(2)結果

保美地区で行われたトレンチでは,地形判読によって推定された断層通過位置と平成8年度調査(ボーリング,高密度電気探査)結果をあわせて評価し,トレンチ位置を決定した。位置を示す(図4−2−5図4−2−6)。

のり面勾配と形状

トレンチの掘削勾配は、土質によって安全な角度とするように計画していたが、掘削場所の土質がローム層であったため、問題はなく、また、懸念されていた湧水も比較的少なかったため、保美地区では、ほぼ一様な角度で(約70度)掘削を行った。

トレンチ壁面は,大きくT〜Yの6層に区分される(図4−2−7図4−2−8図4−2−9図4−2−10図4−2−11表4−2−6)。以下,下位層(古い方)より、簡潔に示す。

表4−2−6 トレンチ壁面の岩相区分

詳細な岩相については以下に説明する。

T 福島層(トレンチの基底をなす)

トレンチ最下部の7mより北側でみられる。全体的に風化が進んでおり,軟質で茶灰色〜黄褐色を呈す。また,一部はシルト混じり礫状を呈す(φ=5〜15o)。塊状の部分では1〜5pの間隔で亀裂が発達する。上位の有機質砂質シルト層によって不整合で覆われる。

 

U 段丘砂礫層

トレンチの5〜6m部分よりも北側で確認される。強風化〜中風化と風化の進んだ片岩礫を主体としている。また,全体的に円礫〜亜円礫で構成され,淘汰が悪く,雑多である。大きさは平均φ=5〜10o程度であるが,φ=100〜150oと,大きいものも含まれる。

基質はやや泥質で含水比は高く,青灰〜青灰褐色と還元色を呈す。やや水平方向に礫の長軸が配列する傾向が認められる。上位のシルト層との境界はやや乱れているものの,基本的には水平である。下位のシルト岩層にはアバットしている様子が認められる。

V 崖錐その1

トレンチ西面では、基盤のシルト岩片が破片状に散在する。トレンチ東面では、基質は礫混じり有機質シルト主体で、シルト岩の礫はφ=10o程度の角礫を主体とする。

W 有機質砂質シルト層

トレンチの大部分にわたって分布する。茶褐色〜暗茶褐色を示すシルト。全体的に砂質分を含む。また,散点的に風化した片岩礫(円礫)を含み,下部には強風化した片岩礫が多く含まれる。本層中部(地表より深度1m程度)の部分には石器や土器片が認められる。含まれる石器及び土器片は,藤岡市教育委員会によれば縄文時代中期(約4000年前)のものであるという結果となった。

また,塊状で構造等は認められない。また,下位のシルト岩層に接する部分では,基盤のシルト岩が茶褐色のシルト中に破片状に散在する。大きさはφ=10〜50o程度で,形態は角礫状である。

X 崖錐その2

茶褐色の砂礫を主体とする。礫はφ=10〜30o程度で、片岩を主体とする。また、円礫を多く含む。

Y 表土

厚さ20cm〜40cm程度。下位の有機質シルト層を緩やかに覆う。両層の境界部付近には,ほぼ水平に厚さ約2cmの黒色に変質した砂が挟まれている。この部分には陶器片等の現在のものが含まれている。

【まとめ】

平井断層保美地区では、当初、直線状の谷底凹地帯南縁を平井断層が存在すると推定し、トレンチ調査を実施した。トレンチ壁面の地質は、観察図に示すとおり大きく、基盤の新第三紀層のシルト岩、段丘堆積物の砂礫層、火山起源と思われる砂混じりシルト層、崖錐1,崖錐2,表土の6層に区分された。基盤は風化が著しいが、亀裂も多く発達している。少なくともこのトレンチでは、特に際だった変形は認められなかった。しかし、地形的に2つのリニアメントは両者ともはっきりしており、通常、1本の断層のみで形成された地形とは考えにくい。そのため、基盤に亀裂が発達していたことを考えると、トレンチを掘削した周辺に、断層の存在の可能性が指摘される。