(a)概 要
ルート東側に断層露頭(標高390m付近)がある。露頭下段では、断層は東側の著しく破砕された貫入岩(図2−3中の8A層、以下同様)と西側の美濃帯のやや破砕された緑色岩、頁岩(図中7層)および中位段丘堆積物(図中6層)との境界をなす(図の下段)。
上段の中・下部(図の上段)では、断層は西側の中位段丘堆積物(6層)と東側の破砕された貫入岩との境界をなす。上段の上部では、主断層面は中位段丘堆積物起源の破砕帯中を通り、最上段(図2−4)では、再び、破砕された貫入岩と中位段丘堆積物(6A層)との境界をなす。
断層の上端は破砕帯起源のすべり岩塊(4層)で覆われている。またここでは、中位段丘堆積物上に不整合で、崖錐性堆積物(5層)やAT火山灰層を含む支流性低位段丘堆積物(3層)が重なる。崖錐性堆積物の一部はすべり岩塊で覆われる。両者の境界は谷側に緩く傾く地すべり面である。また、明瞭ではないが、支流性低位段丘堆積物は崖錐性堆積物を不整合に覆っている。
中位段丘堆積物下部は角礫主体の礫層(図2−3、6F〜6D層)で、中部から上部では角礫混じり粘土層(6C〜6A層)である。
主断層面は湾曲するが、ほぼN10〜20゚W/50〜60゚Eの走向傾斜を示す。上段で、断層は西側へ分岐し、同堆積物(6B)中で途切れる。分岐断層面はN2゚E/50゚Eを示す。上段の下で、主断層面上に南落ちの条線が認められる。
主断層東側の貫入岩側には細粒破砕帯(ガウジ)が認められる。下段から上段まで、幅は14〜8cmと薄くなり、最上段では1cm以下となり、一様ではない。
主断層面と分岐断層面およびその上方延長境界(6B層上部付近まで)とに挟まれたくさび状の部分には主として中位段丘起源の礫混じり粘土とレンズ状の破砕された貫入岩とが認められる。ここでは断層面に沿って礫の一部は再配列し、西側の堆積物の岩相とは不連続で、中位段丘堆積物が変形を受けた断層破砕帯である。くさび状下部で堆積物と破砕された貫入岩とが差違い構造をなしている。この破砕帯に近接する中位段丘堆積物下部の堆積構造も東側が隆起したような引きずり変形が認められるが、上部の礫混じり粘土(6B層)ではそのような構造は認められない。最上段ではこのような破砕帯は認められず、直接、中位段丘堆積物と主断層が接する。中位段丘堆積物中の礫は断層面付近のみで約20゜東に傾き、断層による堆積構造の変形と判断される。
(b)露頭下段・上段の詳細な地質の記載(巻末図3−1−1、巻末図3−1−2)
1)地質層序と記載
下位の地層から順に記載する(表2−2)。
a.8層
破砕を受けた基盤岩。断層の東側に位置する貫入岩起源の8A層と、緑色岩、頁岩起源の8B層である。断層破砕帯を挟んで、6層と接する。
8A層
強破砕を受けた緑黄灰色〜にぶい黄色を呈する閃緑岩質の貫入岩。角礫状から粘土状までの破砕状況が認められる。
8B層
強破砕を受けた青灰色を呈する緑色岩、頁岩。粘土状になっている。貫入岩起源の白色の脈状物質を挟む。
b.7層
美濃帯の緑色岩、頁岩。暗褐色を呈する。破砕を受け、ブロック化している。上位の6F層に不整合で覆われる。
c.6層
支流性の中位段丘堆積物。かなり固結している。赤色風化度は低い。層相の差異から、6B〜6Fの5層に区分され、6D層と6E層はさらに細分される。本層は後述の火山灰分析結果と高い固結度から「中位段丘堆積物」相当としたが、年代値資料に基づくものではない。今後の検討が必要である。礫径が小さく、基質も粘性分が多いこと、土石流堆積物的な層相であることから支流性と判断した。
6F層
角礫主体。暗褐色を呈する。礫径は、2〜40cmで、淘汰は悪い。断層近傍で、礫の長軸方向は急斜し、断層運動によって東に引きずり上げられた可能性を示唆している。基質は中砂〜極粗砂である。段丘層の基底層をなす。
6E層
砂主体。6D層の下位に分布する。層相から6Ea層と6Eb層とに区分できる。
6Eb層
角礫混じりシルト混じり砂。灰白色を呈する。礫径0.5〜20cmの角礫が点在しており、風化礫も混じる。基質は細砂である。
6Ea層
角礫混じりシルト混じり砂。灰黄褐色を呈する。礫径2〜10cmの角礫が点在している。全体に淘汰は悪い。基質は細砂〜中砂である。
