(2)トレンチ調査

新居浜市岸ノ下西(A)地点では,岡村断層が通ると推定される沖積面を対象にトレンチ調査を実施した。なお,当地点は中田ほか(1998)によりジオスライサー(地層の抜き取り調査)による調査が行われ,最新活動時期が1,682±104A.D以降と報告されている調査地点である。

図3−4−4にトレンチ地点の平面図を,図3−4−5図3−4−6にスケッチ図を示す。

(1) 地質構成

1) 沖積層

沖積層は,断層の北側に露出しており,ほぼ水平な堆積構造を保存している。

本トレンチに露出する沖積層は, 上位より以下の通りである。

@A層(礫混じり砂〜礫混じりシルト層)

A層は,約30cmの層厚で黄褐色を呈する礫混じり砂層である。礫は中硬〜軟質で,径約2cmの板状である。基質を構成する砂は中粒砂〜細粒砂でシルト分を混じえる。側方への連続性が悪く,主に東面に分布している。

AB層(シルト層)

B層は,層厚50cm〜100cmの灰色を呈する礫混じりシルト層である。礫は,径数pの偏平状の結晶片岩礫である。基質は灰色シルトで,結晶片岩起源の細砂を含む。東面ではほぼ水平な堆積構造を示しているが,西面(特に北西部)で薄くなる傾向を示  す。

BC層(礫混じりシルト質砂層)

C層は東面の断層付近にのみ分布する。主として礫混じりシルト質砂層で構成され,断層の南側から崩落した崩積土と推定される。

CD層(腐植質砂層)

D層は層厚10〜30cmの暗赤褐色を呈する腐植質砂層である。G層との境界が滑らかであり,ほぼ水平に堆積している。

DE層(砂〜礫混じり砂層)

E層は層厚約50cmの暗灰色を呈する砂層である。礫は主として径5cm前後の亜角〜亜円を呈する結晶片岩である。一方基質は,青灰色を呈する結晶片岩起源の中粒砂〜粗粒砂である。E層はトレンチ北西部にのみ分布している。

EF層(腐植質砂礫層)

F層は層厚約30cmの黒褐色を呈する腐植質砂礫層である。礫は約10cm程度の偏平状の結晶片岩礫である。F層は西面にのみ分布している。F層からD層はG層堆積時の西側の渓流の洪水後の河川堆積物と考えられる。

FG層(腐植物混じり砂礫層)

G層は層厚約100cmの暗緑灰色を呈する腐植物混じり砂礫層である。礫は約10cm程度の偏平状の結晶片岩礫である。G層はH層を大きくえぐっており,礫主体の砂礫層であることから洪水時の堆積物である可能性が高い。

GH層(砂礫〜腐植質砂層)

H層は黒褐色を呈する砂礫〜腐植質砂層である。礫は主として径10cm前後の結晶片岩礫(亜円礫)である。また基質は黒褐色を呈するシルト質砂〜細礫である。H層は,礫層間にほぼ水平に2枚の腐植質砂層を挟在している。

HI層(シルト混じり砂礫層)

I層は黒褐色を呈するシルト混じり砂礫層である。I層はJ層上にほぼ水平に堆積している。

IJ層(砂礫層)

J層は緑灰色を呈する砂礫層である.礫は主として径0.5〜3cmの結晶片岩礫(亜角〜亜円礫)である。基質は中粒砂〜細粒砂で,部分的にシルト質である。J層は東,西および北面において一様に分布している事から,本地域一帯に生じた洪水時の堆積物である可能性が高い。またJ層中には直立した礫が多数存在することから,断層運動により再配列したものと考えられる。

JK層(礫混じりシルト層)

K層は灰色を呈する礫混じりシルト層である。礫は径約2cm,亜角〜亜円礫を呈する結晶片岩である。基質は一般に灰色(10Y6/1)を呈するシルトまたは砂である。K層は南側の断層付近にのみ分布し,北へ急傾斜を呈している。

2) 岡村層

本トレンチに露出する岡村層は, 40〜60°程度南傾斜の構造を呈している。トレンチ南方に分布する岡村層はほぼ水平な堆積構造を示すことから,この傾斜構造は断層 運動によるものと考えられる。

