基盤地質は濃飛流紋岩類と領家花崗岩類および瀬戸層群からなり,高位段丘堆積層や土石流堆積層などの第四系がこれらを覆って分布する。土石流堆積層は地形面に対応した堆積物として取り扱い区分したが,fd0層は対応する地形面は認められず,更新世前期〜中期の地層であると考えられる。
基盤中の屏風山断層は幅50〜200mの断層帯として分布し,瀬戸層群土岐砂礫層の基底面は断層を挟んで山地から盆地側にステップ状に低下する。
地質分布からfd0層は屏風山断層により切られるとみれるが,隆起側ではおそらく浸食によりfd0層が分布しないことから,fd0層の鉛直変位量は不明である。屏風山断層を横断する土石流堆積面に断層変位地形は認められない。
(a)地形面区分
鍋山地点は恵那盆地の南西縁に位置する。盆地の南東縁は屏風山断層による直線状急崖地形によって境され,屏風山断層北西の恵那盆地側には段丘面や山麓部には土石流堆積面が複数発達し,屏風山断層の南東は急峻な山地が分布する。土石流堆積面の一部は段丘化している。山地や段丘面および土石流堆積面は大局的には屏風山断層に直交する北北西方向に傾斜する。調査地中央部を後田川が北〜北北東に流下し,その他の小規模な河川は概ね北北西に流下する(写真3−2−2−1)。
地形面区分は空中写真判読結果を基に,詳細な地形面分布や現河床からの比高および地形面構成層の性状などを現地で確認して作成した。空中写真は国土地理院撮影の縮尺1/8,000のもの(C CB−76−16 C6−17〜21,C CB−76−16 C5−20〜22)を用いた。一部人工改変により原地形が残っていない部分については空中写真判読結果を示した。
鍋山地点に分布する地形面は段丘面,土石流堆積面および地すべり・崩壊地形に大別できる。段丘面は調査範囲のほぼ中央部に高位段丘1面(以下H1面とする)が分布する(表3−2−2−1,図3−2−2−1)。H1面は森山(1985)による赤土平上位面に相当する。土石流堆積面はF3面とF4面とF5面とF6面およびF7面に区分される。F3面はF3(1)面とF3(2)面に,F5面はF5(1)面とF5(2)面に細分される。そのほか地すべり・崩壊地形,崖錐斜面および地すべり土塊(Ls面)を区分される。
写真3−2−2−1 屏風山断層鍋山地点全景
表3−2−2−1 地形面区分表(屏風山断層鍋山地点)
以下に鍋山地点における地形面の分布と性状について述べる。
@H1面
調査範囲のほぼ中央を南北に延びる平坦面で,現河床からの比高は45〜55mで,幅は50〜250mである。H1面は緩く北に傾斜するが,調査範囲ではH1面を開析する河川の河床勾配はさらに急で,H1面の傾斜は調査地西方を北北西に流れる阿木川の河床勾配に近い。H1面は山麓部付近ではF3(2)面に覆われるため,屏風山断層との関係は不明である。
AF3(1)面
F3(1)面は調査範囲の南東部に幅約50m,長さ約100mの規模でわずかに分布する。現河床からの比高は10〜15mである。
BF3(2)面
F3(2)面は調査範囲に広く分布する。現河床からの比高は一般に8〜15mで,後田川左岸に分布するF3(2)面は後田川からの比高は約35mである。
CF4面
F4面は調査範囲の南西部と中央部および北東部に主要な分布が認められる。現河床からの比高は6〜10mである。
DF5(1)面
F5(2)面は調査地南西端にのみ分布する。現河床からの比高は5〜8mである。
EF5(2)面
F5(1)面は調査範囲の南西端部と調査地中央部の後田川沿いおよび調査地北東部に分布する。現河床からの比高は3〜6mである。
FF6面
F6面は調査地南西部や調査地北部の後田川の下流域に分布するほか,沢に沿って小分布する。現河床からの比高は1〜3mである。
GF7面
F7面は現河床面であり各沢筋に分布する。
H崖錐斜面
崖錐斜面は急斜面の下方や沢に沿ってほぼ調査地の全域に分布する。
I地すべり・崩壊地形および地すべり土塊(Ls面)
