6−5−4 桑折町睦合中型ピット

1)調査目的

 睦合におけるピットAの実施位置は、大型ピット@の西側に連続する断層想定位置にあたる(図6−7)。ここでは、地層の撓曲もしくは撓曲の形成に伴う断層の確認を目的として、崖地形を横断する形でピット掘削を行なった。

2)調査方法および経過

 調査地点ピット@と同様に空中写真の判読ならびに地表踏査の結果から、桑折断層が低位段丘面に変形を与え、この変形が連続することが明瞭な段丘面上をピット計画地とした。ピットの規模は長さ6m(最長部),幅3m,深さ2.5m(最大)とした。ピット掘削では搬入路が狭いことから小型バックホーにて掘削を行ない、人力にて法面の整形を行なった。果樹園内であり樹間を利用してのピットで用地幅が十分でないこと、地層変形の累積性を確認するためにはより深い掘削が必要と判断したため法面はほぼ垂直なものとなった。

 掘削・整形後、ピット内に水平を測定し基準線をもうけた。グリッドの設定はこれを基準として行なった。ピット東端が暗渠溝の排水口が位置しており通常時の出水はわずかであったが、降雨には多量の水がピットに流れ込むためポンプ設置を行なった。また、掘削土の流出を避けるためこれををシートで覆い、法面の凍結・融解に対する保護としてピット上部に屋根上のシート設置を行なった。

3)層序の記載

 ピット内に見られる地層をA層(盛土・現世耕作土),B層(砂礫層),C層(シルト・砂互層),D層(シルトおよび砂礫層),E層(塊状シルト層)に区分した。

・A層

 ピット上部に層厚1〜1.5mで見られる礫混じり砂質シルト層。植物根を多量に含んでおり、黒褐色の表層土壌層を除けば不淘汰・無層理の地層であり、ピットを横断する形で見られる凹地(水路跡?)を埋積しており、人工改変による盛土の可能性が高い。この層の最下部付近には縄文期の土器片が数多く産出している。

・B層

 A層に覆われ、下位層を削り込む砂礫層である。礫径は3〜40mmで比較的淘汰が良く亜円〜円礫が主体となっている。葉理を持つ細粒砂層を挟む部分も見られる。固結は比較的よいが、ピット東側では不淘汰でやや軟弱な礫混じりシルト層に漸移する。この下位に見られる青灰色シルト〜粗粒砂層は下部に100mmを超える礫を含み、下位層を削り込んだ凹地を埋積している。

・C層

 層厚20〜30cmで、上部はシルト・細粒砂の互層となっている。単層の厚さは1〜2cm前後である。下部は淘汰の良い細礫層となっている。

・D層

上部はピット法面にほぼ連続して見られる暗灰色〜灰色の腐植質シルト層である。細上部は腐植化が進んでいる。層厚は40〜50cmで下部の礫層に漸移する。下部の砂礫層は礫径3〜50mmの亜角〜亜円礫が多い。礫層上部と中部に酸化による帯が連続している。

・E層

灰白〜青灰色の塊状シルト層で細礫が点在する。

4)断層および構造の記載

 ピットに見られる地層は、全体に東に向かって緩やかに傾斜している。特に堆積時にはほぼ水平であったと考えられるC層上部の砂・シルト互層、B層上部のシルト層(腐植層)の傾きはこれらの地層が撓曲による変形を受けている可能性があり、より下位の地層ほど地層の傾斜が急になる傾向がうかがえる。

 南側法面の(2.30m,−1.60m)付近から(2.30m,−2.00m)にかけてはC層に乱れがあり、礫層中にはシルト層が脈状に充填されている。これは、C層中に起こった噴砂現象であると考えられる。しかし、上位のB層はC層上位の互層に対応して変形しているが、B層の礫層中には脈状のシルト充填は見られない。

5)考察

B,C層およびD層状面の傾斜は撓曲によるる地層の変形と考えられる。ピット内には断層面は確認されない。また、南側法面のB層中に確認された小規模な噴砂現象は直接断層活動の履歴を明らかにするものではないが、この地区でも断層による地層の変形が起こっている可能性を示唆するものである。