(2)トレンチの地質状況

本トレンチでは,高角度で南に傾斜する断層を介して,沖積世の地層が接している。地層の形成年代の詳細は南側地層の一部について判明したものの,北側の地層から十分な年代測定試料が得られなかったため,断層を挟んでの南北の地層対比ができなかった。従って,ここでは南北異なったユニットとして区分するものとする。

断層の北側の沖積層は,上位からT層(礫層),U層(礫混りシルト層),V層(礫層)に区分される。南側の沖積層は,C層(砂質シルト層),D層(砂層),E層(礫混り砂質シルト),F層(礫層)に区分される。また,A層(シルト層),B層(礫層)は人工的なものである。

断層はF1〜F6の6条認められ,F1断層は耕土直下近くのC層まで切断している。

1) 活動履歴

北側ユニットを構成する地層からは,14C年代値を得ることができなかったため,ここでは,南側ユニットで説明することとする。本トレンチより想定される活動履歴について表3−5−7にまとめる。

@イベントT(最新活動時期)

トレンチ壁面の観察から,最新の活動時期と考えられるイベントはC層堆積後である。14C年代測定によれば,C層中の炭から,1,840±50〜2,510±60y.B.P.の年代値が得られている。(表3−5−4)。1,840±50y.B.P.の年代値を示す試料(KNT−C11)は本層下部で採取しており,この年代値より古いものは,再堆積による可能性がある。従って,C層堆積年代は,1,840±50y.B.P.と推定され,イベントTは1,840±50y.B.P.(AD325年)以降と考えられる。

AイベントU

トレンチ壁面の観察から,イベントUはE層堆積後D層堆積前である。E層の炭からは,2,550±40〜2,170±80y.B.P.の14C年代値が得られている。D層中には,年代測定に使用できるような試料は含まれていないため,堆積年代は前後関係から,2,170±80〜1,840±50y.B.P.と推定される。従って,イベントUの年代は,2,170±80y.B.P.以降,1.840±50y.B.P.(AD65年)以前と考えられる。

BイベントV

トレンチ壁面の観察から,イベントVはE層堆積前と推定される。E層からは,2,550±40〜2,170±80y.B.P.の14C年代値が得られている。従って,イベントVの時期は2,550±40y.B.P.以前と推定される。

4) まとめ

本トレンチによって,畑野断層の活動履歴は,以下の通りである。

@イベントT(最新活動時期):1,840±50y.B.P. (AD325年)以降

AイベントU(1つ前の活動時期):2,170±80y.B.P.〜1,840±50y.B.P.

BイベントV(2つ前の活動時期):2,550±40y.B.P.以前

表3−5−7 上野田トレンチにおける14C年代とイベント時期