ET−1トレンチの展開図を図3−3−9に示す。ET−1トレンチにはA層、B層、C層、D層、E層、F層、G層、H層、I層、J層、K層、L層が分布する。
A層は盛土および耕土からなる。B層は表土(腐植土)からなる。C層はシルト(ローム質)からなる。D層は砂礫からなる。E層は礫混じり砂からなる。F層は砂礫およびシルト(土石流)からなる。G層は砂礫からなる。H層は礫混じり砂,砂およびシルトからなる。I層は砂およびシルト(腐植土を伴う)からなる。J層は砂礫および砂からなる。K層は砂およびシルトからなる。L層は砂礫(花崗岩のクサリ礫多い)からなる。
南西壁および北東壁の起点側と南東壁には断層が分布し、断層の下盤側に上位層から順にC層、D層、E層、F層、G層が分布し、断層の上盤側に上位層から順にH層、I層、J層、K層、L層が分布する。A層およびB層は断層およびこれらの地層を覆って分布する。
A層:盛土および耕土
本層は盛土および耕土からなる。現地形面下0.1〜1cmの厚さで連続して分布する。
層相は黄褐(10YR5/6, 10YR5/8)や黒褐(10YR2/2, 7.5YR3/2)を呈する砂礫および礫混じりシルトが主体である。耕土は黒褐(10YR2/2)を呈する砂混じりシルトからなる。
B層:表土(腐植土)
本層は主に腐植土からなる。南東壁に層厚1.2〜1.4mの連続した地層として分布するほか,南西壁および北東壁の一部にも分布する。
層相は腐植土,腐植質砂および腐植質な礫混じり砂からなる。黒(10YR2/1)および黒褐(10YR3/1)を呈する。
C層:シルト(ローム質)
本層は南西壁のTD=6.5mから下流(北西)側と北東壁のTD=8.9mから下流(北西)側に分布する。D層およびE層を覆う。
層相は、シルトおよび砂質シルトからなり,砂をわずかに挟在する。色調は燈(7.5YR6/8)を呈し,ローム質である。層厚は0.3〜1.2m。
D層:砂礫
本層は南西壁のTD=3.8〜6.3mのD=2〜3mと,北東壁のTD=3.4〜9mのD=2.2〜3.1mに分布する。E層を覆う。砂礫を主体とし,上部にシルトおよび砂混じりシルトを伴う。
砂礫は一般に礫径2〜10cmの亜円礫および亜角礫からなり,礫種は流紋岩,花崗岩,美濃帯砂岩からなる。マトリックスは淘汰の悪い砂およびシルト混じり砂で,色は明褐(7.5YR5/6)や黄褐(10YR5/4)を呈し,新鮮部は緑灰(10GY5/1)を呈する。
E層:礫混じり砂
本層は北東壁のTD=2.7〜19.5mのD=2.5〜3.8mと,南西壁のTD=3.6〜20.6mのD=2.4〜3.8mに分布する。層厚は0.1〜0.8mで一般には0.3m程度である。C層とD層に覆われる。
層相は礫混じり砂および極粗粒砂を主体とし,砂質シルトやシルト質砂を伴う。下流(北西)に向かって細粒になり,シルトが卓越するようになる。弱い斜交葉理がみられる。オリーブ灰(10Y5/2, 2.5GY5/1)を呈し,酸化部は燈(7.5YR6/8)や明褐(7.5YR5/8)を呈する。
F層:砂礫およびシルト(土石流)
本層は北東壁のTD=2〜19.3mのD=2.6〜5.2mと,南西壁のTD=2.3〜20.4mのD=2.2〜5.1mに分布する。G層を浸食して覆い,E層に覆われる。北東壁のTD=5〜12mと南西壁のTD=7〜10mでは,本層とG層の境界とG層中の層理面は大きく斜行しており,本層が下位のG層を浸食して堆積したことがわかる。
層相は主に花崗岩の巨礫を多く含む砂礫からなり,上位に向かって砂質シルトに漸移的に変化する。礫は径5〜20cmの亜円礫主体で径50〜100cmの巨礫を含む。礫種は花崗岩(風化礫が大半),濃飛流紋岩,砂岩および頁岩からなる。巨礫は花崗岩からなる。マトリックスは極粗粒砂〜砂質シルトで上方細粒化の傾向がある。色調は浅黄(2.5Y7/3)を呈する。上位の砂質シルト中にはは径1〜5cmの礫をわずかに含む。オリーブ灰(2.5GY5/1)を呈し,酸化部は黄褐(10YR5/6, 10YR5/8)や黄橙(10YR7/3)を呈する。
G層:砂礫
本層は北東壁のTD=5.1〜17.9mのD=4.3〜5.8mと,南西壁のTD=6.9〜18.3mのD=3.8〜5.6mに分布する。
