1−6 調査結果の概要

平成8年度調査の結果からトレンチ候補地域として選定された,市渡地域(渡島大野断層)および桜岱地域(富川断層)の地形地質精査を実施した.その結果,市渡地域には,基盤となる下部更新統富川層,5面(17ka以前),6面(17〜12ka)の各段丘堆積物,扇状地(沖積錐)堆積物(>5ka以降),および氾濫原堆積物が分布することがわかった.渡島大野断層は5面,6面に明瞭な撓曲変位を与えているが,扇状地や氾濫原では,変位地形は不明瞭である.地形面の垂直変位量や堆積物の厚さ,トレンチの規模から,単一のトレンチで最新活動期を含む複数回以上のイベントの認定は困難と判断された.従って,最新活動期は扇状地面で,また活動間隔を決定するために5面,6面で,計3箇所でトレンチ調査を実施することとした.桜岱地域では,富川層を基盤として,1,2,2'面(100ka以前)や,3面(80ka)などのやや古い段丘堆積物が分布しており,それをおおって沖積層がわずかに分布する.富川断層の変位は緩やかな撓曲で,部分的にみられる小崖も断続的で不明瞭である.オーガーボーリングや別途実施したピット調査の結果でも明瞭な断層変位・位置が特定できなかった.従って,この地域でのトレンチ調査の成果は少ないと判断され実施はとりやめた.

トレンチ調査は,向野(5面),市渡南(6面),および市渡中央(扇状地)各トレンチで実施した.その結果,向野トレンチにおいては濁川テフラ(約12ka)に変位が認められ,市渡南トレンチでも濁川テフラに変形があり,約 7,900y.B.P.〜約 7,800y.B.P.の黒色土壌基底および約 6,500y.B.P.の橙褐色火山灰に変位がないことが確認された.さらに,市渡中央では約 8,800y.B.P.の黒色土壌に変形が認められ,約 7,500y.B.P.の黒色土壌以上の地層に変位がないことが明らかとなった.従って,渡島大野断層の最新活動は約 8,800y.B.P.以降で約 7,800y.B.P.以前である.また,本断層の単位変位量は1m〜 1.5m程度と推定される.活動間隔は最短で約 5,000年となるが,少なくとも約 7,800y.B.P.以降の活動がないことから,間隔はさらに長いものと推定される.平均変位速度については,向野トレンチにおける段丘礫層の変位量が約9mであり,同礫層の年代はローム層堆積速度一定と仮定すれば約43kaとなることから, 0.2m/103年と算出される.

ボーリング調査の結果,トレンチ調査で推定された最新活動イベントの変位量1〜1.5mの妥当性が確認された.また,地下には市渡南トレンチと同様の地層が埋没していることが判明した.撓曲は西下がりのドラッグ変形を伴うものと解釈されることから,各層の撓曲位置は富川層から段丘礫層基底部,泥炭層(黒色土壌D層)の順に,西側から東側に移動していることが予想された.

以上の結果及び平成8年度調査結果を総合的に解析した結果,函館平野西縁断層帯(渡島大野断層)は過去およそ7,000〜9,000年の間隔でマグニチュ−ド6.6〜7.2の地震を起こしており,その最新活動期からみて,要注意断層と判断される.