが,低地においては支笏火山噴出物(Spfl,Spfa1)が厚く存在しており,下位の本郷層とともに鍵層となっている.
A)東方台地の西半部で小褶曲構造が認められ,馬追丘陵前縁の構造として注目できる.
B)東方台地・丘陵では西に傾く2段の段丘面が認められ,それぞれ長沼市街付近の中位面,高位面に対応している.
C)東端部(コムカラ峠)では泉郷断層が高位段丘堆積物(早来層相当)を明らかに切っている
D)断面図中での本郷層の垂直変位は70m+(〜90m)である.
E)OT−c−73ボーリングでは東千歳層(層厚85m)の全容をとらえることができ(図3−1−2−8),西方の低地下には最終氷期に形成された谷地形が認められる.