(4)解 析

1) 概  要

本トレンチでは,低断層崖が内川の側方侵食により後退し,埋没したと思われる水田を対象にトレンチ調査を実施し,少なくとも2回の断層活動を確認することができた。

2) トレンチの地質状況

堆積物は地表からA層(礫混じり砂質シルト層),B層(シルト混じり砂礫層),C層(シルト質砂層),D層(砂礫層),E層(腐植質シルト層),F層(シルト質砂層),G層(腐植土混じりシルト層),H層(シルト混じり礫層),I層(砂層),J層(腐植土混じりシルト層)K層(砂礫層)の各層に区分される。

本トレンチでは,北へ傾斜する2条の断層(南からF1断層,F2断層)によって沖積面を構成する堆積物が北側が隆起するように変形している。

F1断層は,西側法面でK〜B層を切断,変位させている。断層は N74゜Wの走向で,北へ68゜傾斜し,断層に沿ってB層が落ち込んでいる。F層(シルト層)上面では,鉛直方向で約20cm南側低下の変位が認められる。F1断層は東側法面では不明瞭で確認 できない。

F2断層は,西側法面でK〜E層を切断,変位させている。断層はN80゜Eの走向で,北へ80゜で傾斜している。東側法面では,B層まで変位を受けて,A層に覆われている。東側法面におけるE層,G層の鉛直変位は方向で約20cm南側低下である。

3) 活動履歴

・イベントT(最新活動時期)

トレンチ壁面の観察では,最新活動時期に対応するイベントTは,B層堆積後,A層堆積前である。黒褐色の炭質物を含む土壌の14C年代測定によれば,A層から3,730±40y.B.P.と4,690±40y.B.P.の,B層から4,560±40y.B.P.〜2,940±40y.B.P.の14C年代値が得られている(表3−1−9)。

一方,B層からは須恵器の破片が採取され,これは得られた14C年代と矛盾する。

また,14C年代値を単純にあてはめると,B層よりA層の方が古くなり,層序と矛盾する。これは,測定に使用した炭質物が,現地性の腐植土ではなく,後背地にあった古い炭質物が再堆積した可能性を示すものと推定される。したがって,ここでは14C年代値よりも須恵器の産出を優先して採用する。

B層中の須恵器は,流されて円摩していることから,自然堆積の可能性が高い。したがって,B層は須恵器作成以降の時代,すなわち古墳時代中期〜平安時代以降堆積したと考えられる。よって,少なくとも,最新活動時期は6〜12世紀のある時期以降と推定される。

・イベントU

イベントUは,E層堆積後CおよびD層堆積前である。E層を構成する腐植土から5,220±110y.B.P.,C層中のシルトブロックから6,960±40y.B.P.,D層中のシルトブロックから6,700±50y.B.P.の14C年代値が得られている。この14C年代値も層序と矛盾する。

ここでは,2つのケースが考えられる。

@ 若い値を優先して採用すると,イベントUの時期は5,220±110y.B.P.以降,古墳時代(B層)以前となる。

A 古い値を採用すると,イベントUの時期は7,990±40y.B.P.(G層)以降,6,700±50y.B.P.以前となる。

C,D層のシルト層のブロックは,洪水時に古い腐植土がとりこまれた可能性が高いこと,また,後藤ほか(1998)の学会発表における約5,500y.B.P.14C年代を示す腐植土層は,E層に対比できることから,@の場合が妥当と考えられる。すなわち,1つ前の活動時期は,5,220y.B.P.〜約1,500y.B.P.(6世紀)と推定される。

4) まとめ

以上をまとめると,本トレンチで判明した重信断層の活動時期は以下のとおりである。

@イベントT:6〜12世紀のある時期以降

AイベントU:5,220y.B.P.〜6世紀(約1,500y.B.P.)

表3−1−9 高井東トレンチにおける14C年代値とイベント時期