(1)佐伯区五日市町上小深川地区周辺

図4−1

・空中写真の種類:

昭和41(1966)年撮影、縮尺1/2万、国土地理院、写真ナンバーCG−66−5X,C10−9及びC10−10。

・地形概観

本地区は、八幡川が魚切ダムの下流約2kmで東から南に流路を大きく変える地点にあたる。ここでは八幡川に向かって2本の大きな谷筋(古野川と野登呂川)が北北東から南南西に延び、八幡川が流路を南に変える付近で合流してさらに幅広い谷地形を形成している(図4−1図4−6)。この2本の谷筋は幅約200mの南北方向の細長い尾根によって分離される。各谷筋には主として北北西から流れ込む小河川が集まっており、マクロにみると谷筋に集まる小河川は比較的急勾配の山地内を南南東に流下した後、この谷筋に出るあたりで南南西に流路を変えるような「逆くの字」型を呈している。谷筋に出る前の小河川はV字に近い深く切れ込んだ谷を形成しているが、合流付近で急激に河床幅が広がる。古野川と野登呂川は現在河川改修によって、大部分が護岸に囲まれてほぼ直線状に流れている。

・変位地形

谷の屈曲が認められるのは、こうした谷筋の西側を結ぶ大きな地形変換線(北北東方向)よりさらに西側に約150m入った山地内を流れる小河川においてである。図4−1中@地点には、西北西からの幅広い浅い谷底をもつ直線的な谷筋が、断層と推定されるリニアメントに沿って南へ屈曲した後に再度東南東に屈曲する沢が認められる。この谷筋が南に屈曲した地点の東には、谷筋の上流部と同じ東南東方向に開いた比較的深い谷がある。それにもかかわらず、浅い谷筋がこの深い谷に流下せずここで南に曲がるのは極めて不自然であり、何らかの地形的変動がこの付近で起こったことが推定される。そしてここでの屈曲量は、右ずれ80mと測定される。

A地点は@地点の北北東約150mにある。ここには、北西から流下してきた小河川が南南西に向きを変える屈曲点が認められる(矢印)。屈曲後は南南西方向の直線谷を形成するが、前記@地点の近くで再び東南東に屈曲し、その後広い谷筋へ出る。谷は屈曲前後で同じような比較的急峻なV字に近い形状をなし河床幅が狭い。そのため屈曲量は比較的容易に測定でき、右ずれ110mを示す。この谷の直線部分の北北東延長方向にも小さな谷が発達しており(矢印右上)、その先は鞍部となっている。ここでは前述の@からA、そして鞍部へと続く明瞭な北北東方向のリニアメントを読み取ることができる。

このリニアメントの延長方向では、北西から南東に延びるやせ尾根に鞍部が発達している。さらに北北東側には図中B、Cで示した谷に屈曲が認められる。どちらの谷も屈曲前後は北北西−南南東方向のほぼ直線谷に近い形状を示すが、矢印の地点でのみ明瞭に右横ずれをおこしている。屈曲量はBが50m、CはBに比べて不明瞭であるがほぼ同じ50mと計測される。

この地域の地形を図4−2に示す。コンターラインでみても谷の屈曲が明らかであり、図中点線で示すような屈曲がリニアメント上で認められる。なお図中の3が@に、2がAに、そして1がB地点の谷に対応する。

こうしたリニアメント上での系統的な谷の右ずれは、これらの河川が形成されたと推定される第四紀以降に断層の右横ずれ変位活動の結果、形成されたことを示している。このことから、五日市断層は明瞭な地形的証拠が認められる活断層であり、その変位は己斐断層と同センスの右横ずれであると判断される。