屏風山断層は東濃丘陵と美濃三河高原の境界部に位置し,断層前縁部に上記の地形面が広く分布する。恵那山断層は美濃三河高原中の岩村盆地などの山間盆地の南縁部に位置し,断層前縁部に上記の地形面が広く分布する。第四紀後期の地形面は屏風山断層や恵那山断層前縁部の東濃丘陵や山間盆地中に発達することから,本報告では,屏風山断層周辺および恵那山断層周辺についてそれぞれ地形面の分布や特徴を述べる。
(@)屏風山断層周辺
屏風山断層では断層前縁部にあたる北西側に土石流堆積面や段丘面が分布し,断層南東側は急峻な山地からなる。特に,屏風山断層北東部の恵那盆地では,ほぼ全域に段丘面や土石流堆積面など第四紀後期の地形面が発達する。屏風山断層南東の山頂部には断続的に小起伏面(土岐面)が分布する(図3−1−2−1,図3−1−2−2)。図3−1−2−5,図3−1−2−6,図3−1−2−7に中津川,阿木川,落合川および湯舟沢川沿いの段丘面の比高対比図を示す。
(a)低地
@現河床面(a)
現河床面は,小里川,佐々良木川,永田川,阿木川,飯沼川,中津川,湯舟沢川などの主要河川やそのほかの小規模な河川の谷底部に分布する。
(b)段丘面
@低位段丘面3(L3)
L3面は小里川,佐々良木川,阿木川,中津川,湯舟沢川流域に分布する。分布幅は各河川に沿って100〜500mで,現河床からの比高は5〜10mである。
A低位段丘面2(L2)
L2面は小里川,阿木川,飯沼川,温川および湯舟沢川流域に分布する。分布幅は各河川に沿って数100mである。阿木川では主に左岸側に分布する。飯沼川では面の傾斜角度がやや急で,扇状地的な性格を帯びている。現河床からの比高は5〜10mである。温川沿いでは河床勾配,L2面の傾斜はともに急で,現河床からの比高は約20mに達する。
B低位段丘面1(L1)
L1面は小里川,阿木川,温川流域に分布する。小里川および阿木川では右岸側に幅約500mの規模で分布し,現河床からの比高は10〜25mである。温川沿いでは河床勾配,L1面の傾斜はともに急で,現河床からの比高は約40mに達する。
C中位段丘面3(M3)
M3面は恵那盆地の中津川沿いおよび木曽川沿いに分布するほか,恵那市三郷町佐々良木の佐々良木川沿いに小規模な分布が認められる。中津川左岸の中津川市手賀野では幅400〜700mのM3面が最もよく発達する。現河床からの比高は中津川で約20m,木曽川で約30m,佐々良木川沿いで約20mである。
D中位段丘面2(M2)
M2面は恵那盆地の中津川および四つ目川沿いに分布するほか,湯舟沢川沿い,佐々良木川沿い,小里川沿いに小規模な分布が認められる。中津川市松田〜上金に分布するM2面は四つ目川と地蔵堂川による段丘面で,面の傾斜が急で扇状地的な分布形態をなす。現河床からの比高は中津川で30〜35m,四つ目川で10〜40m,湯舟沢川で30〜35m,佐々良木川で約30m,小里川で30〜40mである。
E中位段丘面1(M1)
M1面は恵那盆地の中津川左岸,千旦林川左支川,地蔵堂川,湯舟沢川左岸に分布するほか,小里川左岸に分布する。M1面の分布はいずれも幅200m以下の小規模なものが多く,開析が進み分布が断続的であることが多い。湯舟沢川左岸の霧ヶ原に分布するM1面は現河床からの比高は90〜120mで開析が進んでいるが,面の平坦性は残存し,幅500〜700mの面が広く分布する。現河床からの比高は中津川で40〜45m,千旦林川左支川で10〜15m,地蔵堂川で25〜30m,湯舟沢川で90〜120m,小里川で約50mである。
F高位段丘面2(H2)
H2面は恵那盆地東部に分布する。H2面は開析が進み面の平坦性も失われていることが多い。中津川市小向井,尾鳩〜恵下,蕨平,銭亀に分布する。小向井と尾鳩では亜段とみられるH2’面が分布する。分布高度は屏風山断層付近で630〜750mで,恵那盆地の北東側ほど分布標高が高い。分布標高は木曽川に向かって低下し,中津川市子野付近で最低標高の330m程度である。現河床からの比高は中津川で70〜100m,四つ目川で30〜50m,湯舟沢川で50〜260mである。
