(1)調査結果

本地区は、この断層系の名前が由来している西山(標高644.6m)の北北西側の低地部に位置する。文献@、Aでは明瞭な東落ちの低断層崖(3〜5m)が連続して認められるとされている

図2−4−4−1に調査地点位置図を示す。本地区では電気探査(比抵抗映像法)と、ボーリング調査を実施した。

1 地 形 調 査

図2−4−4−2に本地区の地形区分図を、図2−4−4−4に地形・地質断面図を示す。

本地区は、南方の山地から北西方向へ流下する西郷川沿いの幅約500mの細長い低地部にあたり、南西側と北東側は丘陵性の山地となっている。西郷川は、当地区の北端で流下方向を西側へ変えるが、その北方にも同様の低地が連続している。西山断層系はこの低地に沿って延びていると推定されており、この低地部はやや浅いものの、断層谷とみることができる。西郷川沿いに分布する段丘面は他地域と同様に、高位・中位・低位の3つに区分される。現河床からの比高はそれぞれ15〜18m、8〜12m、4〜5mで概ね現河床と同様の勾配(2/100〜4/100程度)で北へ傾斜している。高位面は谷の両側の山麓に近い位置に、中位面はそれよりも内側に分布しているが、分布は谷の南西側に偏っている。低位面は谷の中央付近から北東側にかけて広く分布している。このうち、低位面については後述の構成層との関係が明瞭でなく、かなり新しい堆積物もこの面の上に分布しているようであり、その下位には古い堆積物も確認されている。おそらく、一部では浸食面としての性格が強いと思われる。谷の中央付近に中位・低位の段丘面を境する比高3〜5mの低崖が西山断層系の走向と同じく北西−南東方向へ直線状に延びている(写真2−4−4−1写真2−4−4−2)。

この崖は一部浸食や人為的改変を受けているが、その直線性からみて、断層崖の性格を有していると推定される。ボーリング調査はこの崖を挟んで実施した。

2 表層地質調査

地表地質踏査結果を図2−4−4−3の表層地質図にまとめた。

本地区には、基盤をなす花崗閃緑岩を覆って、第四系が段丘構成層として分布している。前述したリニアメントをなす直線崖の西側には半クサリ礫層からなる中期段丘礫層が分布しており、東側ではこの礫層を新しい堆積物が覆っている。また、谷の南西側の納骨堂のある丘や南部の標高75〜90m付近の緩斜面部には、赤褐色を呈し、クサリ礫を主体とする古期段丘礫層が分布する。断層露頭としては、本地区の北西側の崖において古期段丘礫層と花崗岩が断層によって境されている状況が見られる。ただし、この断層は走向N28゜E、傾斜65゜SEで、西山断層系の伸びの方向とは斜交している(図2−4−4−3のA地点、写真2−4−4−3)。このほか、本地区南方の上記の低崖の延長部に近い切土法面で、基盤の花崗閃緑岩中に走向が南北に近い小断層が密集している状況が確認された(写真2−4−4−4)。

3 比抵抗映像法電気探査結果

電気探査は、本木地区高太郎池東側で前述の低崖を横断するA測線とこれに平行北西方に隣接し、現地で崖地形が見られない道路沿いのB測線(各々延長100m、距離間隔1m)の2本の測線を設けて実施した。調査結果を図2−4−4−6−1に示す。本地区の地盤の比抵抗値は、概ね160Ω・m以下であまり高くない。A測線の

崖地形箇所を除く箇所では、表層付近に厚さ1m程度の相対的に低い比抵抗値(100Ω・m以下、色調:緑〜紺)の部分が、その下位に厚さ1〜2mのやや高い比抵抗値(100Ω・m、色調:黄〜赤)の部分が分布している。後述するボーリン土の下位の砂ないし砂礫を主体とする盛土に相当すると考えられる。一方、道路沿いのB測線の距離0〜50m付近の間では、A測線ほど明瞭に表層付近に高比抵抗部は見られない。これらの下位に分布する花崗岩を主体とする基盤岩に対応する箇所で、水平方向に比抵抗が変化し、断層の存在が示唆される箇所は次の箇所である。