調査地西部でF−4断層に沿って幅10〜30m,長さ20〜70mの地すべり地形が連なって分布する。そのほか規模の大きなものは調査地南部に幅約80m,長さ約130mの崩壊地形が分布する。それ以外には幅5〜10m,長さ10〜30m程度の規模の地すべり・崩壊地形が散在する。
(b)地質層序
鍋山地点の地質は白亜紀後期の領家花崗岩類と濃飛流紋岩類,新第三紀鮮新世の瀬戸層群からなり,第四紀の段丘堆積層,土石流堆積層,地すべり土塊および崖錐堆積層がこれらの基盤岩類を覆って分布する(図3−2−2−2,表3−2−2−1)。瀬戸層群は領家花崗岩類と濃飛流紋岩類を不整合で覆い,調査範囲では屏風山断層の北西に分布し屏風山断層によって花崗岩と断層接触する。段丘堆積層は高位段丘堆積層が分布する。土石流堆積層は下位から土石流堆積層0,土石流堆積層V(1),土石流堆積層V(2),土石流堆積層W,土石流堆積層X(1),土石流堆積層X(2),土石流堆積層Yおよび土石流堆積層Zに区分した。土石流堆積層0は高位段丘堆積層の下位の地層で,土石流堆積層V〜Zは高位段丘堆積層の上位の地層である。土石流堆積層V〜ZはそれぞれF3面〜F7面の地形面に対応した堆積物として取り扱う。
以下に当地点に分布する各地層や岩体の分布や岩相・層相について述べる。
@濃飛流紋岩類(Nr)
濃飛流紋岩は調査地の南東部に分布し,流紋岩と流紋岩質溶結凝灰岩からなる(写真3−2−2−2)。流紋岩は優白色を呈する細粒緻密な岩石で径2〜5mmの石英の斑晶を特徴的に含む。基質がガラス質で黒色〜暗灰色を呈することもある。流紋岩質溶結凝灰岩は灰色を呈するやや粗粒な岩石で,ガラス質な岩片を多く含む。
表3−2−2−2 屏風山断層鍋山地点地質層序表
写真3−2−2−2 濃飛流紋岩の岩相
A領家花崗岩類(Gdp)
領家花崗岩類は屏風山断層の南東に分布し,花崗閃緑斑岩からなる。岩相は暗灰色を呈する細粒・緻密な石基中に径数mmの長石類や石英の斑晶を特徴的に含む(写真3−2−2−3)。断層の周囲ではカタクラスティック(破砕組織が著しい)な岩相(写真3−2−2−4)のものも分布する。
写真3−2−2−3 花崗閃緑斑岩
写真3−2−2−4 カタクラスティックな花崗閃緑斑岩
B瀬戸層群土岐砂礫層(砂礫層)(Tg)
瀬戸層群土岐砂礫層(砂礫層)は屏風山断層の北西に分布する。礫径5〜20cmの濃飛流紋岩の亜円〜亜角礫を多く含む砂礫が主な層相である(写真3−2−2−5)。そのほか砂径2〜5cmの美濃帯堆積岩類の円礫〜亜円礫を主体とする層相や,濃飛流紋岩礫と美濃帯堆積岩類礫が混在するタイプの層相(写真3−2−2−6)や,濃飛流紋岩の亜角〜角礫を主体とする層相がある。礫の配列などから測定される本層中の走向傾斜の方向性はランダムであるが東西走向で5〜20°北傾斜を示すことが多い。屏風山断層の近傍では地層の急傾斜部がみられることがある。層厚は50m以上である。
写真3−2−2−5 土岐砂礫層(砂礫層)の層相
写真3−2−2−6 土岐砂礫層(砂礫層)の層相
C瀬戸層群土岐砂礫層(粘土層)(Ts)
瀬戸層群土岐砂礫層(粘土層)は調査地南西部と調査地北東部にわずかに分布し,層序的にはTg層の上位に位置する。白色および灰白色を呈する粘土およびシルトからなる。(写真3−2−2−7)層厚は10m以上で,上限は土石流堆積層に浸食し覆われるため不明である。
写真3−2−2−7 土岐砂礫層(粘土層)の層相
D土石流堆積層0(fd0)
土石流堆積層0は屏風山断層の北西に分布する。平均径1〜15cmの濃飛流紋岩の角礫を含む角礫層で,わずかに花崗閃緑斑岩礫を含む。礫はクサリ礫〜半クサリ礫化していて軟質である。マトリックスは締まった砂質シルトからなり,新鮮部で白灰色を呈し,酸化部では褐色を呈する(写真3−2−2−8)。本層の上限は土石流堆積層や段丘堆積層に覆われるか,もしくは浸食されており,本層に対応する地形面は認められない。露頭分布から想定される本層の基底面の勾配は概ね現地形と調和的である。本層の層厚は30m以上である。
写真3−2−2−8 fd0層の層相
E高位段丘堆積層(trh)
