トレンチ内に現れた断層は,南からF1断層(走向・傾斜:N72°E・88°S),F2断層(走向・傾斜:N75°E・88°S),F3断層(走向・傾斜:N80°E・84°S)に分けられる。
F1断層はほぼ鉛直方向で,北側が隆起していることが観察される。E,F,G,H層では,断層に沿って扁平礫の再配列,見掛け上の地層の変位等が認められる。本断層は,北に緩く傾斜する断層(F‐2a)に切られる。
F2断層は,上方に向かってチューリップ状に開く,4条の断層で構成される。
外側の断層のうち,北側(F‐2d)は,ほぼ地表近くまで達している。一方,南側(F‐2a)は,A層に覆われる。そして,この内側の2条の断層(F‐2b,c)に沿って,B,C,D層が変形している。B,C,D層の変形は,西側法面と比較して東側法面で顕著に認められ,かなり流動的な変形を受け,地層が乱されている。C,D層の地層境界には,礫の再配列が認められることから,F‐2b断層を認定しているが,地層の流動的な変形によって礫が再配列化した可能性も否定しきれない。また,東側法面では,F‐2aの北側で地震動による流動化跡の可能性が高いC層の一部がA層と接している。
F3断層は,2条見られる。どちらもほぼ鉛直で,上方では南に傾斜する断層(F‐2d)に切られる。F3断層に沿って,扁平礫の再配列が認められる。
2) 断層活動
上石床西地点では,以下の2回の活動履歴が考えられる。
1) イベントT(最新活動時期)
西面で,F2断層のうちのF‐2bは,B層を切りA層に被われている。このB層は,基底面および内部構造が25°程度の北傾斜をなし,その上面およびA層はほぼ水平構造をなしていることから,B層とA層は傾斜不整合を呈していると考えられる。
なお,東面では,F‐2bはB層を切らず,B層に覆われているように見えるが,B,C,D層はかなり流動的な変形を受けており,地震動による流動化跡の可能性が高い。このため,イベント解析の判断材料として用いなかった。
同様に,東面で,C層がS字状に捲り上がり,A層の下部と接している様相が認められるが,F−2a,2b断層がA層に覆われていることから,本断層以外の地震動による流動化跡と判断し,イベント解析の判断材料として用いなかった。
以上のことから,本トレンチ内で認識される最新活動時期は,B層堆積後,A層堆積前と考えられる。
2)イベントU
C層は,地溝を埋めるように堆積していて,この地溝を形成した断層運動が考えられる。地溝部は,D,T層からなり,D,T層堆積後,C層堆積前が最新活動の1つ前のイベントと考えられる。
本トレンチの観察により,池田断層が少なくとも2回以上の断層活動を生じている
ことが明らかになった。活動履歴は以下のようである。
@イベントT(最新の活動時期):B層堆積後,A層堆積前
AイベントU(1つ前の活動時期):D,T層堆積後,C層堆積前