本地区では、断層は調査地北方の西東付近から道路に沿って南へ延び、直線状の山麓線がリニアメントをなしている。図2−4−2−1に調査地点位置図を示す。
本地区では、電気探査(比抵抗映像法)とトレンチ調査を実施した。
1 地 形 調 査
図2−4−2−2に地形区分図を示す。本地区では、現在耕地整理が進行しており、旧地形の改変が著しく、昭和20年代の空中写真で判読した地形が消失している部分も多い。図2−4−2−2及び後出の図2−4−2−3は、旧地形で表現した。本地区は、大局的に東側の丘陵ないし山地部と西側の平地部に区分され、高位段丘面、中位段丘面、低位段丘面、沖積面が識別される。高位段丘面は丘陵地外縁及び西方へ向かう河道沿いに分布し、西方へ向かって分布高度が徐々に低下して、沖積面下に埋没する。中位段丘面は山麓のごく一部に分布している。低位段丘面は丘陵から流下する河道沿いに扇状地に広がっている。沖積面からの比高は1〜4mである。沖積面は河道沿いに分布しており、西側の海岸低地へと連続している。調査地北部から南へ延びる直線状の山麓線がみられ(写真2−4−2−1)、断層の存在を示唆するリニアメントとなっている。この線があんずの里公園へ入る部分は、旧地形では直線状の谷となっている(写真2−4−2−2)。このリニアメントが山地に入る手前には、低位段丘面上に比高1m程度の低断層崖、尾根筋の鞍部の連続がリニアメントとして認められる。
また、このリニアメントの西側では、尾根筋を切る細長い凹地が直線状に延び、その南の中位及び低位段丘面上低断層崖とともにリニアメントをなしている。この線上の低位段丘面上でもトレンチ調査を実施した(奴山地区トレンチ、4−3節参照)。
2 表層地質調査
図2−4−2−3に調査地付近の表層地質図を、図2−4−2−4、図2−4−2−5に地質断面図を示す。トレンチ箇所表層部には新期段丘礫層が分布するが、運動公園から西側の国道付近にかけては、低い標高位置にまで半クサレ礫〜クサレ礫からなる古期段丘礫層が広く分布している。
・地 質 分 布
本地域の基盤は、火山性角礫岩を主体とする白亜系の関門層群からなる。表層付近では風化を強く受け軟質化している(写真2−4−2−3)。これを覆う第四系は、古期・中期・新期の各段丘構成層と沖積低地堆積層からなる。第四系は、基盤岩由来の礫を含む砂礫ないし礫混り粘土を主体とし、砂層やシルト〜粘土層を挟んでいる(写真2−4−2−4)。古い地層程強く風化を受けて赤色化が進んでおり、古期段丘構成層はクサリ礫を主体として赤褐色を呈し、中期段丘構成層は半クサリ礫を主体として褐色〜灰褐色を呈し、新期段丘構成層は比較的硬質な礫を主体としている。
・地 質 構 造
基盤の関門層群と第四系は不整合関係で接しており、両者の境界は東側の山地部から西側の低地部に向かって徐々に高度が下がっている。
断 層
図2−4−2−3に示す前述のリニアメント沿いの地点Aで断層露頭※が確認された(写真2−4−2−5参照)。この断層は、走向N30゜W、傾斜80゜NEで、ほぼリニアメントと同じ方向である。断層沿いに白色の軟質な粘土(幅10p以下)を伴っている。断層沿いに基盤の関門層群(火山角礫岩層主体)の赤色風化部がひきずりこまれており、風化部の相対的な位置関係からみて、上下方向で見ると山側(北東側)が落ちていると判断される。また、山側の落ち込んだ赤色風化部の形状から見て、単純な上下方向の変位のみでなく横方向にも変位を受けていると推定される。このことは周辺に左横ずれを示す小断層が発達することからも示唆される。また、この延長部では、断層を挟んで関門層群と谷沿いに分布する新期(?)礫層が接しており、これを水田の床土と思われる砂質粘土層※※が覆っている状況が見られた(写真2−4−2−6)。
この他、リニアメントの北方延長部の国道沿いで逆断層の可能性のある露頭が2ヶ所で見出されたが、露頭条件が悪いため、的確な評価はできなかった。
※この露頭は、後述のトレンチ位置から東方へ 70〜100mの位置にあり、確認された断層は同じものと判断される。ただし、この露頭はトレンチ調査終了後に土地造成によって出現したものであり、この結果をトレンチ調査に反映させることはできなかった。
※※この層は、後述する奴山地区のトレンチで出現した遺物包含層に類似している(下山委員のご教示による)。
3 比抵抗映像方電気探査結果
電気探査はあんずの里運動公園の南側に北東から南西へ延びる谷部に展開した測線(延長140m、測定間隔1m)で実施した。
調査結果を図2−4−2−6に示す。