6D層
角礫主体。黄褐色〜灰黄褐色を呈する。角礫は礫径2〜50cmで、断層近傍にのみ30cmを越える礫が点在する。断層より離れるほど礫径は小さくなる。これらの礫の長軸は西に30゚と急斜し、断層運動による礫の再配列が認められる。基質はシルト混じり細砂〜粗砂である。6B層、6C層に覆われる。砂層の挟み(6Da層)や、粘土のブロック(6Db層)が認められる。
6Da層
砂主体。6D層中に挟まれる砂層。連続性はよくない。にぶい黄褐色を呈する。細砂〜中砂からなる砂層と細礫混じり中砂が主体の粗い砂層が互層状に重なる。全般に葉理が発達する。
6Db層
粘土。灰褐色を呈する。6D層中の断層面沿いと、後述する断層破砕帯内に、不規則な形状のブロックで分布する。
6C層
角礫混じり砂混じり粘土。黄褐色を呈する。礫径2〜6cmの角礫が全体に点在している。上位の6B層とは、指交関係にある。
6B層
角礫混じり粘土。灰白色を呈するが、一部で酸化鉄で橙色に変色している。礫径2〜6cmの角礫が全体に点在し、下部では小礫〜細礫が葉理に沿って配列している。基質の粘土は硬い。
d.2層
シルト混じり細砂。にぶい黄褐色〜明黄褐色を呈する。全体に柔らかく、まれに亜角礫が点在する。礫径は、2〜12cm。礫はくさり礫と新鮮な礫とが混じる。
e.1層
土壌。黒褐色で、木根が多数混入している。礫径2〜16cmの角礫が点在している。礫はいずれも新鮮である。
2)断層面の性状
上盤側の貫入岩の破砕帯が、下盤側の緑色岩、頁岩および段丘堆積物の上に逆断層で接している。
下段で、断層は右斜め上方に向けてほぼ直線状の明瞭な一つの断層面で示される。
上段で断層はスケッチのレベルで−1m付近の6D層と6E層の境界付近までは右斜め上方に向かうほぼ直線状の1本の断層面で示される。東側は貫入岩起源の破砕帯で、西側は、段丘堆積物の砂礫層(6E層)である。断層面に沿って段丘堆積物起源の礫が再配列している。壁面スケッチのレベルで−1m付近から断層は東側の主断層と西側の分岐断層の2本に分かれる。
東側の主断層は、東側の基盤の貫入岩質の破砕帯と西側の断層破砕帯内の粘土化した基盤岩のブロックと間を走り、一部断層破砕帯内の段丘堆積物起源の礫混じり粘土との境界をなす。スケッチのレベルで+2m付近まで、ほぼ直線状に右斜め上方に向けて走っているのが明瞭に認められる。それより上方への連続は、断層破砕帯の角礫混じり粘土の中を通るため明瞭ではないが、ほぼ直線的に走る。
主断層の東側の貫入岩側には、断層粘土(ガウジ)が認められる。下段から上段にかけて、幅14〜8cmと徐々に薄くなる。
一方、西側の分岐断層は、東側の断層破砕帯と西側の段丘堆積物の角礫層(6D層)との境界をなし、壁面スケッチのレベルで+1.5m付近まで、ほぼ直線状に右斜め上方に向けて走っているのが明瞭に認められる。それより上方には続かない。断層面上では、礫が立って並んでいるのが認められる。
主断層面の走向傾斜は、実測では N18゚E48゚E、N28゚E8゚E、N33゚E73゚E、N2゚E53゚E、N18゚E68゚E、N30゚E51゚E、N33゚E65゚Eであり、目通しではN8゚E48゚E、N10゚E59゚E、目通しの走向としてはN25゚E、N14゚E、N20゚Eであった。主断層面は、西にわずかに凸に湾曲しており、走向は N8゚〜33゚E、傾斜は48゚〜78゚Eの範囲にあり、おおよそN10゚E50゚Eとである。一方、分岐断層の走向傾斜は、N2゚E50゚Eを示す。
断層面でみられた条線の傾斜は10゚〜15゚南傾斜で、横ずれ変位成分が卓越している。
3)断層破砕帯の性状
東側の断層と西側の断層に挟まれた部分は、東側は基盤岩の8A層に、西側は段丘堆積物の6B層、6D層に、それぞれ断層関係で接している。上部で広い“くさび型”の形状を示す。
断層破砕帯内部は、主として段丘堆積物起源の礫混じり粘土と8A層起源の粘土化した基盤岩のレンズ状のブロックで構成されている。断層破砕帯内の段丘堆積物起源の礫混じり粘土とその西側の段丘堆積物との層相の連続はない。また、断層破砕帯内には露頭でみられない粘土層のブロック(6Db層)が存在する。