本トレンチに露出する岡村層は上位より以下の通りである。

@T層(シルト質砂〜シルト層)

T層は腐植物を混じえるシルト質砂〜シルト層であり,一般的に褐色または灰色を呈し,部分的に特徴的な虎班模様を示す。

AU層(礫層)

U層は赤黄褐色を呈する礫層である。礫は中硬〜軟質な結晶片岩からなり,径1〜3cmの偏平板状〜亜円礫である。基質を構成する砂は結晶片岩の黄褐色を呈する風化生成物である。

BV層(腐植質粘土層)

V層は,暗褐色を呈する腐植質粘土層である。一般に木片を多量に含み,また少量の径1cm程度の片岩礫を含む。

(2) 地質構造

1) 断 層

本トレンチでは,東面に1条(F1断層),西面に2条(F1断層,F2断層)の断層が確認できる。それぞれの断層の走向傾斜は,F1断層が,N76°E・86°NないしN78°E・82°Sであり,F2断層がEW・72°Sである。これらの走向は,ほぼリニアメントの走向と一致する。本断層は岡村層と沖積層との高角度の断層で,南側隆起の変位を示す。また,数条の派生断層が沖積層および岡村層中に存在する。断層は岡村層およびD〜K層を切断しており,直上ではA,B,C層および耕作土に覆

われる。断層に沿っては礫の直立が明瞭となっている。

2) 偏平礫の配列方向

断層の運動形態を検討するため,断層周辺の偏平礫の配列方向を調査した。調査方法は,岸ノ下西トレンチ東面および西面のJ層において礫層中の偏平礫の長軸方向を測定し,その走向傾斜をステレオネットと,ローズダイアグラムにそれぞれ整理した。なお,測定個所を断層から1mの区間をA,1m〜2mの区間をB,2m

以上の区間をCとし,それぞれの領域に分けて検討した(図3−4−7)。

@偏平礫の長軸の走向傾斜

本トレンチの礫の走向は東面および西面において測定領域全体でほぼ一定しており,NE−SW方向を呈し,ほぼリニアメントの走向方向と一致している。一方傾斜は,特に西面において全体的に高角度に傾斜した礫が多い傾向を示す。

さらに,最も断層に近い領域Aの礫がより高角度に傾斜する傾向を示している(図3−4−8図3−4−9図3−4−10図3−4−11)。

A調査結果

偏平礫の長軸方向は測定領域全体でほぼ一定でありNE−SW方向を示し,ほぼリニアメントの走向方向と一致している。これは,断層の横ずれによる再配列の可能性が高い。

(3) 断層活動

1) イベントT(最新活動時期)

D層は断層によって切断されている。東面では地表下0.6mの箇所では断層面は北に曲げられ,岡村層(I層)が断層を覆うように分布している。またC層の堆積構造から,C層は断層運動後に隆起側(南側)からの小崩壊によって形成されたと推定される。また,B層は東面ではC層を覆うように堆積し,西面では断層変位を受けたF,H層および岡村層を直接覆っている。したがって,最新活動時期はD層堆積後,C層およびB層堆積前と推定される。

2)イベントU

東面では,H層を切るF−1断層の派生断層がG層に覆われている。また,F−1断層と派生断層との間に形成された幅10〜20cmの礫の直立ゾーンもG層に覆われている。

G層は土壌や植物根を混在する礫層で,断層活動後の崩壊堆積物(沖積礫層起源)と推定される。したがって,1つ前の活動時期はH層堆積後,G層堆積前と推定される。

3)イベントV(確実度低い)

J層は偏平礫が直立するほど著しく乱されており,断層運動による再配列を受けた可能性が考えられる。一方,I層およびH層中の腐植土がほぼ水平に堆積しており,両層間で変形の差が認められる。したがって2つ前の活動時期は,確実度はやや低いがJ層堆積後,H層堆積前と推定される。

本トレンチによって岡村断層が少なくとも3回以上の断層活動を生じている事が明らかになった。活動履歴は以下のようである。

@イベントT(最新の活動時期):D層堆積後,C層およびB層堆積前

AイベントU(1つ前の活動時期):H層堆積後,G層堆積前

BイベントV(2つ前の活動時期):J層堆積後,I層堆積前〈確実度低い〉