(2)マルチチャンネル音波探査記録の解析

デジタル化され磁気テープに収録されたマルチチャンネル音波探査記録は、コンピュータを利用したデータ処理により以下に示す3種類のアナログ記録断面図に変換した。

1)一般処理(重合)断面図

2)マイグレーション処理断面図

3)深度変換処理断面図

データ処理のフローチャートを図2−3−2−3に、データ処理のパラメータを図2−3−2−4に示す。これらの処理記録断面図は別冊の音波探査記録集にまとめられている。

マルチチャンネル音波探査記録の解析は、これらのアナログ記録断面図を用い、前項で述べた表層音波探査記録と同じ方法で行うことができる。

以下、デジタル記録をアナログ記録へ変換するデータ処理について概要を示す。

(a)デマルチプレックス

フィールドデータを、各トレース単位に並び替え、同時にソフトウェアのインターナルフォーマットに変換する処理。

(b)ジオメトリー(観測配置)の定義

起振点と受振点の位置関係を全起振点、全受振点にわたって定義し、重合に必要なパラメーター(CDP番号、オフセット距離など)を各トレースヘッダーに記録する。

(c)トレースエディット

重合に不適切なデッドトレース、リークしたトレースなどを除去する処理。

(d)CDPソート

発振点ごとにまとまっているトレースを、共通反射点(CDP)ごとのトレースに再編集する処理。

(e)バンドパスフィルター

周波数を限定することにより、反射信号(反射波)以外のノイズ波を除去しS/N比を向上させる処理。

(f)フォワードスラントスタック

CDPソートされたデータは、走時とオフセット距離で表される領域(T−X領域)上に表現される。これをオフセット距離がゼロの時の走時(tau)と速度の逆数(slowness:p)で表される領域上に変換する処理。今回は、海底面で多重反射した反射波を取り除く上で(g)に述べるデコンボリューション処理をより効果的に機能させるためにこの処理を行った。

(g)重合前デコンボリューション(Deconvolution Before Stack)

反射波が、振源から発振されてから磁気テープに記録されるまでに受けた変形や変質を取り除くことによって、処理断面上の波形を整えて分解能を高めたり、周期的に繰り返される多重反射波などの妨害波を除去したりする一種のフィルター処理である。今回tau−p領域上でデコンボリューション処理を行ったが、その理由は、T−X領域上ではオフセットが大きくなるにつれて必要なプライマリーの波と多重反射波との関係が周期的でなくなっていくが、tau−p領域上では完全に周期的な関係となるため、多重反射波をより効果的に除去できるからである。

(h)インバーススラントスタック

(f)の逆の処理で、tau−p領域上のデータを元のT−X領域上に戻す処理。

(I)アンプリチュードバランシング

発振された波は、受信点に到達するまでに、様々な原因で減衰する。これを補正したり、微弱な反射波なども判別しやすくするために記録の振幅をそろえたりする処理。

(j)速度解析

CDPソートされたデータからNMO補正に必要な重合速度を求めるための処理。

(k)NMO補正(動補正)

CDPソートされた各トレースは、反射波の伝搬経路が異なることにより反射波の走時が異なっているため、これを補正する処理。

(l)ミュート

NMO補正を行うと、オフセット距離が大きくなるほど波形が大きく間延びし、水平重合(CDP重合)効果に悪影響を及ぼすので、波形の間延びした部分を削除する処理。

(m)CDP重合(CDPスタック)

NMO補正後の各トレースを重ね合わせ反射波を強調する処理。

(n)重合後デコンボリューション(Deconvolution After Stack)

処理の過程などによって生じた波形の歪みを取り除いて、断面上の波形を整えて分解能を高めたり、多重反射波した波をさらに除去するためにCDP重合後にもデコンボリューション処理を行った。

(o)F−Xデコンボリューション

周波数領域上でデコンボリューションのアルゴリズムを用いてS/N比を向上させる処理。この処理を行うことで、重合断面上で横方向に相関が強い波が信号として強調され、相関が弱いランダムな波がノイズとして弱められる。

(p)マイグレーション

CDP重合処理は、地下構造を水平構造と仮定しているので、傾斜した反射面や複雑な形状をした反射面を正しく表していない。マイグレーションは、これを正しい位置や形状に戻すための処理である。 

(q)深度変換

時間断面を速度解析から求められた重合速度や既存資料などを用いて深度断面に変換する処理。