高位段丘堆積層は,調査範囲のほぼ中央を南北に延びるH1面の構成層として分布する。本層は1つの露頭で確認されたのみである。その露頭で観察された本層は礫径5〜20cmの濃飛流紋岩の角礫を含む角礫層で,土岐砂礫層起源のチャートの亜角礫をわずかに含む。マトリックスは明褐色の砂質シルトからなる。本層の層厚は3〜5mである。(写真3−2−2−9)
写真3−2−2−9 trh層の層相
F土石流堆積層V(1)(fdV[1])
土石流堆積層V(1)はF3(1)面の構成層として調査範囲の南東部にわずかに分布する。本層は礫径3〜10cmの濃飛流紋岩の角礫を含む角礫層で,礫含有率が高い。マトリックスは明褐色シルトからなる。礫はクサリ礫化していない。本層の層厚は5〜10mである。(写真3−2−2−10)
G土石流堆積層V(2)(fdV[2])
土石流堆積層V(2)はF3(2)面の構成層として調査範囲に広く分布する。本層は礫径3〜8cmの濃飛流紋岩の角礫を含む角礫層で,マトリックスは明褐色シルトからなる(写真3−2−2−11)。本層の層厚は3〜8mである。
写真3−2−2−10 fdV(1)層の層相
写真3−2−2−11 fdV(2)層の層相
H土石流堆積層W(fdW)
土石流堆積層WはF4面の構成層として調査範囲の南西部と中央部および北東部に分布する。本層は礫径1〜30cmの角礫および亜角礫を含む角礫層で,礫種は濃飛流紋岩礫が約90%で,花崗閃緑岩が約10%である。濃飛流紋岩礫はクサリ礫化していないが,花崗閃緑岩は半クサリ礫化しておりやや軟質である。マトリックスは明褐色のシルトからなり,やや締まっている(写真3−2−2−12)。本層の層厚は3〜8mである。
写真3−2−2−12 fdW層の層相
I土石流堆積層X(1)(fdX[1])
土石流堆積層X(1)はF5(1)面の構成層として調査地南西端にのみ分布すると推定されるが,露頭で確認はされていない。本層の層厚は2〜5mと推定される。
J土石流堆積層X(2)(fdX[2])
土石流堆積層X(2)はF5(2)面の構成層として調査範囲の南西端部と調査地中央部の後田川沿いおよび調査地北東部に分布する。本層は礫径5〜30cmの濃飛流紋岩角礫を含む角礫層である。マトリックスは暗褐色のシルトおよびシルト質砂からなり,ゆるい地層である(写真3−2−2−13)。本層の層厚は2〜5mと推定される。
K土石流堆積層Y(fdY)
土石流堆積層YはF6面の構成層として調査地南西部や調査地北部の後田川の下流域に分布するほか,沢に沿って小分布する。本層は礫径5〜30cmの濃飛流紋岩角礫を主体とする砂礫からなる。マトリックスは粗粒砂からなり,非常にゆるい地層である(写真3−2−2−14)。本層の層厚は2〜5mと推定される。
写真3−2−2−13 fd0層を覆うfdX(2)層
写真3−2−2−14 fdY層の層相
L土石流堆積層Z(fdZ)
土石流堆積層ZはF7面(現河床面)の構成層として各沢筋に分布する。本層は一般に径5〜30cmの濃飛流紋岩礫を主体とする砂礫からなる。沢の規模が小さく流量が少ない沢ではシルト主体の層相であるとみられる(写真3−2−2−15)。本層の層厚は2〜5mと推定される。
写真3−2−2−15 fdZ層の分布状況
現河床面
M地すべり土塊(Ls)
調査地西部で幅10〜30m,長さ20〜70mの地すべり地形が連なって分布する。これらの地すべりブロックの滑落崖はF−4断層に沿って形成されている。地すべり土塊の露頭は認められないが,地質分布から土岐砂礫層粘土層をすべり面とし地すべり土塊はfd0層からなると想定される。
そのほかの地すべり・崩壊地形は調査地南部に幅約80m,長さ約130mの崩壊地形が分布する他,幅5〜10m,長さ10〜30m程度の規模の地すべり・崩壊地形が散在する。これらの地すべり・崩壊地形は濃飛流紋岩や花崗閃緑斑岩分布域に多い。
N崖錐堆積層(dt)
崖錐堆積層は急斜面の下方や沢に沿ってほぼ調査地の全域に分布する。露頭はないが,角礫や礫混じりシルトからなると想定される。
(c)断層露頭
