a)西区己斐上五丁目地区
次項に述べるように己斐上五丁目ではトレンチ調査を実施している。ここではトレンチ調査を行った屈曲した谷の周辺の踏査結果を図3−8に示す。
・露頭分布状況
本地点は八幡川の上流域にあたり、八幡川に合流する北西から南東に流れる小河川が多数発達した地域である。地質露頭はこれらの小河川の左右岸斜面に、河川浸食あるいは小規模な斜面崩壊による自然露頭、また林道の切り取り人工斜面として点在している。
・露頭記載
図中に示すとおり、露頭部分には比較的多くの粘土細脈が観察され、その走向は己斐断層と同方向のNE−SW系とそれに直交するNW−SE系を示すものがある。ここに記載した粘土細脈の幅は0.5cm〜10cmの範囲内にあり、いずれも灰白色(一部褐色)を呈する。これら粘土細脈は露頭内では途中で分岐したり、軟質ではあるが花崗岩組織が残った熱水によると思われる変質物に変化するなど、明らかに断層中に形成されている粘土と異なる(図3−9、図3−10、図3−11、図3−12参照)。
一方、図中の@地点にはこれら粘土細脈と産状の異なる粘土細脈が観察される。@地点の露頭は、トレンチ調査を実施した谷の1本南側の谷の左岸斜面にあり、河床より上方約10mで傾斜約40度の自然斜面にある。ここには走向・傾斜N20゜E、80゜NWを示す幅約10cmの緑褐色半固結状粘土細脈が認められる。粘土物質はほぼ均質で原岩組織を全く残していない。粘土と岩盤との境界は、東側では表土が被っていて明瞭でないが、西側は変質した灰白色花崗岩(アプライト質)と明瞭に接している。さらにこの花崗岩は幅約30cmで硬質な中−粗粒黒雲母花崗岩に漸移している(図3−13)。本地点では、少なくとも脈の西側では、粘土細脈〜変質岩盤〜健全岩盤の順序に帯状配列している。この露頭は空中写真判読の結果、系統的な谷の屈曲がみられるリニアメント上に位置しており、本粘土細脈が己斐断層中の粘土の一部である可能性が高い。ただし、この地点では被覆層がないために断層の活動時期を論ずることはできない。
b)安佐南区祇園町山本六丁目
図3−14に示すA地点は、安佐南区祇園町山本六丁目付近の林道武田山線道路脇にある。
・露頭分布状況
本露頭は、西から東に流れる小河川を林道下に通すためのカルバート設置に伴ってできた高さ1.5mのほぼ垂直な人工露頭である。この周辺には南西方向約150mに張り出した尾根のくびれとなる鞍部があり、そこから北東に流れくる小河川がこの地点で合流するため全体として幅約50mの広い谷地形を呈し、露頭はその北端に位置している。
・露頭記載
本露頭には、幅10〜20cmの緑褐色〜褐色半固結状粘土細脈が露出しており、その走向・傾斜はN20゜E,90゜である。脈中の粘土物質にはほとんど組織が認められず、ほぼ均質で高含水比である。粘土細脈の西端の母岩は1〜2cmの幅でややオレンジ色がかっている。岩盤との境界は明瞭で苦鉄質鉱物やカリ長石がやや変質した中−粗粒黒雲母花崗岩と接している。この花崗岩の中には、粘土細脈から西側に約30cm離れた位置に、ブロック状に分布する周囲より変質の進んだ脆弱部が認められる(図3−15)。本露頭は、鞍部とそこから北東に流れる小河川の谷の延長線上にあり、空中写真判読によって己斐断層と推定されるリニアメント上に位置している。空中写真判読では周囲に明瞭な横ずれ変位地形がないため確実性は前記@より劣るが、本粘土細脈が己斐断層の一部である可能性が高い。ただし、この露頭にも断層の活動時期を明らかにするような被覆層がなく、活動時期は不明である。
c)安佐南区祇園町山本六丁目(御鉢山墓地周辺)
図3−14中のBは、A地点の南西約250mに位置し、林道武田山線の御鉢山墓地から北西に約100m入った地点にある。
・露頭分布状況
本露頭は南東に向いた緩斜面を北西から南東に流れる小河川が開析した谷の左岸斜面にあり、表土が崩落したのちの約60度の自然斜面となっている。この約50m上流には河川の流路中に高さ約3mの滝が分布し岩盤が露出しており、比較的露頭の多い地域となっている。この露頭の対岸の右岸斜面にも露頭が認められるが岩盤分布深度が深く、玉石を伴う土石流性の砂礫層が露頭全体に認められるのみである。砂礫層の堆積構造は植生に覆われている部分が多く不明瞭である。
・露頭記載
ここには幅3m、高さ1mの露頭全体にわたって中−粗粒黒雲母花崗岩の熱水変質部が見られる。この変質部の東端には変質の弱い硬質岩盤との境界が認められ、その走向・傾斜はN4゜E,80゜Wを示す。本地点もリニアメント上にほぼ位置すると考えられるが明瞭な粘土細脈は確認できない。
d)安佐南区祇園町山本六丁目(林道武田山線東側)
C地点は、A地点の北東約700mに位置し、林道武田山線から標高差で約15m南東に下がった谷底部である。
・露頭分布状況
ここは南東方向の谷と北東方向の谷が合流し、幅約20mの谷底地形をなしており、南東方向の谷の右岸斜面をスコップで削って造り出した人工露頭である。
・露頭記載
本露頭も幅2m、高さ1mの露頭全体が変質している。しかし、この露頭から離れた北東方向の谷の右岸斜面には変質を受けていない中−粗粒黒雲母花崗岩の岩塊が見られ、明らかに谷をはさんで異なった岩盤性状を示している。
以上述べたように、地表地質踏査では空中写真判読で明らかになったリニアメント上において、少なくとも2ヶ所の露頭で己斐断層の可能性の高い粘土細脈を確認することができた。どちらも花崗岩組織を残す熱水変質粘土細脈とは異なり、組織の全く残らない半固結状の粘土となっており、その脈幅は10〜20cmである。この粘土細脈に接する花崗岩はやや変質しており、粘土細脈に近いほど強い変質を受けている露頭も確認された。おそらく活断層としての己斐断層は、比較的広範囲にわたって熱水変質作用を被った脆弱部の中で(その中には地質時代に既に断層として剪断作用を受けた部分があるかもしれないが)、最も応力を解放しやすい軟質部を選択し、活動したものと推定される。