(2)花粉化石群集の記載と考察

分析した2試料のうち、深度43.35〜43.43mからは比較的多くの花粉が産出したが、深度104.35〜104.45mからは花粉化石が得られなかった。深度43.35〜43.43m試料の花粉化石のリストとその個数を表6−3に、花粉分布図を図6−4に示す。出現率は、樹木花粉は樹木花粉総数、草本花粉・胞子は総花粉胞子個数を基数として百分率で算出した。図表で複数の分類群をハイフォンで結んだものは、分類群間の区別が明確でないものである。なお、深度104.35〜104.45mは処理後の残渣もほとんど残らないことから、洪水等により急速に堆積したものと推定される。

深度43.35〜43.43mにおいては、ハンノキ属(Alnus)が高率に占め、針葉樹林のスギ−ヒノキ科(Cryptomeria japonica)、コウヤマキ属(Sciadopitys)、イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科(Taxaceae−Cupressaceae−Cephalotaxaceae)、トウヒ属(Picea)、ツガ属(Tsuga)が比較的高率に占め、ハンノキ属を除く広葉樹は稀であ る。また、カヤツリグサ科(Cyperaceae)が多産し、タニキモ属(Utricularia)、ミズユキノシタ属(Ludwigia)などの水生植物やミズゴケ属(Sphagnum)を伴う。

このように、この試料では温帯針葉樹のスギ・コウヤマキ属・イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科が比較的多く占め、ツガ属及びトウヒ属などの針葉樹を伴うこと及び暖温帯林要素を伴わないことから、冷涼で湿潤な環境にあったものと推定される。また、低地ではカヤツリグサ科を主とし、ミズユキノシタ属やガヌキモ属を伴う湿地が形成され、ハンノキ湿地林も広がっていたとみられる。

一方、1試料と極めて少ない資料であることから、正確な層序対比はできないが以下の可能性が指摘できる。すなわち、この試料は、スギやコウヤマキ属などからなり、アカガシ亜属(Cyclobalanopsis)及びサルスベリ属(Lagerstroemia)などの暖温帯林要素を伴わない特徴から熱田層上部(濃尾平野第四系研究グループ、 1977;吉野ほか、1980)に対比される可能性がある。しかしながら、試料が少ないことから断定はできない。

表6−3 深度 43.35〜43.43mの試料から出現した花粉化石の組成表

図6−4 花粉分析図

写真6−1 深度43.35〜43.43mの試料から出現した花粉化石