@地形
当地点の地形を概観すると,北東−南西方向の屏風山断層を挟んで南東側が起伏量の大きい山地からなり,北西側が起伏の小さい丘陵地からなる。地質分布との関連は,起伏量の大きい山地には花崗岩や濃飛流紋岩が分布し,起伏量の小さい丘陵地側には土石流堆積層が分布し土石流堆積面を形成している。主要な河川は屏風山断層に直交するように山地から丘陵地に向けて南東から北西に流下する。
現河床からの比高や地形面の開析程度および堆積物との対比から,土石流堆積面は古いものから順にF1面〜F7面に7区分され,F1面はfdT層を堆積層とする地形面,F2面はfdU層を堆積層とする地形面,F3面はfdV層を堆積層とする地形面,F4面はfdW層を堆積層とする地形面,F5面はfdX層を堆積層とする地形面,F6面はfdY層を堆積層とする地形面,F7面はfdZ層を堆積層とする地形面である。F1面〜F6面の各土石流堆積面は”3−1−2 空中写真判読”で述べた地形面に対応し,F7面は現河床を構成する地形面である。各土石流堆積面の現河床からの比高は表3−1−4−1の地質層序表に地層名毎に併記した。
A地質
当地点の基盤地質は濃飛流紋岩類,領家花崗岩類からなり,第四系の土石流堆積層と崖錐堆積層がこれらの基盤岩類を覆って分布する(表3−1−4−1)。土石流堆積層は古いものから順にfdT層〜fdZ層に7区分され,概ね屏風山断層の北西側に分布するが,一部屏風山断層を横断して屏風山断層の南東側にも分布する。
当地点では屏風山断層はほぼ北東−南西方向の高角度逆断層で,領家花崗岩(一部濃飛流紋岩)と土石流堆積層Tを境する断層として位置づけられる[付図2−1,図3−1−4−1,図3−1−4−2]。
以下に当地点に分布する各地層について分布や岩相・層相などの特徴を述べる。
(@)濃飛流紋岩(Nr)
濃飛流紋岩は領家花崗岩とともに屏風山断層南東に分布し,花崗岩とは指交するように分布する。流紋岩および流紋岩質溶結凝灰岩からなり,径2〜5mmの石英の斑晶を特徴とする。
(A)領家花崗岩(Gr)
領家花崗岩は屏風山断層南東に広く分布する。岩相は一般に粗粒な黒雲母花崗岩および黒雲母角閃石花崗岩で,地表や断層周辺ではマサ化していることが多い(写真4)。
(B)土石流堆積層
土石流堆積層は,堆積物の性状,堆積面の現河床からの比高や地形面の開析程度から,古いものから順にfdT層〜fdZ層に7区分され,F1面〜F7面の各地形面に対比される。
(a)土石流堆積層T(fdT)
土石流堆積層Tは調査地の屏風山断層前縁北東側にF1面の構成層として分布する。地形面分布から,調査地の中央部付近で屏風山断層南西部にも分布すると想定される。
層相はクサリ礫化した花崗岩や流紋岩の角礫を多く含む礫層で,マトリックスは灰色を呈する淘汰の悪い砂および泥からなりやや締まっている(写真14)。礫径は径数cm〜数10cmのものが多く,径2〜3mのものを含むこともある。流紋岩に比べ花崗岩のほうがクサリ礫化が進行しており,マトリックスとの境界が不明瞭となることもある。屏風山断層前縁で本層の基底を確認できないため,層厚は不明であるが35m以上の層厚を有する。
本層の堆積面であるF1面の現河床からの比高は20〜35mである。本層は層相と広域的な堆積面の対比から高位段丘に相当すると想定される。
(b)土石流堆積層U(fdU)
土石流堆積層Uは調査地の南西半部に広く分布するほか,一部調査地北東部にも分布し,本層は複数地点で屏風山断層を横断して分布する。
層相は花崗岩や流紋岩の角礫を含む礫層で,マトリックスは淘汰の悪い褐色の砂および泥からなる(写真15)。礫径は径数cm〜数10cmで,礫の一部はクサリ礫化している。本層の層厚は5〜30mと想定される。
本層の堆積面であるF2面の現河床からの比高は5〜30mである。本層は層相と広域的な堆積面の対比から中位段丘に相当すると想定される。
(c)土石流堆積層V(fdV)
土石流堆積層Vは調査地の南西部にわずかに分布する。堆積物は未確認であるが,地形面分布から本層を区分した。本層は屏風山断層を横断して分布する。
本層の堆積面であるF3面の現河床からの比高は0〜5mである。F3面の浸食は進んでおらずF3面上にfdZ層が覆って分布する。F3面の北東側は浸食が進み,F3面を切ってF6面,F7面が発達し,現河床までの比高は5m程度である。本層は層相と広域的な堆積面の対比から中位段丘に相当すると想定される。
(d)土石流堆積層W(fdW)
土石流堆積層Wは調査範囲で最も規模の大きな調査地中央部の沢地形に沿って幅100〜150mの規模で分布する。本層は屏風山断層を横断して分布する。
層相は花崗岩や流紋岩の角礫を含む礫層で,マトリックスは淘汰の悪い褐色の砂および泥からなる。礫径は径数cm〜数10cmのものが多く,径2〜3mのものを含むこともある。一部に砂層やシルト層を挟むことがある(写真16)。本層の層厚は2〜10mである。
