・ 分布と地質
伊予三島市豊岡町大町(以下,大町)〜伊予三島市中之庄町(以下,中之庄町)にかけては,狭義の中央構造線(三波川変成岩類と和泉層群を境する地質境界断層)を挟んで北側の平野部と南側の急峻な石鎚山系法皇山脈との地形境界が明瞭である。三波川変成岩類は,中央構造線を挟んで南側の急峻な法皇山脈を構成している。
中之庄町〜川之江市金田町(以下,金田町)にかけては,北側の平野部と南側の急峻な法皇山脈との間に,丘陵地(圧縮尾根)がほぼ東西方向に分布している。中央構造線の位置は,三波川変成岩類の地すべり地が多く不明瞭である。三波川変成岩類は全般に急峻な法皇山脈を構成している。
金田町〜境目峠(愛媛県と徳島県との県境)にかけては,西流する金生川を境に北側の讃岐山脈と南側の法皇山脈がそれぞれほぼ東西方向に延びている。法皇山脈は全体に急峻な大起伏山地であるが,北麓は独立丘状を呈した小起伏山地である。中央構造線は,小起伏山地と大起伏山地との地形境界に一致し,大起伏山地は三波川変成岩類からなる。
調査対象地域の三波川変成岩類は,小島ほか(1956)による吉野川層群中部の三縄層上部層に相当する。ほとんど泥質片岩・塩基性片岩からなるが,東部ほど泥質片岩が多くなる傾向がある。
・ 地質構造
三波川変成岩類は,一般にほぼ中央構造線の西南西−東北東走向と同じかややこれに緩く斜交している。また,調査対象地域は金砂湖の西端付近を西北西から東南東方向に向かう背斜軸の北翼にあたり,微褶曲が発達しているものの地層は大局的には傾斜35゜以下で北に傾斜している。
(2) 和泉層群
・ 分布と地質
大町〜金田町にかけては,中央構造線を挟んで北側に広がる平野部の基盤は和泉層群からなるが,基盤岩は段丘堆積物や沖積層に覆われている。三島・川之江IC北方の東宮山の南東で,砂岩の露頭が認められる程度である。
金田町〜境目峠(愛媛県と徳島県との県境)にかけては,西流する金生川を境に北側の讃岐山脈と南側の法皇山脈北麓の小起伏山地が和泉層群によって構成されている。尾根芯部には砂岩層が分布するが,概ね,当区域での和泉層群は,頁岩優勢の砂岩頁岩互層が主体であり,小起伏山地を取り巻く林道沿いで確認することができる。
・ 地質構造
全体としての地質構造は,東へ傾いた東西性の褶曲軸をもつ向斜構造であるが,南側を中央構造線で分布が断たれ,主に向斜の北翼部が分布している。
大型化石・放散虫・有孔虫化石をもとにした調査区域内の和泉層群の地質時代はシャンパーニュ期中期〜後期と推定されている(須槍ほか,1991)。
(3) 石鎚層群
中期中新世における瀬戸内火山活動によって,石鎚山脈を中心に噴出した岩石である。調査対象地域では,中央構造線の断層破砕部沿いの貫入岩(流紋岩質岩石)として認められる。伊予三島市中之庄町光明の的ノ尾トンネル東部の切土部や川之江市教育委員会指定の断層露頭(川滝町中通)で確認できる。
的ノ尾トンネル東部の切土部では,著しく緩んだ三波川変成岩類の破砕帯中の岩脈(幅5〜6m)として認められる。岩脈は黄褐色を呈したデイサイト〜流紋岩質の岩脈で,角礫状化している。風化起源によるものか破砕起源によるものか判別できない。
川滝町中通の断層露頭では,幅50cmの珪長岩の貫入岩を介して三波川変成岩類と和泉群が接する状況が観察できる。貫入岩に破砕は認められない。
中之庄町光明の大谷川右岸の断層露頭では,黒色片岩中に石鎚層群と思われる火山岩らしい黄褐色の貫入岩が確認されているが,現在では,護岸により露頭は確認できない。
(4) 古期地すべり・土石流堆積物(岡村層相当層)
中之庄町〜金田町にかけての法皇山脈北麓の緩斜面や東西方向に分布する丘陵地には,赤色土化した粘土あるいはシルトに充填された径1〜20cmの三波川変成岩類の亜角礫を主体とした古期の地すべり・土石流堆積物が分布している。上柏町の北岡山の北側で地下20mのところからメタセコイアの化石が発見され(昭和56年8月,松柏小で保存),下柏町平林でもメタセコイアが出土していることから岡村層とほぼ同時代の更新世前期頃の堆積物と判断される。
金田町〜境目峠にかけて,古期地すべり・土石流堆積物は中央構造線北側の和泉層群を不整合に覆うように分布する。本堆積物は,径5〜20cm(最大径1m)の三波川変成岩類の角礫が粘土ないしシルト質の基質にサポ−トされていることから土石流堆積物を主体とするものと判定される。また,川之江市金田町八戸の愛媛県銅山川第三発電所建設工事で,2条の断層で挟まれた地溝状の部分に地すべり性の三波川変成岩類の角礫が分布していることが,永井(1973)により報告されている。
(5) 第四系
大町〜金田町にかけて石鎚断層崖の北麓に沿って東西に広がる東予平野は,岡田(1973a)によると,「法皇山脈から北流する主要河川によって形成された複合合流扇状地性の平野で,緩やかに北へ傾斜している。背後の断層崖が相対的に低くなり,大きな河川による物質供給が少なく,さらに海食作用による後退を受けて,この付近の平野の幅は1km以下と狭くなっている。」と記載されている。また,扇状地性の平野を開析して段丘化した地形面が認められる。
金田町〜境目峠にかけては,西流する金生川沿いに沖積面が,小起伏山地を北流する金生川支流沿いに低位段丘面が認められる。また,小起伏山地山頂部には,一部,高位段丘面が認められる。
なお,伊予三島市平田の低位段丘面(LU)では,粘土層中の埋木から,14,720±360yBPという14C年代値が得られている(高橋,1975)。