鍋山地点では10露頭で13条の断層や破砕帯露頭がみられた(図3−2−2−3)。本調査では,地表踏査で確認された断層や破砕帯露頭について断層露頭観察カードを作成し巻末資料とした。13条の断層や破砕帯のうち,12条は花崗閃緑斑岩や濃飛流紋岩中の断層や破砕帯で,1条は土岐砂礫層中の断層である。第四紀層を切る断層露頭は確認されなかった。ここではこれらの断層や破砕帯のうち,主要な断層(BY−23,BY−58,BY−59)について述べる。
@BY−23断層露頭
BY−23断層露頭はF−2断層の露頭(図3−2−2−3)で,BY−23(1)とBY−23(2)およびBY−23(3)の3条の断層が認められる(図3−2−2−4)。母岩は花崗閃緑斑岩からなる。BY−23(1)断層は破砕・変質部の幅が250cm以上で,幅1〜2cmの濃緑色粘土を挟む。断層面の走向傾斜はN32W60NEを示す(写真3−2−2−16)。BY−23(2)断層は幅2〜5cm淡オリーブ色粘土からなる断層で,断層面の走向傾斜はN37E80SEを示す(写真3−2−2−17)。BY−23(3)断層は幅30〜40cmのカタクラスティックな断層で淡オリーブ色の半固結粘土を挟む。断層面の走向傾斜はN66W60SWを示す(写真3−2−2−17)。BY−23(1)断層とBY−23(2)断層はBY−23(3)断層により変位を受けているが,変位のセンスと量は不明である。
ABY−58断層露頭
BY−58断層露頭はF−1断層の露頭(図3−2−2−3)で,花崗閃緑斑岩と濃飛流紋岩およびfdY層からなる。断層破砕帯は幅約50cmの暗オリーブ色粘土からなり,幅2〜3mの変質帯を伴う。断層面の走向傾斜はN24E86SEを示す。当断層を挟んだ北西側は花崗閃緑斑岩からなり,南東側は主に濃飛流紋岩からなる。当断層をfdY層が覆い,fdY層に断層変位はない。(図3−2−2−5,写真3−2−2−18)
BBY−59断層露頭
BY−59断層露頭はF−4断層の露頭(図3−2−2−3)で,土岐砂礫層とfdX層からなる。土岐砂礫層は濃飛流紋岩の亜円礫を主体とする砂礫層で一部チャートなど美濃帯堆積岩類の亜円礫を含む。礫含有率は高い。明瞭な断層面は不明であるが,幅2m程度の礫の高角度配列部がみられ,一部逆傾斜する。高角度配列する礫の走向傾斜はN24E86SEを示す。礫の高角度配列部の北西では地層面はほぼ水平で,南東では地層の走向傾斜はN57E45NWを示す。礫の高角度配列部を覆うfdX層に断層変位はない。(図3−2−2−6,写真3−2−2−19)
(d)地質構造
@基盤中の地質構造
鍋山地点では断層露頭の確認と地質分布から,屏風山断層はF−1断層,F−2断層,F−3断層およびF−4断層の4条の断層からなる幅50〜200mの断層帯である(図3−2−2−7)。断層帯の最南部にはF−1断層が分布し,最北部にはF−4断層が分布する。F−2断層およびF−3断層はF−1断層とF−4断層に挟まれた断層帯中に分布する。
当地点において屏風山断層はF−1断層とF−4断層の2条の主断層から構成され,その間にはF−2断層とF−3断層が副断層として分布する。土岐砂礫層の基底面は断層を挟んでステップ状に北東に低下する。F−1断層の南東およびF−4断層の北西で土岐砂礫層の基底面は確認していないが,屏風山断層による土岐砂礫層の鉛直変位量は少なくとも200m以上である。
A第四紀層の断層変位と第四紀の地形面の変位地形
fd0層がF−1断層を挟んだ南東に分布しないことから,fd0層はF−1断層に切られると考えられるが,その変位量は不明である。F−2断層,F−3断層およびF−4断層はfd0層に変位与えていないとみられる(図3−2−2−7)。fd0層中の形成年代を示すデータは得られなかったが,fd0層に対応する地形面がないことから,高位段丘堆積層より古い地層であると考えられる。
断層を横断する土石流堆積面に変位地形が認められない。なお調査地西半部に広がるF3(2)面のF−4断層通過付近では,地形図でみると等高線がやや密に描かれているが,現地でF3(2)面に変位がないことを確認した。