G高位段丘面1(H1)
H1面は主に阿木川以東の恵那盆地に分布し,阿木川以西では,恵那市永田〜鍋山,恵那市三郷町西組付近にも小規模な分布が認められる。H1面は開析が進み面の平坦性も失われていることが多い。恵那市大井町,中津川市馬見岩平,大平,中屋などではH1’面,H1”面など亜段が分布する。
恵那盆地内では中津川市西山〜岩屋堂にかけて最も広範囲に分布し,恵那市後田,中津川市深沢にも小規模な分布が認められる。恵那盆地のH1面は盆地内の主要河川の流下方向と調和的に北西に傾斜し,木曽川沿いでは木曽川と調和的に西傾斜となる。
(c)土石流堆積面
@土石流堆積面6(F6)
F6面は沢筋に幅数10〜100mの規模で分布する。現河床からの比高は2〜3mである。
A土石流堆積面5(F5)
F5面は屏風山断層前縁の各沢に沿って幅数10〜数100mの規模で分布する。恵那盆地の千旦林川左支川や四つ目川で広く分布し,特に四つ目川に沿ったF5面は扇状地面を形成する。現河床からの比高はおおよそ5m程度である。
B土石流堆積面4(F4)
F4面は主に屏風山断層前縁部の各沢に沿って幅数10〜数100mの規模で分布する。中津川市手賀野付近では,F4面はM3面を覆い,M3面にスムーズに移化することから,F4面はM3面以降ないしほぼ同時期に形成されたと見られる。現河床からの比高は5〜15mであることが多い。
C土石流堆積面3(F3)
F3面は主に屏風山断層前縁部の各沢に沿って幅数10〜数100mの規模で分布する。現河床からの比高は0〜25mである。
D土石流堆積面2(F2)
F2面は恵那盆地の阿木川から中津川にかけての屏風山断層前縁部の各沢に沿って幅数10〜数100mの規模で分布する。中津川市深沢で,M1面を浸食することから,F2面はM1面以降に形成されたと見られる。現河床からの比高は5〜30mである。
E土石流堆積面1(F1)
F1面は恵那盆地の阿木川から中津川にかけての屏風山断層前縁部の各沢に沿って幅数10〜数100mの規模で分布する。開析が進み,地形面の平坦性が失われていることが多い。中津川市小向井で,H2面を浸食することから,F1面はH2面以降に形成されたと見られる。現河床からの比高は20〜35mである。
(d)地すべり・崩壊地形
@沖積錐(ac)
流路長の短い沢出口から低地にかけて分布する。規模は幅数10〜100m程度のものが多いが,阿木川流域では阿木川による段丘面に向けて複数の近接する沢から形成される沖積錐を形成し,やや広範囲に分布する。
A崖錐斜面(dt)
山腹斜面と緩斜面の境界に分布する落石による崖錐斜面と,滑落崖を伴う崩壊による崖錐斜面がある。崖錐斜面のうち,幅や長さが数100mを越える規模のものは,前者は中津川市前鼻の山腹斜面と高位段丘面の境界付近に分布し,後者は中津川市蕨平と中津川市中洗井に分布する。
B地すべり土塊(LS)
瑞浪市瑞陵ゴルフ場付近に幅約1km,長さ約2kmの地すべり地と,幅約400m,長さ約700mの地すべり地が分布する。いずれも地すべり地も開析が進んでいる。
(e)その他
@小起伏面(土岐面)(T)
小起伏面(土岐面)は屏風山断層南東部の山頂部に屏風山断層に沿って断続的に分布する。分布標高は瑞浪市森山牧場で450〜570m,屏風山付近で700〜800m,夕立山付近で600〜670m,東濃共同模範牧場付近で630〜710m,保古山西方で750〜830m,保古山付近で820〜950mである。屏風山断層北西の東濃丘陵内では,恵那市武並町付近の標高350〜400mで土岐面とみられる定高性のある尾根が認められるが,広がりを持った小起伏面は見られない。
(A)恵那山断層周辺
恵那山断層は岩村盆地などの山間盆地南縁に位置し,断層前縁の盆地側に土石流堆積面など第四紀後期の地形面が広く分布し,断層南東は急峻な山地からなる。
(a)低地
@現河床面(a)