8A層起源の粘土化した基盤岩のブロックと段丘堆積物起源の礫混じり粘土との境界も断層関係であり、差し違い構造が認められる。
(c)露頭最上段の地質観察(巻末図3−2−1、巻末図3−2−2、巻末図3−2−3)
1)地質層序と記載
下位から順に記載する(表2−3)。
a.8層
基盤岩の破砕帯。断層に隣接する貫入岩起源の8A層と、主として緑色岩、頁岩起源と推定される8B層から構成される。断層によって6層に接しており、5層に覆われる。
8A層
断層に隣接する貫入岩。全体に強破砕を受け、砂状〜粘土状であるが一部原岩の組織を残す。緑黄灰色〜にぶい黄色を呈する。
8B層
破砕帯にみられる暗青灰色〜青灰色の部分。緑色岩、頁岩を起源とし、強破砕されて角礫状〜粘土状になっている。
b.6層
支流性の中位段丘堆積物。かなり固結している。固結度から上記の3層、4層とは明瞭に区別できる。層相から、6A層に区分した。
6A層
礫混じり砂混じり粘土。にぶい黄褐色〜にぶい橙色を呈する。礫径1〜10cmの角礫が混在している。礫径60cm以上の角礫を含む。一部の礫は葉理に沿った配列が認められ、断層近傍の小礫は、断層に向かって傾斜している(約20゚E)。先述の6B層の上位層になる。断層により8層と接している。
c.5層
礫混じり砂混じりシルト質粘土。にぶい黄褐色を呈する。礫径2〜14cmの角礫が点在しており、一部の礫ではほぼ水平に近い礫の配列が認められる。柔らかい。下位の6層とは固結度が明瞭に異なる。すべり岩塊の下に一部は覆われて分布している。崖錐性堆積物と考えられる。
d.4層
破砕され、角礫混じり粘土状の岩塊。暗青灰色部分と淡青灰色部分が縞状をなす。分布の形態から緑色岩、頁岩と貫入岩の破砕帯起源の地すべり岩塊と判断した。 すべり面に平行な面が発達し、縞状の色の違いもすべり面に平行である。断層を覆うように分布している。
e.3層
支流性低位段丘堆積物。層相から3A〜3Cの3層に区分できる。3B層は後述するようにAT火山灰層と同定されるので、低位段丘堆積物と判断した。また、先述の林道沿いでみられた本流性の低位段丘堆積物に比べて、全般に礫が小さいこと、基質に粘性分が多いこと、層厚が薄いことから支流性と判断した。
3C層
礫混じり砂混じりシルト質粘土。にぶい黄褐色〜にぶい黄色を呈する。礫径0.5〜5cmの角礫が点在している。柔らかい。下位の4層との境界は、不明瞭であるが、若干の固さの違いで区分した。
3B層
AT火山灰。にぶい黄褐色を呈する(写真3)。S10.3〜S11にかけては、ほぼ純粋な火山灰層であるが、S11以西では粘土を混入し、火山灰は団子状〜雲状の分布を示す。
3A層
礫混じり砂混じり粘土質シルト。にぶい黄褐色を呈する。礫径2〜10cmの角礫が点在している。柔らかい。
f.2層
崖錐性堆積物。礫混じりシルト混じり微細砂。黒褐色〜褐灰色を呈する。木根が多数混入している。礫径2〜16cmの角礫が点在しており、基質はシルト混じり微細砂からなる。全体に締まりが悪く柔らかい。1層の土壌との境界は不明瞭である。
g.1層
土壌。黒褐色で、木根が多数混入している。
2)断層面の性状
底面から約40cm上方まで、右斜め上方に向けてほぼ直線状に走る1本の断層である。断層の東側は、貫入岩起源の破砕帯からなる。西側は、段丘堆積物の礫混じり粘土層(6A層)が接している。ここでの、断層面沿いの断層粘土(ガウジ)は、1cm以下と非常に薄くなっている。断層上端で、断層は破砕帯起源のすべり岩塊(5層)によって覆われる。
(d)ピットの地質観察
断層の性状把握を目的としたピットNo.4、5、6では、主として地すべり岩塊とその下位の崖錐性堆積物が観察されたが、主断層と堆積物との関係は把握できなかった。ピットNo.1、2、3では段丘面上に降下した火山灰試料を目的とし、地質観察と試料採取をおこなった。
1)ピット1の地質観察(本流性低位段丘面上)
下位の地層から順に記載する。ピットのスケッチは巻末図3−3−1、地層区分図は図2−5に、地質区分表は表2−4に、写真は写真4に示す。
a.2層
シルト混じり〜シルト質微細砂からなり、全般にローム質。層相から2層に区分する。
2B層
