IBT1およびKBTを挟んで両側約1km,併せて約35km2の範囲について踏査を実施した(図3−1−1−2).踏査にあたっては露頭調査と地形断面の簡易測量を行った.採取した試料のうち14C放射年代測定は2試料を(株)地球科学研究所に依頼して実施した(表3−1−1−1).また,4試料について火山灰分析を(株)京都フィショントラックに依頼して実施した(表3−1−1−2).また,13試料について花粉分析を(株)アースサイエンスに依頼して行った(表3−1−1−3).
(b) 踏査結果
@第四系の層序・年代
従来,本地域の更新統は一括して「茂世丑層」と呼ばれていた.調査の結果いくつかの地質系統に細分が可能であることが判明した.また,鮮新世「清真布層」として塗色されている地域の一部には海成更新統とみられる地層が分布することがわかった.したがってこの調査では各地形面を考慮して表3−1−1−4のような層序区分を使用する.なお,岩見沢地域は市街地のため露頭条件が不良であり,この地域については栗沢地域の調査結果から北海道建築士会空知支部岩見沢分会(1989)等を参考にして推定したものである.栗沢地域の主な柱状図を図3−1−1−3に示す.
t1面堆積物(T1):t1面を構成する.詳細は不明である.
t2面堆積物(T2):t2面を構成する.第三系をほぼ平坦な不整合面をもって覆う砂礫・砂層(T2s)とその下位に谷埋め状に分布する砂質シルト・砂礫層(T2c)からなる(図3−1−1−4).T2s層は層厚3〜12m,中〜細粒の淘汰のよい砂を主体とし,中〜小規模なトラフ型斜交葉理や平行葉理が発達する.砂層にはしばしばサンドパイプが認められることから海成の砂層とみられる.T2cは有機質な暗青灰色の砂質シルトを主体とし,トラフ状の礫層を挟む.T2cの層厚は確認される限りで最大5〜6mである(Loc.55).砂質シルトには,しばしば植物片やクルミ球果を含み,花粉群集は冷温帯的で相対的な温暖期を示す(Loc.56,試料No.56:表3−1−1−3).露頭調査や既存ボーリング試料によればT2sの最高分布高度は60m前後である(図3−1−1−3,図3−1−1−8−1、図3−1−1−8−2).この地層は礫層(最大2m)を挟む灰色粘土層(全層厚4m)(TC)に覆われる.t2面は,後述のt3面の1つ前のステージの海成面であり,酸素同位体ステージ7(約200ka)あるいはステージ9(約300ka)の堆積物と考えられる.石狩低地東縁南部の早来層(馬追団体研究会,1983)に相当する.
t3面堆積物(T3):t3,t3'面に分布する堆積物である.泥炭を挟む暗青灰色シルト層(T3m)と河成および海成の砂礫層(T3s)からなる.これらは,泥炭・砂礫層を挟む灰色〜灰白色シルト・粘土層(TCm)と支笏降下軽石1(Spfa1)の再堆積物を含む粘土層(TCv)におおわれる.基底部は砂礫からなり新第三系を不整合に覆う(Loc.17,Loc.10B).場所によってはt2堆積物を不整合に覆うものと推定される.
T3が露頭で連続的に観察できるのはLoc.10(図3−1−1−3)である.ここでは下位の有機質シルト層(T3m)が斜交葉理の発達する砂礫層(T3s)に覆われる.T3s層には巣穴状の生痕が認められ,海成の砂礫層とみられる.花粉分析によれば,下位のT3mから上位のT3sに向かってトウヒ属が低率化し,冷温帯要素が多様化しているという特徴が認められ,寒冷期から温暖期への温暖化傾向が認められる(図3−1−1−5;表3−1−1−3).また,T3m層中の泥炭層の木片(Kr−10c:図3−1−1−3のNo.10−10と同位置)の14C(AMS)年代は>47150y.B.P.を示す.なお,Loc.10の西側には多数の地盤ボーリング資料がある.それによれば,T3m層は山側の下位に厚く,T3s層は低地側に極めて厚くなっており(図3−1−1−8−1、図3−1−1−8−2),海進期のバリア−ラグーンシステムを連想させる.一方,明らかに海成のT3s層の最高分布高度は標高30m前後であり,これより高い部分では河川成の礫層がT3mや第三系を直接覆うようになる(Loc.19;Loc.17;Loc.50).すなわち,t3面は幌向川ぞいから山側の河成面と低地側の海成面の複合した地形面と考えられる.
岩見沢地域の既存ボーリング資料によれば,t3'およびt3面では堆積物は連続的であり,第三系を基底礫層をもって覆う砂・シルト層(礫層を挟む)とそれをおおう火山灰の薄層に富む粘土・シルト・泥炭・有機質シルト層からなる.これらはそれぞれ栗沢地域のT3とTCに相当する地層と考えられる.T3の比較的淘汰のよい砂層の上限高度は,標高30〜40m程度であり(図3−1−1−7−1),栗沢地域のT3sと概ね一致する(なお,既存ボーリングデータ集では標高データを欠くものがあり,数mの誤差がある可能性がある).後述のように,本調査で実施したボーリング調査(緑が丘地区)ではt3'面を掘削し,T3の基底までの層序が明らかにされた.T3をおおう堆積物(TC)の最下部にはToyaテフラ(90−100ka)と厚真降下火山灰堆積物4(Aafa4)が含まれており,T3は最終間氷期(酸素同位体ステージ5e:125ka)の堆積物と考えられる.これらは石狩低地東縁南部の厚真層(馬追団体研究会,1983)や野幌丘陵のもみじ台層(矢野,1983)に対比され,海成堆積物の分布高度もそれらの地層と大まかに一致する.
t4面堆積物(T4):t4面を構成する堆積物の詳細は不明である.既存ボーリングデータによれば,数mの砂礫と粘土・シルトからなる(図3−1−1−7−2:岩見沢5).
t5面堆積物(T5):t5面を構成する堆積物である.栗沢町最上川ぞいでは,数mの砂礫と粘土・シルトからなる(図3−1−1−3:Loc.47).分布から最終氷期の堆積物と推定される.
