1A−1,1A−2,1A−3,1A−4は東への撓曲で特徴づけられる確実度Tの断層である.これらは太田ほか(1994)の渡島大野断層に相当する.特に,1A−3断層では地形面の変位の累積性が明瞭に認められ,そのうち5面相当については,鴈澤ほか編(1995)によっておよそ一万年前までの活動履歴があきらかになった.1A−3'は,リニアメントが不明瞭で確実度Uの断層である.この断層は,リニアメントの位置からみて1A−3断層の前縁に位置するが,地形・地質からは相互の関係を明らかにすることは出来なかった.本断層群は,七飯町仁山と大野町文月でくの字型に屈曲しそのトレンドを変えており,屈曲する地点においてリニアメントは途切れるのが特徴である.すべてのリニアメントをつなげた長さは延長12kmであり,北は仁山の山地に入るため不明であり,南は上磯町市街の平野下に没する.1E,1C,1B,1Dは1A−3とは逆向きの低断層崖群を形成している.この断層群のうち,1C,1D断層のリニアメントは八郎沼付近でくの字型に屈曲する.
2D断層は,富川層の急立,文月層の傾動によって示唆される確実度Uの断層である.そのトレンドは,恐らく山地と丘陵地の境界付近と通ると推定される.
2A−1 2A−2断層は,東への撓曲で特徴づけられる確実度Tの断層である.これらは太田ほか(1994)の富川断層に相当する.共に,2面を大きく変位させている.この両断層も,リニアメントが水無付近で不明瞭となりトレンドがくの字型に屈曲する.リニアメントの南の延長は海底に没し,陸上では総延長4.5kmであるが,茂辺地付近の逆向き低断層崖の存在を考慮すると,8km以上となる.2C−1,2C−2,2Bは逆向きの低断層崖群を形成している.この断層群のうち,2C−1断層のトレンドは逆くの字型に屈曲し,上磯ダムの方向に向かう.2C−1と2C−2,2B断層のリニアメントも水無〜万太郎付近で不明瞭となり,そのトレンドはくの字型に屈曲する.
以上,断層のトレンドと地質構造からその連続性を検討した結果,渡島断層・富川断層と一括された断層系はいくつかのトレンドの異なる断層の複合からなる可能性がでてきた.
断層の活動度
渡島大野断層(1A−1,1A−2,1A−3,1A−4断層)の平均変位速度は,0.1〜0.5m/千年となりB級である.これは,従来にくらべてやや低い値である.その理由は,上磯地域の地形面の形成時期が古くなったためである.
富川断層の平均変位速度は,0.4m/千年となりB級である.これは,従来と同程度の結果である.
向野断層は,基準となる地形面がないので変位量は不明だが,活動度はC級オーダと推定される.
(3)物理探査測線およびトレンチ調査候補地の検討
最新活動時期の決定と活動間隔の決定には最も新しい地形面でのトレンチ調査が必要である.また,断層変位地形が不明瞭な地域に関して地下での断層の存在を物理探査によって確認する必要がある.トレンチ候補地の選定にあたっては1)新しい地形面に明瞭なリニアメントがあるか,あるいはそれに隣接する沖積面,2)人工的な改変が少ないこと,3)住宅地ではないことを基準として,当初候補地とし,七飯町仁山,大野町市渡,向野,文月,上磯町陣屋,大工川,添山,水無,富川について検討した.調査の結果,最近の地形面に断層変位が認められるのは,渡島大野断層では大野町市渡北部(6面)および同南部(現河川氾濫原の一部)のみである.また,富川断層では上磯町桜岱(3〜4面)であることがあきらかになった.
そこで,変位地形のやや不明瞭な市渡南部と桜岱を中心に,物理探査測線を設定することにした.しかし,両地区では道路条件等から反射法測線の設定は困難であることから,反射法については渡島大野断層の全体的な構造を確認することとして大野町向野で主断層と逆向き低断層崖群を横断する測線を設定した.函館平野西縁断層系のうち特に渡島大野断層は断層変位地形が明瞭であるが,主断層(1A)と逆向き低断層崖(1D)が丁番断層状に変形しているなどの特徴がある.これはこの断層の活動の特性を考える上で重要である.また,副候補地として,富川断層の地形的な連続性が不明瞭な桜岱〜水無地区で断層の位置の確認をすることとした.
次章以降に記載されるように,大野町市渡,上磯町桜岱ではリニアメントに対応する地層の不連続が確認された.両地域をトレンチ調査候補地として選定した.前者は最終活動時期・活動間隔の決定のため,また,後者については富川断層と渡島大野断層の活動の関係の解明が期待される.