層相は砂礫を主体とし,砂を伴う。砂礫は径5〜20cmの花崗岩,濃飛流紋岩,美濃帯砂岩やチャートの亜円礫からなる。マトリックスは極粗粒砂および粗粒砂からなりマトリックス中に弱い葉理があることがある。黄(2.5Y6/4)や浅黄(2.5Y7/3)を呈する。砂は砂礫中にレンズ状に挟在する。層相は細礫を含む粗粒砂や中粒砂からなり,黄(2.5Y6/4),橙(5Y6/8),赤褐(5YR4/6)などを呈する。ほぼ水平な平行層理が発達する。
H層(上盤側):礫混じり砂,砂およびシルト
本層は南東壁のTD=0.5〜5.5mのD=0.7〜1.7mに分布する。I層を覆い,B層に覆われる。層厚は約1mである。
層相は礫混じり砂を主体とし,砂やシルトを含む。礫混じり砂は径2〜5cmの流紋岩,花崗岩,チャートの角礫および亜角礫を含む細粒砂である。明褐(7.5YR5/8, 7.5YR5/6)やにぶい褐(7.5YR5/4)を呈する。砂およびシルトはシルト質砂や砂質シルトからなる。弱い葉理はみられるが,全体に不均質で層相は側方変化する。全体に酸化が進んでおり,にぶい黄褐(10YR5/4),褐(7.5YR4/6),明褐(7.5YR5/8)を呈し,新鮮部は青灰(10BG5/1)を呈する。
I層:砂およびシルト(腐植土を伴う)
本層は本トレンチでは断層の上盤側にのみ露出する。南東壁のTD=1.7〜5.5mのD=1.4〜2.3mに分布するほか,北東壁のTD=1.3〜2.5mのD=1.8〜2.4mと,南西壁のTD=1.4〜3.5mのD=1.3〜2.3mに分布する。
層相は葉理の発達した極粗粒〜細粒砂を主体とし,シルトを伴う。シルト中には腐植質シルトが挟在する。J層を覆い,C〜E層に覆われる。層厚は15〜60cmである。
J層:砂礫および砂
本層は本トレンチでは断層の上盤側にのみ露出する。南東壁のTD=1.9〜5.5mのD=1.6〜2.7mと,北東壁のTD=1.4〜2.5mのD=2.3〜2.8mと,南西壁のTD=1.4〜4.3mのD=1.4〜2.3mに分布する。下位のK層を傾斜不整合で覆い,上位のI層に整合で覆われる。
層相は砂礫および砂からなる。砂礫は径3〜10cmの濃飛流紋岩,花崗岩の亜角礫および角礫からなり,わずかに美濃帯砂岩および頁岩を含む。マトリックスは極粗粒砂で黄褐(2.5Y5/3)やにぶい黄(2.5Y6/4)を呈する。砂は径1〜2cmの濃飛流紋岩の亜円礫を含む極粗粒砂を主体とし,粗粒砂を伴う。
K層:砂およびシルト
本層は本トレンチでは断層の上盤側にのみ露出する。南東壁のTD=2〜5.3mのD=1.7〜4.1mと,北東壁のTD=1.5〜3.5mのD=2.2〜4mと,南西壁のTD=1.5〜4mのD=1.7〜4mに分布する。下位のL層を覆い,上位のJ層に覆われる。
層相は砂およびシルトからなる。砂は礫混じり粗粒砂を主体とし,シルト質細粒砂を伴う。オリーブ褐(2.5Y4/3)や黄褐(2.5Y5/3)を呈する。シルトはごく弱い腐植質シルトを伴いわずかに細粒砂を挟む。シルトおよび細粒砂はオリーブ黄(5Y6/3, 5Y6/4)や灰オリーブ(7.5Y6/2)を呈し,弱い腐植質シルトは灰褐(7.5YR6/2)や褐灰(7.5Y6/1)を呈する。
L層:砂礫(花崗岩のクサリ礫多い)
本層は本トレンチでは断層の上盤側にのみ露出する。南東壁のTD=2.1〜5.1mのD=2.6〜3.7mに分布する。K層に覆われる。本層はトレンチで出現した地層中に最も下位の地層である。
層相は径3〜10cmの花崗岩のクサリ礫を多く含む砂礫でやや締まっている。全体に酸化し,明赤褐(5YR5/8)や橙(7.5YR6/8)を呈するが,わずかに残る新鮮部は灰(5Y6/1)や灰オリーブ(5Y6/2)を呈する。
(b)トレンチに見られる断層に関する記載
断層部分の詳細スケッチ(原縮尺1/20)を図3−3−10−1、図3−3−10−2、図3−3−10−3に示す。
ET−1トレンチの南西壁および北東壁の起点側と南東壁には断層が分布する。断層は4条確認され、いずれも逆断層である。大局的にみると、断層の上盤側には下盤側の地層より下位の地層が分布する。当トレンチに分布する断層を下位のものからf−1断層、f−2断層、f−3断層、f−4断層とした。断層面は30〜50°南傾斜となる。f−1断層はf−2断層から分岐して下盤側の地層中に分布する断層で、10〜20°南傾斜で先端部(前縁部)は緩傾斜となる。f−3断層は大部分が上盤側の地層中に分布する断層で、前縁部でf−2断層に会合する。傾斜は40〜50°南傾斜である。f−4断層は上盤側の地層中に分布する断層で、約50°南傾斜である。