@A測線の距離46〜52m付近

:深度6m以深で比抵抗値60〜80Ω・m、(色調:青〜緑)程度の部分を境界として起点側が相対的に高く、終点側は低い比抵抗分布となった。

AB測線の距離45〜50m付近

:@ほど明瞭な境界ではないが、同様に起点側が高比抵抗部、終点側が低比抵抗部となっている。

BA測線の距離80〜90m付近

:起点側は相対的に低比抵抗部(60〜80Ω・m以下)、終点側は高比抵抗部となっている。

CB測線の距離80〜90m付近

:Bほど明瞭ではないが、同様の変化が読みとれる。

このうち@とAは、地形的な低崖の位置とほぼ一致しており、断層の存在を示唆していると思われる。B、Cについても断層の存在を示唆している可能性があるが、地形的には特徴づけられず、現段階ではここに断層が存在する可能性を支持するデータは得られていない。後述するボーリング結果によれば、基盤岩の岩種はbQとbSで花崗岩、bRで細粒花崗岩とやや異なる。この関係が貫入関係か断層接触関係かは不明であるが岩種の相違も比抵抗値の変化に関与している可能性がある。

4 ボーリング調査

ボーリング結果は柱状図・コア写真として巻末資料中に収めた。

図2−4−4−4図2−4−4−5図2−4−4−6−2に、ボーリング結果をもとに作成した地質断面図を示す。ボーリングでは北側のbR、4、5孔を除き、基盤岩をなす花崗岩ないし花崗閃緑岩を覆って段丘礫層が分布している状況が確認された。段丘礫層はいずれも褐色〜褐灰色を呈し、含まれる礫は半クサリの状態であることが多い。礫種は花崗岩類、結晶片岩等様々で、礫径とともに地点による相違は認められない。基質は、北側のbP,2孔では砂質、南側のbU,7孔では粘土質である。この結果から見て、礫層はいずれも中期段丘構成層に相当すると判断され、低断層崖の可能性のある崖の両側(bV、8孔)でも層相に有為な差は見られない。この礫層の上位には人為的な盛土・水田床土ないし沖積層※が分布している。崖を横断する各断層面での地質分布をもとに上記の低崖付近に断層が存在したと想定した場合の断層の性格づけを検討すると、断面(3)では、崖の高さが4.2mであるのに対して、崖の両側での基盤岩上限の高度差は1.3mとかなり小さい。このことから見て、崖の部分に断層が存在したとしても、その変位量は中期段丘礫層堆積後、現在まで上下方向に1.3m程度であり、残りの2.9m分の高度差は河川による浸食で生じたと推定される。崖の北東側のボーリングbT孔で基礎を沖積層が直接基盤を覆っていることも、この推論を支持する。

一方、南側の断面(4)では、現在見られる崖は、人為的に後退していると推定されるので、北側の崖の延長部を挟んでボーリングを行ったが、その結果から見て、断層が想定される位置での基盤岩上限の高度差は、基盤岩の上限が東へ向かって緩く傾斜していることを考慮すると、1〜1.5m程度となることが推定される。また、北側の断面(1)では、基盤岩の上に直接盛土が分布していることから見て、人為的改変が著しいと判断されるが、低崖の比高は約1mである。崖の両側の基盤岩上面の比高は、4−4−1に示したように約1.8mで崖の比高より大きく、人為的改変は主として基盤上限の高度差を縮小する方向で働いたと見ることができる。このように考えると、基盤上面の約1.8mの高度差は、存在すると想定した場合の断層の上下方向変位量として有意と思われる。

※地層対比についての資料が得られていないため、新しい堆積物として“沖積層”と呼称しておく。前出の地形面区分では、この新しい堆積物が残っている面を低位段丘面としている。この面の広がりや現河床からの比高等からみて、この堆積物が後期更新統である可能性はある。または、氾濫時に一時的にこの面を覆った真の“沖積層”であるかもしれない。

ただし、断面(1)、(3)では、(4)のように基盤上限面のが元来の傾斜を想定していない。この点を考慮すると、断面(1)、(3)から求めた1.8m、1.3mという中位面形成後の断層変位想定量は最大値と見るべきであろう。

表2−4−4−1  ボーリング調査結果における基盤岩上面の標高差

※は地質断面図(5)、(6)から推定した値である。