本層の堆積面であるF4面上には径数10cm〜3mの巨礫が多くみられる(写真17)。F4面の現河床からの比高は5〜15mである。本層は層相と広域的な堆積面の対比から中位段丘に相当すると想定される。
(e)土石流堆積層X(fdX)
土石流堆積層Xは調査地北東部で花崗岩やfdT層を浸食し,幅200〜400mの規模の谷底低地を形成して分布している。そのほか,調査地南西部に小規模な分布が認められる。
層相は径数cm〜数10cmの花崗岩や流紋岩の角礫を含む礫層で,マトリックスは淘汰の悪い褐色の砂および泥を主体とするが,腐植土層や砂層およびシルト層を挟むことがある(写真18)。
本層の堆積面であるF5面の現河床からの比高は2〜5mである。本層は層相と広域的な堆積面の対比から低位段丘に相当すると想定される。
(f)土石流堆積層Y(fdY)
土石流堆積層Yは調査地の各沢筋に沿って小分布する。本層の堆積物は未確認である。本層の堆積面であるFY面の現河床からの比高は2〜3mである。本層は広域的な堆積面の対比から低位段丘に相当すると想定される。
(g)土石流堆積層Z(fdZ)
土石流堆積層Zは沢底部に分布する現河床堆積物で,各沢筋に沿って分布する。径数cm〜数10cmの角礫を含む礫層からなる(写真19)。
(C)崖錐堆積層(dt)
崖錐堆積層は浸食などによる急崖下部に崩壊や落石による堆積物であり,調査地各所に散在的に小分布する。本層は花崗岩と流紋岩分布域に分布し,土石流堆積層分布域には分布しない。
B断層および破砕帯
調査地にはBY−33〜BY−40の8箇所で断層および破砕帯を確認した。各断層および破砕帯の観察結果は断層露頭観察カードとして巻末に付した。そのうちBY−35断層露頭は花崗岩と土石流堆積層Tを境する断層露頭で,屏風山断層の主断層露頭である。BY−35断層露頭以外は基盤岩中の破砕帯で,花崗岩や流紋岩中あるいは花崗岩と流紋岩の境界に位置し,分布位置や規模などから屏風山断層本体ではないと判断される。以下にBY−35断層露頭について,周辺の地形・地質と断層の性状について記述する。
(@)BY−35断層露頭周辺の地形・地質
BY−35断層露頭は屏風山断層を横断する方向に北西に流下する沢の右支沢(ほぼ屏風山断層破砕帯に沿う長さ約60mの沢)に位置する(図3−1−4−1,図3−1−4−3)。本断層露頭より南東では花崗岩露頭がほぼ連続的に分布し,本断層より南東約100m区間の花崗岩中には幅1cm〜数10cmの破砕帯が多く分布する。本断層露頭より北西では土石流堆積層Tが断続的に分布する。
本断層露頭の北東側は屏風山断層に沿って遷緩線が連続し,遷緩線の前縁にはF1面が分布し,遷緩線の背後側はやや急峻な山地地形となる。本露頭の南西側はF4面が広がりF4面に変位地形は認められない。
(A)BY−35断層露頭
BY−35断層露頭は花崗岩と土石流堆積層Tを境する断層露頭で,花崗岩と土石流堆積層Tは幅約5mの花崗岩起源の断層ガウジを介して明瞭な断層面で接する(図3−1−4−4,図3−1−4−5,写真20)。図3−1−4−4にBY−35断層露頭スケッチを示し,図3−1−4−5にBY−35断層露頭地質断面図を示す。
主断層面(BY−35(1))の走向傾斜はN43E87SEで,屏風山断層の全体の方向性と調和的である。主断層による土石流堆積層Tの鉛直変位量は35m以上と見積もられる。花崗岩は緑色粘土を挟むことがあるもののほとんど破砕されていない非破砕岩である。断層ガウジは濃緑色を呈する粘土物質からなり,径数mm〜5cmの花崗岩の岩片を包有する。土石流堆積層Tは径数mm〜20cmのクサリ礫化した角礫を含む礫層で,マトリックスは淡褐色粗砂〜シルトからなりやや締まっている。礫種は濃飛流紋岩が90%以上でそのほかは花崗岩である。クサリ礫化が進んでいるため礫とマトリックスの境界は不明瞭であることが多い。
主断層の前縁の土石流堆積層T中には副断層(BY−35(2))が分布する。さらに主断層と副断層を切るように土石流堆積層T中に断層ガウジ起源の濃緑色粘土(BY−35(3))が分布する(写真21,写真22)。この粘土層はうねりながらも,ほぼ低角度の衝上断層様の分布を示す。ただし,上盤側にも下盤側と同じ土石流堆積層が分布し,花崗岩が衝上した事象は認められない。従って,この粘土層は,花崗岩と土石流堆積層Tが,主断層面(BY−35(1))で変位した後,地すべり作用により形成されたものである可能性が高い。
C変位地形
当地点では,F2面,F3面で低断層崖や撓曲崖などの断層変位地形が認められ,F4面,F5面,F6面,F7面では断層変位地形が認められない。F2面やF3面に分布する断層変位地形は地質分布から想定される屏風山断層の通過位置や方向性と一致する。F2面の鉛直変位量は調査地北東部で5〜6m(写真24),調査地南西部で2〜6mであり(写真25,写真26),F3面の鉛直変位量は2〜3m(写真27)である。F1面が花崗岩からなる山地と遷緩線で接し,山側に直接対比できるF1面の分布が認められない(写真23)。
上記事象から,当地点において屏風山断層は累積的に活動した可能性がある。