岸ノ下西(A)地点では,岡村断層が通ると推定されるAT面(沖積面,1万年前より新しい地形面)を対象にトレンチ調査を実施した。なお当地点は中田(1998)によりジオスライサー(地層の抜き取り調査)による調査が行われ,最新活動時期が1,682±104A.D.以降と報告されている。トレンチ調査の結果,高角度で南に傾斜する断層が認められ,耕作土直下の地層まで変位を与えている事が確認できた。
(2) トレンチの地質状況
本トレンチでは,高角度で南に傾斜する断層を介して,南側の岡村層と北側の沖積層が接している。北側の沖積層は上位からA層(礫混じり砂〜礫混じりシルト層),B層(シルト層),C層(礫混じりシルト質砂層),D層(腐植質砂層),E層(砂〜礫混じり砂層),F層(腐植質砂礫層),G(腐植物混じり砂礫層),H層(砂礫〜腐植質砂層),I層(シルト混じり砂礫層),J層(砂礫層),K層(礫混じりシルト層)の各層に区分される。また岡村層は,T層(シルト質砂層),U層(礫層),V層(腐植質粘土層)の各層に区分される。
断層は南側の岡村層およびD〜K層を切断し,断層に沿って礫は直立している。断層直上では,A,B,C層および耕作土が薄く覆っている。
(3) 活動履歴
1) イベントT(最新活動時期)
トレンチ壁面の観察から,最新の活動時期と考えられるイベントTはD層堆積後,C層およびB層堆積前である(図3−4−5,図3−4−6)。
14C年代測定によればD層中の腐植質砂から,1,090±40y.B.P.,2,360±60y.B.P.,C層中の腐植質シルトから1,200±60y.B.P.,B層中の腐植質シルトおよび材から670±60,960±70y.B.P.の14C年代値が得られている(表3−4−5)。C層は断層運動によって隆起側から崩落した堆積物と考えられ,D層より古い年代値となっている。したがって,イベント後の年代値はB層基底の960±70y.B.P.を採用する。よって,イベントTは1,090y.B.P.以降,960y.B.P.以前と考えられる。この暦年はAD885〜1,235年である。
2) イベントU
トレンチ壁面の観察から,イベントUはH層堆積後G層堆積前である。H層中の腐植質砂からは4,530±40y.B.P.,G層中の腐植質礫からは2,230±80y.B.P.,F層中の腐植質砂からは2,650±80y.B.P.の14C年代値が得られている。したがって,イベントUの年代は4,530y.B.P.以降,2,230y.B.P.以前と考えられる。
3) イベントV(確実度低い)
トレンチ壁面の観察から,イベントVはJ層堆積後,I層堆積前と推定されるが,確実度は低い。J層からは14C年代値は得られていないが,I層中の腐植質砂からは4,910±60y.B.P.の14C年代値が得られた。したがって,イベントVの時期は,4,910y.B.P.以前と考えられる。
(4) まとめ
本トレンチによって岡村断層の活動履歴は,以下の通りである。
@イベントT(最新の活動時期):1,090〜960y.B.P.(AD885〜1,235)
AイベントU(1つ前の活動時期):4,530〜2,230y.B.P.
BイベントV(2つ前の活動時期):4,910y.B.P.以前