本地区の地盤の比抵抗値は、概ね110Ω・m以下とかなり低い。後述するトレンチ調査結果からみると、トレンチ区間の表層の深度2m以浅は、砂質粘土あるいは砂礫層より構成されている。この部分の比抵抗は70Ω・m以下であるが、距離0〜33m間の比抵抗は、33mから終点側に比べてやや小さくなっている。その下位に出現すると予想される関門層群の比抵抗分布は、測線の0〜33m間で低比抵抗(80Ω・m以下、色調:緑〜紺)、33〜140m間で高比抵抗(80Ω・m以上、色調:黄〜赤)となっている。断層周辺では水平方向に比抵抗値が変化すると想定すると、図2−4−2−6の比抵抗分布断面図では次の箇所が断層が存在する可能性のある箇所として抽出される。
@ 距離20m付近
:深度5m付近の終点側に、起振点側より相対的に低い比抵抗を示す領域が存在する。
A 距離33m付近
:深度3m付近では、起点側より終点側が相対的に低い比抵抗を示しているが、深度5m以深では起点側より相対的に高い比抵抗となっている。
B 距離70〜80m付近
:地表付近では周辺より低い比抵抗部(80Ω・m以下、色調:緑)が距離70m付近に存在し、深度6〜14mでは位置がずれて、距離80〜95m付近で終点側で起点側より相対的に低い比抵抗値となっている。
C 距離107m付近
:地表近傍と深度10m以深に周辺より相対的に低い比抵抗部が存在し、深度5〜10mでは、起点側より終点側で相対的に低い比抵抗値となっている。これらの内、水平方向の比抵抗変化が最も大きい箇所はAであり、地形的に低断層崖が認められた場所に近く、トレンチで断層が確認された箇所に対応している
4 トレンチ調査
トレンチ調査は、前述の地形的な低断層崖及び電気探査で比抵抗値の側方変化が認められた位置を挟んで実施した。
図2−4−2−7にトレンチ地質平面図、図2−4−2−8に南東側法面のスケッチ図を示す。トレンチ観察結果からまとめたトレンチ部の地質構成表を表2−4−2−1に示す。また、トレンチ掘削の状況を写真2−4−2−7、写真2−4−2−8に示した。
・地 質 構 成
トレンチ内には新期段丘構成層・沖積層・人工土が出現した。
新期段丘構成層は、礫層、礫混りシルト〜粘土からなり、含まれる礫は比較的新鮮である。粘土層中には炭化木片が含まれている。断層を挟んで分布層相が異なる。沖積層は砂質粘土からなり、土器を包含している。人工土はトレンチ全域の表層部に分布しており、礫混り粘土と砂礫からなる。
・地 質 構 造
トレンチの中央やや北寄りの地点に北側の粘土層と南側の礫層(いずれも新期段丘構成層)の境界が見られる。この境界はかなりうねっているが、鉛直に近い傾斜を示しており、この境界の北側のやや砂質な粘土層の成層構造を切っている。この点から見て、この境界は新期段丘構成層を変位させている断層と判断される。断層を挟んで北側の新期段丘構成層中の構造はあまり乱れていない。層理面は水平ないし30゜程度の傾斜を示している。砂層の上・下限は30゜程度の傾斜を示しているが、これは元来の地層のフォアセットとみてよいと思われる。
一方、断層南側の地層境界は、上位層が粘土層であるにも拘わらず、かなり凸凹がある。かつ全体に30゜程度傾斜しており、断層運動による変形である可能性がある。断層部を覆う沖積層は水平に近い構造を示しており、断層運動による変形は受けていないようにみえる。ただし、断層面直上の地層は人工土であり、どの時代の地層までが断層運動による変形を被っているかは直接には確認できない。断層両側の層序関係について確認されていないため、変位のセンスについての直接の証拠は得られていないが、断層の両側に見られる粘土層(南側では礫混り)が、同一層順のものとした場合には山側(北東側)落ちとなる。この変位センスは、トレンチ東方のこの断層の延長部と見られる露頭での断層の変位センスと同じである。
なお、この断層面は密着しているため、面を分離させて条線の方向等を観察して変位センスを判断することはできなかった。
5 考古遺物分析
断層南側の沖積層中に包含されていた土器片の産出位置を図2−4−2−8に示す。
これらの土器は、現地でそれぞれ平安時代及び江戸時代のものと鑑定された(松村委員の検討による)。
6 14C年代測定
新期段丘構成層中の腐植質の粘土層の中に含まれていた炭化木片及び腐植質粘土の計3試料について14C年代測定を行った。結果を表2−4−2−2に示す。また、測定データシートは巻末資料中に収めた。3試料の内、腐植質粘土は10,400年BP、10,900年BPとほぼ同じ値を示しているが、炭化木片のみは 6,400年BP程度とかなり若い。試料の性質から見てこの地層の年代は、ほぼ10,000〜11,000年BPと判断してよいと思われる。