礫混じりシルト混じり微細砂。明褐色を呈する。角礫の礫径は1〜22cmであるが、4〜8cmの礫が多い。風化礫が多く、新鮮な礫はわずかで、新鮮な礫でも多少の風化が認められる。柔らかい。
2A層
シルト質微細砂。明褐色を呈する。ややローム質。上部10cmは土壌化している。
b.1層
土壌。黒褐色で、木根が多数混入している。
2)ピット2の地質観察(支流性中位段丘面上)
下位の地層から順に記載する。ピットのスケッチは巻末図3−3−2、地層区分図は図2−6に、地質区分表は表2−5に、写真は写真5に示す。
a.6層
支流性の中位段丘堆積物。かなり固結している。層相が先述の6B層と酷似する。
6B層
礫混じり粘土質細砂〜微細砂。明青灰色を呈する。礫径1〜15cmの角礫が点在している。礫は、風化礫と新鮮な礫が混在している。
b.2層
シルト混じり微細砂からなり、全般にローム質。層相から3層に区分できる。
2C層
角礫主体層。にぶい黄褐色を呈する。礫径0.5〜8cmで、礫率50%以上。礫は風化しているが、腐ってはいない。基質は粘土混じり微細砂である。
2B層
礫混じりシルト質微細砂。にぶい黄褐色を呈する。礫径2〜16cmの角礫が点在する。礫は、風化礫と新鮮な礫が混在する。
2A層
シルト質微細砂。褐色を呈する。ややローム質。礫径1cm以下の風化礫がわずかに点在する。
3)ピット3の地質観察
下位の地層から順に記載する。ピットのスケッチは巻末図3−3−3)、地層区分図は図2−7に、地質区分表は表2−6に、写真は写真6に示す。
a.2層
シルト混じり微細砂からなり、全般にローム質。層相から次の3層に区分できる。
2C層
礫混じりシルト質微細砂。暗赤褐色〜黒褐色を呈する。古土壌の可能性もある。礫径0.5〜8cmの角礫が点在する。基質は粘土質微細砂である。
2B層
礫混じりシルト質微細砂。暗赤褐色を呈する。礫径1〜15cmの角礫が点在する。礫は西半分では少ない。礫率は20%程度である。基質は粘土混じりシルト質微細砂である。
2A層
シルト質微細砂。暗赤褐色を呈する。ローム質。
b.1層
土壌。黒褐色で、木根が多数混入している。
4)ピット4、5の地質観察
露頭でみられた断層の走向傾斜をもとに、段丘面上における断層通過位置で掘削した。写真を写真7に示す。ピット壁面には、後述するピット6の壁面でみられた7層に相当する基盤岩のすべり岩塊がみられた。全般に風化が著しく、角礫化した部分と粘土化した部分が互層状に重なっている。粘土化した部分はほぼ水平、ないしは段丘面よりゆるやかな傾斜で段丘面の傾斜方向に傾いている。
5)ピット6の地質観察
下位の地層から順に記載する。ピットのスケッチは巻末図3−3−4、地層区分図は図2−8に、地質区分表は表2−7に、写真は写真8に示す。
a.7層
基盤岩のすべり岩塊。基盤岩の組織を比較的残す部分と、粘土化した部分が互層状に重なっている。両者の境界の面はほぼ水平からわずかに北西方向に傾斜し、形状からすべり面と判断した。層相から4層に区分した。
7D層
貫入岩起源の粘土〜シルト。青緑灰色を呈する。
7C層
貫入岩の組織を残す部分。青緑灰色を呈する。破砕のため全体に角礫化している。
7B層
緑色岩、頁岩起源の粘土〜シルト。にぶい黄褐色あるいは暗緑灰色を呈する。基盤岩が、破砕されて粘土化〜シルト化した部分に当たる。風化が著しい。角礫混じりである。
7A層
緑色岩、頁岩の組織を残す部分。灰褐色を呈する。破砕のため、全体に角礫化している。ほぼ水平からわずかに北西方向に傾斜したすべり面が発達している。
b.2層
微細砂混じりシルトが主体。層相から3層に区分できる。
2C層
礫混じりシルト。褐色を呈する。礫径2〜6cmの角礫が点在する。
2B層
微細砂混じりシルト。にぶい緑灰色およびにぶい黄色を呈する。色調から基盤の貫入岩起源と思われる。まれに亜角礫が点在する。
2A層
礫混じりシルト混じり粘土〜シルト混じり微細砂。灰褐色〜褐灰色を呈する。礫径2〜40cm以上の角礫が点在する。最大礫径1.5m以上の巨礫はN4より南東側に多い。N2から北西側では、急に礫が少なくなり、ローム質となる。
c.1層
土壌。黒褐色で、木根が多数混入している。