粘土質堆積物(TC):上記の各地形面,特にt2面,t3面には各面の堆積物を覆って通常3〜5m,確認されたうちで最大15m程度の層厚をもつ水成・風成の陸成堆積物が発達している.この堆積物の構成や年代のレンジは各面によって異なっているが,これらを便宜的に段丘面を被覆する粘土質堆積物TCと呼ぶ.大部分は粘土・シルト質堆積物であり,しばしば礫層や泥炭・有機質シルト層,火山灰層をはさむ.
栗沢地域のT3の上位に発達するTUは,層厚3m〜10mであり,上半部にSpfa1テフラ(約40ka)の軽石を含む礫層やこれを散点的に含むシルト層が発達する.再堆積テフラの一部にはToyaテフラの混合を示唆するような低屈折率の火山ガラスを含むものがある(Kr30:表3−1−1−2).上部の有機質粘土層(Loc.14:図3−1−1−6)からは31200±370y.B.P.の14C(AMS)年代が得られた.またT3直上の泥炭層の木片からの14C年代(AMS)は45,010±2,940y.B.P.である(小峰・八幡,1999).
沖積層(Al):既存ボーリング資料によればシルト・粘土・砂・泥炭を主体とする.
A 変位地形
変位地形の簡易測量を行うとともに,栗沢町・岩見沢市の1/2,500都市計画平面図から地形断面図を作成した(図3−1−1−7−1、図3−1−1−7−2;図3−1−1−8−1、図3−1−1−8−2).
岩見沢断層と栗沢断層の主撓曲崖の比高はt3面でおおむね20m程度である.t3面の年代を125kaとすると,平均変位速度は概ね0.1〜0.2m/kyr.以上とみられる.地層の連続性から見ると撓曲構造というよりはむしろ傾動に近い.断面図をみると岩見沢地域のt3面とt3'面は,本来は同じ面で,撓曲により面の傾斜が大きくなった面がt3面ともとらえられる.
両断層の逆向き小崖の上下変位量は岩見沢断層で4m以下,栗沢断層で7m以下である.IBT1はt3面で上下変位量は3〜4mと明瞭であるが,t4面では1.5mとやや不明瞭になる.IBT2はt3面での上下変位量は4〜7mであるが,北側のt5面では不明瞭である.KBTの上下変位量はt2面では5.5〜7m,t3面で上下変位量は3〜5.5mとばらついている.
地形判読の項で述べたように,逆向き小崖の山側にはトラフ状の凹地が認められる.既存ボーリング資料によればこの部分には,T2cやTCの谷埋め堆積物が分布する(図3−1−1−8−1、図3−1−1−8−2).したがって,これらは断層崖に沿って形成した古い埋積谷(現在で言えば,たとえば馬追断層のフモンケ川の谷)の跡とみられる.つまり,崖の見かけの変位量にばらつきがあるのは,侵食と埋積によって実際の変位量が修飾されているためと考えられる.
B 断層露頭
栗沢断層(KBT)の断層露頭については,活断層研究会(1991)に幌向川ぞいの露頭(Loc.10の西側)の記載がある.また,最近,小峰・八幡(1999)が栗沢町由良の造成地の露頭(Loc.0)を記載した.これらは現在法面が被覆されて観察することができない.本調査で新たに加茂川2号線(Loc.55)の採石場露頭でT2を切る西上がり逆断層を発見した.
由良工業団地東側(Loc.0): 小峰・八幡(1999)が記載した露頭である.調査者の一人田近が八幡の案内によって観察した(図3−1−1−9).ここでは砂礫層(T3s)を覆って有機質粘土層,泥炭層,灰色粘土層(TCm)が分布する.断層は確認できないが,これらは明瞭な東下がりの撓曲変形を示す.泥炭層の上下変位量は約3.5m(法面の比高は3.2m)であり,泥炭中の材の年代は14C(AMS)年代は44,980±2,940y.B.P.(小峰・八幡,1999)である.したがって,平均上下変位速度はLoc.0で約3.5m/45kyr.から0.07m/kyr.(C級上位)となる.
加茂川2号線砂利採取場(Loc.55): Loc.55では上部中新統追分層を覆ってシルト・礫層(T2c)および砂層(T2s)が分布する(図3−1−1−10).T2層基底は西傾斜の逆断層により約5.5m変位している.断層はT2層で分岐し緩傾斜となっている.断層面の走向傾斜はほぼ基盤の追分層の層理の構造に一致しており,この断層(KBT)は層面すべり断層と考えられる.土砂採取のため最新活動期や複数の活動イベントを示す現象はみられなかった.T2層基底の年代を200kaとすると,変位は5.5m/(200)kyr.であり,平均上下変位速度は概ね0.04m/kyr.である.
岩見沢断層や栗沢断層の主撓曲に関するデータは得られていない.撓曲部ではの粘土・泥炭・礫層(TU)が西に6−8゜傾斜するのが観察できる(図3−1−1−6).