(2)火山灰分析結果

手賀野断層中垣外地点のT1トレンチで1試料(図3−1−4−2),TNGC1露頭で5試料(図3−1−5−1)を採取した。このうちトレンチの1試料,露頭の3試料で火山ガラスの屈折率測定を実施した(表3−1−5−2)。

@T1トレンチ

T1トレンチでは南西壁のA層中に層厚5〜10cmの明赤褐色を呈する火山灰層が分布する。T1T1試料はT1トレンチ南西壁のTD=13.7m,D=2.2mから採取した。T1T1試料の火山ガラスの含有率は91%である。火山ガラスはバブルウオール型(写真3−1−5−1写真3−1−5−2)で,火山ガラスの屈折率は1.4985−1.5007であり(図3−1−5−4),姶良Tnテフラ(AT)であることを示す。

写真3−1−5−1 火山ガラスの顕微鏡写真 (T1T1,オープンニコル)   

写真3−1−5−2 火山ガラスの顕微鏡写真 (T1T1,クロスニコル)

ATGNGC1およびTGNGC2露頭

TGNGC1露頭はT1トレンチから約100m北東のM1面縁辺の段丘崖に露出する(図3−1−5−1)。TGNGC1露頭はM1面から5〜8m下方に位置し,下位からfd0層とtrm1層からなる(図3−1−5−2図3−1−5−3)。

fd0層は層厚約1mが露出し,礫径10〜40cmの濃飛流紋岩角礫を含む砂礫からなる。礫は半クサリ礫化しており,地層は締まっている。マトリックスは粗粒砂および極粗粒砂からなる。

trm1層は下位から礫混じりシルト層,火山ガラスを含むシルト層およびシルト層からなる。礫混じりシルト層は層厚約50cmで赤褐(2.5YR 4/6)を呈し,fd0層の砂礫を不整合に覆う。火山ガラスを含むシルト層は層厚約3cmで,オリーブ褐(2.5Y 4/3)や黄褐(10YR 4/6)を呈する。シルト層は層厚約30cmのシルトからなり,濃飛流紋岩礫をわずかに含む。にぶい赤褐(5YR 4/4)や赤褐(2.5YR 4/6)を呈する。よく締まっており,露頭表面はスレーキングしている。

露頭上面からの深度D=0.10〜0.15mでtrm1層のシルト層(TGNGC1−1試料)を採取し,D=0.30〜0.33mでtrm1層の火山ガラスを含むシルト層(TGNGC1−2試料)を採取し,D=0.55〜0.65mでtrm1層の礫混じりシルト(TGNGC1−3試料)を採取し,D=1.20〜1.30mでfd0層の砂礫(TGNGC1−4試料)を採取した。

TGNGC2露頭はTGNGC1露頭から約150m南南東のM1面の段丘崖に位置し(図3−1−5−1),瀬戸層群陶土層が露出する。TGNGC2−1試料は瀬戸層群陶土層を採取した。

TGNGC1−2は,表3−1−5−2に示すように火山ガラスの含有率は6/1000(1000個計測中6個が火山ガラス)で,屈折率の測定範囲は1.4953−1.5151で1.495−1.500にモードを示す。斜方輝石を含みその屈折率は1.7027−1.7348の測定範囲に4つのモードが認められる。また,β石英を13/20000の含有率で含む。これらの結果から,火山ガラス1.495−1.500,斜方輝石1.705−1.709のモードのものは,K−Tz(鬼界葛原;火山ガラス1.496−1.500,斜方輝石1.705−1.709,火山アトラスによる)に相当し,β石英が含有されるということもK−Tz起源であることを示唆する。また,AT(火山ガラス1.498−1.501,斜方輝石1.728−1.734,火山灰アトラスによる)に相当するものが含まれている可能性がある。

TGNGC1−1は,表3−1−5−2に示すように火山ガラスの含有率は14/1000で,屈折率の測定範囲は1.4952−1.5163で1.495−1.500にモードを示す。斜方輝石は含まれていないが,火山ガラスの屈折率,β石英が5/20000含まれることなどから,TGNGC1−2同様K−Tz,AT起源の火山ガラスが含まれている可能性がある。

以上の結果からtrm1層上部のシルト層にはK−TzおよびATが含まれる可能性がある。K−Tzの噴出時期は7.5−9.5万年前とされている(町田・新井[1992]火山灰アトラス,東京大学出版会)。ATについては含有量が少ないことから,trm1層堆積後に植物根などの影響で地層中に取り込まれた可能性が高い。trm1層の形成時期はK−Tz火山灰の降下時期,すなわち7.5−9.5万年前であると推定される。