(2)トレンチ調査

新居浜市岸ノ下東(B)地点では,試掘調査で岡村断層が確認されたAT面(沖積面,1万年前より新しい地形面)で最新活動時期の絞り込みのため試掘を拡幅してトレンチ調査を実施した。

トレンチ調査の結果,高角度で南に傾斜する断層が認められた。図3−4−4にトレンチ地点の平面図を,図3−4−13図3−4−14にスケッチ図を示す。

(1)地質構成

1) 沖積層

本トレンチに露出する沖積層は, 上位より以下の通りである。

@A層(礫混じり砂〜礫混じりシルト層)

A層は,黄灰〜灰色を呈する礫混じり砂層である。径1cm前後の小礫を混じえる中〜細粒砂で,部分的に砂質シルトを含む。A層は北へ傾斜する撓曲構造の凹部を埋めるように堆積したと推定される。

AB層(腐植質砂〜砂層)

B層は暗灰色を呈する腐植質砂層である。一般に多量の木片および腐植物を介在する。東面ではB層はD層により分断されている。また西面では,断層付近で非常に薄く,北側ほど厚く分布している。

BC層(砂〜礫混じり砂層)

C層は暗緑灰色を呈する礫混じり砂層である。礫は径2cm前後を主体とする結晶片岩礫(亜円礫)からなる。基質は,中粒砂〜細礫で構成されている。また西面および南面では,礫層の下位に非常に淘汰の良い細砂層が分布する。

CD層(腐植物混じり砂礫〜腐植質砂層)

D層は黄褐色を呈するシルト質な砂礫層である。礫は径約5cm程度の結晶片岩礫(亜角礫)を混じえ,部分的に腐植質な砂礫層を挟在する。D層中には直立した礫が多数観察できる。

DE層(砂礫層)

E層は灰褐色を呈する腐植質な砂礫層である。礫は主として径5〜10cm程度の結晶片岩礫(亜角礫)である。E層は断層運動によって引きずられており,断層面に沿って礫が直立している。

EF層(礫混じり砂〜腐植質砂層)

F層は灰色〜黒灰色を呈し,礫混じり砂〜腐植質砂層である。礫は新鮮硬質な結晶片岩で径1〜3cmの亜円礫を主体とする。基質を構成する砂層は全体的に腐植質な細砂であり,部分的に腐植物濃集層を挟在する。

FG層(腐植質砂層)

G層は灰褐色を呈する腐植質砂層である。一般に腐植物を混じえる細粒砂で,部分的に結晶片岩の小礫を含む。砂層は全体的に腐植質であるが,数層の腐植物濃集薄層が存在する。G層は断層運動を強く被っており,東面では引きずられながら分断され ている。

GH層(礫混じりシルト〜シルト質砂層)

H層は灰色を呈する礫混じり砂層である。礫は新鮮硬質な結晶片岩主体で径2cm前後の亜円礫〜扁平板状礫である。砂層は中粒砂〜細粒砂で構成され,部分的にシルト分を混じえる。またH層の上面は北へ約40°程度で急傾斜している。

HI層(腐植質砂礫層)

I層は結晶片岩礫で構成された腐植質砂礫層である。礫は一般に偏平状の角礫である。

IJ層(砂礫層)

J層は径2cm前後の新鮮硬質な結晶片岩主体で構成された砂礫層である。礫は亜円礫〜偏平板状礫である。J〜L層は断層運動の影響を大きく被っており,各層は断層面付近で北に約50°と急傾斜している。

JK層(礫混じり粘土層)

K層は暗赤褐色を呈し,径1cm程度の片岩礫を介在する腐植質粘土である。

KL層(シルト質礫層)

L層はオリーブ灰〜褐色を呈するシルト質礫層である。礫は中硬質〜軟質化する結晶片岩で径1〜5cmの亜円礫〜偏平板状礫である。褐色を呈するシルトまたは砂が基質を構成している。

なお,ボーリング調査ではLV段丘堆積物相当層および岡村層が認められたが,トレンチ壁面にはこれらの地層は分布していない。

(2)地質構造

1) 断 層

断層は,東面では2条(南からF1,F2断層),西面で1条(F3断層)認められる。東面のF1断層の走向傾斜はEW・90°,F2断層は,N72°・E62°S,西面のF3断層の走向傾斜はN84°・W82°Nである。東面のF2断層はD〜H層までを切断している。F1断層はC層下部まで変位を与えているのが確認できる。西面のF3断層は,E層まで変位させているが,D層に覆われている。またF3断層直上では,DおよびB層は北に約12°傾斜し,A層は傾斜するB層を水平に堆積して覆い,北側ほど厚くなっている。

2) 変形構造

G,HおよびF層は断層運動を強く被っており,東面では引きずられながら分断されている。またG層上面は北へ約40°程度で急傾斜しているが,E層以上の各層の傾斜が約10°前後である事から,被った断層運動に相違があることが推定される。

断層より南側に分布するJ〜L層はF1およびF3断層により断層面付近で引きずられ,北に急傾斜している。

E層は断層によって引きずられており,断層面に沿って礫が直立していることが観察される。また,東面のD層中には直立した礫が多数観察でき,D層はB層を突き破るように分断している。

(3) 断層活動

1)イベントT

東面ではD層まで変位を受けている。その上位のB層には断層変位がないように見えるが,D層およびB層の構造が乱れており,強い地震動の影響を被っている可能性が示唆される。一方,西面では,B層およびD層が断層を覆って堆積しており,断層変位を受けていないように見えるものの,B層は北へ12°傾斜しており,この傾斜は地形面の傾斜より有意に大きいため,断層運動によって変形している可能性も考えられる。これらのことを考慮すると,B層は断層による変形を受けている可能性があるものの断定しがたい。なお,A層は傾斜するB層を水平に覆っているため,断層活動後の堆積物と判断される。したがって最新活動時期であるイベントTはD層堆積後,A層堆積前とやや広めに推定する。

2)イベントU

西面では断層によって大きく変位および変形を受けているE,F層を侵食してD層が堆積している。このことから,1つ前の活動時期であるイベントUはE層堆積後,D層堆積前と推定される。

3)イベントV

G層の傾斜および鉛直変位量が,F層の傾斜および鉛直変位量と比較して著しく大きい。またF層が断層の北側で厚く堆積している可能性がある。これらのことから,2つ前の活動時期であるイベントVはG層堆積後,F層堆積前と推定される。