現河床面は,妻木川,肥田川,小里川左支川,岩村川左支川,阿木川左支川,などの河川の谷底部に分布する。幅は数10〜200m程度である。
(b)段丘面
@低位段丘面3(L3)
L3面は土岐市曽木町の肥田川,瑞浪市大川〜滝坂にかけての小里川左支川,岩村町岩村付近の岩村川沿いわずかに分布する。現河床からの比高は肥田川沿いで3〜5m,小里川左支川で5〜10mである。
A低位段丘面2(L2)
L2面は土岐市白鳥付近の肥田川沿い,山岡町根通および水口付近の小里川上流部,岩村町岩村付近の岩村川両岸に分布する。岩村町岩村付近に分布するL2面は山地と盆地の境界部を扇頂とする扇状地起源の段丘面である。現河床からの比高は10〜20mである。
B低位段丘面1(L1)
L1面は岩村町岩村付近の岩村川右岸に小規模な分布が見られるのみである。
C中位段丘面3(M3)
M3面は瑞浪市陶町の東濃ゴルフ場付近,山岡町根通,岩村町新市場〜西富に分布する。いずれも幅100m程度の小規模な段丘面で,開析され分布は連続性に乏しい。東濃ゴルフ場付近に分布するM3面は谷頭部に風隙が認められ,猿爪川の旧流路とみられる。岩村町新市場〜西富でもM3面の谷頭部に風隙が認められ,岩村川の旧流路とみられる。現河床からの比高はいずれも20〜30mである。
D中位段丘面2(M2)
恵那山断層周辺にはM2面は分布しない。
E中位段丘面1(M1)
恵那山断層周辺にはM1面は分布しない。
F高位段丘面2(H2)
H2面は中津川市久須田の阿木川左支川の久須田川左岸に分布する。開析され,分布は小規模かつ段丘面の平坦性は失われている。現河床からの比高は40〜50mである。
G高位段丘面1(H1)
H1面は岩村盆地の岩村町中富東方〜西富東方に分布する。H1面とH1’面に細分され,H1面はH1’面より約20m高所に分布する。H1面は定高性のあるやせ尾根が残る程度で,H1’面は幅数10〜200m,長さ約2kmの面が残存している。現河床からの比高はH1’面で40m〜80mである。
(c)土石流堆積面
@土石流堆積面6(F6)
F6面は各沢沿いに幅数10〜200m程度の規模で分布する。現河床からの比高は2〜3mである。
A土石流堆積面5(F5)
F5面は各沢沿いに幅数10〜100m程度の規模で分布する。現河床からの比高は5m程度である。
B土石流堆積面4(F4)
F4面は岩村盆地の岩村町岩村〜中津川市阿木にかけて分布するほかは,分布はごくわずかである。岩村町富田では,F4面は岩村川右支川の扇状地面として発達し,幅100〜800m,長さ約2kmの規模を有する。当地点ではF4面末端部がM3面を覆い,F4面からM3面に漸移的に緩斜面となること,F4面はM3面以降に形成されたとみられる。中津川市阿木では,F4面は幅約2km,長さ約1kmにわたり阿木川右支川や飯沼川左支川による複合扇状地面を形成している。現河床からの比高は10〜15mである。
C土石流堆積面3(F3)
F3面は岩村盆地の岩村町岩村〜中津川市阿木にかけて断続的に分布する。現河床からの比高10〜20mの土石流段丘面を形成している。
D土石流堆積面2(F2)
F2面は岩村盆地の中津川市阿木に阿木川右支川や飯沼川左支川による段丘化した複合扇状地面として分布するほかは,岩村町大円寺,岩村,水口にごく小規模に分布する。現河床からの比高は15〜25mである。
E土石流堆積面1(F1)
恵那山断層周辺にはF1面は分布しない。
(d)地すべり・崩壊地形
@沖積錐(ac)
流路長の短い沢出口から低地にかけて分布する。規模は幅数10〜100m程度のものが多い。
A崖錐斜面(dt)
山腹斜面や比高の高い段丘崖など急斜面に崩壊・落石による形成されている。分布は小規模で散在的である。
B地すべり土塊(LS)
幅100〜200m,長さ約300mの地すべり地形が数カ所認められる。
(e)その他
@小起伏面(土岐面)(T)
恵那山断層周辺の判読範囲には,土岐面と見られる小起伏面は見られない。