ボーリング位置は,市渡中央の小扇状地上にあたる.調査の結果,この地域の地質は,下位より,1)泥炭,シルト,礫の薄層を挟む砂質シルト層(A孔:34.5m以深,B孔33.8m以深),これを覆う2)礫層および砂・シルト層(A孔:標高34.5m〜 37.2m,B孔:標高33.8m 〜39.1m),および3)火山灰や黒色土壌を挟む礫・砂・シルト層(A孔:標高37.2m以浅,B孔:標高39.1m以浅),の3層からなることがわかった.1)は下部更新統の富川層,2)は,最上部にNg起源の砂粒を含む砂層と泥炭薄層(黒色土壌D層)を挟むことから,市渡南トレンチ等でみられる6面の段丘堆積物と対比される.3)は,市渡中央トレンチで観察される扇状地堆積物に相当する.したがって小扇状地の地下には,市渡南トレンチで観察されるような段丘堆積物と富川層が埋没していることになる.
A孔とB孔,および市渡中央トレンチ北法面のスケッチを対比したのが,図5−4である.断層による変形を考察する上で重要な点は以下の6点である.
@扇状地堆積物は,トレンチで撓曲部にアバットする楔状のシルト質層をのぞくと地表面にほぼ平行に堆積している.
A段丘堆積物最上部の泥炭薄層は,A孔では標高>37.1m付近にあると見られるが,トレンチに向かってわずかに(上盤・西側へ)傾斜する[標高差(B孔での標高−A孔での標高,以下同様)−0.2〜−0.3m].さらにトレンチで観察される撓曲部から上盤側に高くなり,第W章で推定したようにトレンチとB孔での標高差は+1.5m(変位量は約1m)となる.
B段丘礫層の上面は上盤側(西側)に高くなり,その標高差は約+1mである.
C段丘礫層の基底面は上盤側に傾斜する(標高差−0.7m).
D従って,段丘礫層の厚さは上盤側のB孔が下盤側のA孔の約2倍,3.5mになる.
E富川層は5°以下の傾斜で西側に緩やかに傾く.
最新イベントの撓曲を示す泥炭層(黒色土壌D層)の分布は,トレンチ調査の結果と整合的であり,東への撓み下がりを示す(A).段丘礫層の上面は一部山側に撓むと予想されるものの,泥炭層の上面と平行に撓み下がるものと解釈でき,その上下変位量は約1mである(B).したがって,市渡南トレンチとほぼ同様に,Ngテフラと礫層の間にイベントはないとみられる.
一方,段丘礫層基底面などが断層下盤側で,西に緩く傾斜する現象(A,C)は,市渡南トレンチ(図4−5−9)や向野地区(渡島大野活断層調査班,1996)でも認められ,撓曲変形に伴って下盤が緩やかにドラッグされているものと考えられる.従って,少なくともB孔付近までは段丘礫層基底面が西に傾いていることから,期待されるような基底面の東下がりの撓曲変形はさらに西側に位置している可能性が大きい.
それに関連して,西に緩やかに傾く富川層の構造(E)も注目される.B孔より約30m東にはN−S方向の三角末端面を示す,富川層からなる山地が位置する.B孔から西へ約100m東方,三角末端面背後の林道露頭では富川層は傾斜35°SEを示し,ボーリング結果から得られた緩やかな西傾斜の構造との間に大きなギャップがある.すなわち,富川層の撓曲構造は段丘礫層基底面の撓曲よりさらに西側で出現するものと推定される.
以上の推定が正しいとすると,B孔は段丘礫層基底面の撓曲崖の前面にあたるために,礫層を厚く堆積しているか,あるいは撓曲(断層変位?)のために見かけの上で厚くなっているものと考えられる(D).仮にB孔東方の段丘礫層の厚さがA孔と同じような厚さであるとすると,基底面の撓曲に伴う上下変位量は2.5mとなる.この値は市渡南トレンチでの礫層基底面の変位量にほぼ一致する.