f−1断層は南西壁のTD=2.2m,D=4mからTD=6.9m,D=3mと、北東壁のTD=2m,D=4mからTD=5.2m,D=3.2mと、南東壁のTD=4.3m,D=4.1mからTD=2.7m,D=4.05mにかけて分布する。南東壁ではf−2断層とほぼ一致するが、南西壁および北東壁ではf−2断層から前縁に分岐して分布する。南西壁のTD=4.7mからTD=5.3mにかけては不連続である。f−1断層は南東壁ではK層とF層を境する断層であるが、南西壁および北東壁(すなわち前縁)では主にF層中に分布する。南西壁ではE層を20cm程度変位させ、TD=5m,D=3m付近でD層に覆われ、TD=6.9m,D=3.05mでC層に覆われる。一方北東壁ではTD=5.2m,D=3.2m付近でE層に覆われる。断層面の走向傾斜は南西壁のTD=5.3m,D=3.25mではN26E12SE示し、TD=3.85m,D=3.25mではN42E14SEを示す。北東壁のTD=3.6m,D=4.55mではN13E14SEを示し、南東壁のTD=4.1m,D=4.1mではN26E48SEを示す。
f−2断層は南西壁のTD=2.2m,D=4mからTD=4.35m,D=2.1mと、北東壁のTD=2.05m,D=3.95mからTD=3.65m,D=2.35mと、南東壁のTD=2.65m,D=3.95mからTD=4.4m,D=4mにかけて分布する。f−2断層は概ね上盤側の地層と下盤側の地層の境界に一致する。南西壁では上盤側のK層とJ層がf−2断層により下盤側のF層、E層およびD層に衝上している。一方、北東壁ではF層中で消滅する。南東壁ではほぼf−1断層と会合している。断層面の走向傾斜は南東壁のTD=2.7m,D=3.45mでN50E69SEを示し、北東壁のTD=2.9m,D=2.7mでN7W33SWを示す。
f−3断層は南西壁のTD=2m,D=3.2mからTD=4m,D=2.25mと、北東壁のTD=1.95m,D=3.7mからTD=2.15m,D=3.1mと、南東壁のTD=2.5m,D=3.7mからTD=4.9m,D=3.2mにかけて分布する。f−3断層は大部分が上盤側のK層中に分布し、前縁部ではf−2断層と会合する。断層面の走向傾斜は南西壁のTD=2.3m,D=3.05mでN48E48SEを示し、北東壁のTD=1.95m,D=3.35mでN12W41SWを示し、南東壁のTD=3.3m,D=3.65mでN1E48SEを示す。
f−4断層は南西壁のTD=1.8m,D=2.75mからTD=3.25m,D=1.65mと、北東壁のTD=1.8m,D=3.35mからTD=3.2m,D=2.3mと、南東壁のTD=2.4m,D=3.5mからTD=5.05m,D=4.75mにかけて分布する。f−4断層は上盤側の地層中に分布する。南西壁ではK層、J層、I層、H層を切っている。当断層によるK層の変位量は不明であるが、J層とI層とH層の変位量は10〜20cmである。北東壁では上盤側のK層がf−2断層により下盤側のF層、E層およびD層に衝上している。南東壁では一部はK層とL層の境界に分布し、一部はL層中に分布する。断層面の走向傾斜は南西壁のTD=2.6m,D=2.1mでN11E50SEを示し、北東壁のTD=2.25m,D=2.9mでN32E50SEを示し、南東壁のTD=4.75m,D=2.8mでN9E42SEを示す。
トレンチにおける断層の変位量は、断層下盤側に分布するF層の下限が概ねトレンチの底盤ないし底盤直下に分布し、上盤側ではI層の上位に想定されるので、F層下限面で3m以上の鉛直変位量が見積もられる。また、断層上盤側のH層は、14C年代および層相から下盤側のC層,D層,E層に対比され、H層下限面とE層下限面との間に1.0〜1.5mの鉛直変位量が認められる。
最新活動時期はH層堆積後B層堆積前(6,590yBP〜2,250yBP)であると判断される。
(c)14C年代,火山灰分析および地層の変位量
ET−1トレンチから得られた14C年代,火山灰分析および地層の変位量を表3−3−4に示す。
火山灰分析結果を図3−3−11−1、図3−3−11−2、図3−3−11−3に示す。