当地域では,高位および中位段丘堆積物はほとんど分布していない。岡田(1972)および高橋ほか(1990)は高野川付近の段丘面を中位段丘としているが,後述するように武蔵野面相当の低位(LI)段丘の可能性が高いと判断される(図4−9)。
LI面段丘堆積物は,高橋・永井(1972)による高野川層の一部に相当し, 高野川付近の標高20〜40mの平坦面(高野川面)を形成する。本層は高野川付近の国道 378号線沿いの段丘崖の分布する。LI面段丘堆積物は,黄褐色の砂質〜シルト質の基質を持つ固結度のやや低い礫層で,和泉層群,安山岩類および郡中層〜八倉層相当層を覆っている。本層の大部分は,後述の姶良Tn火山灰を
含む礫層の不整合に被覆され,数mの層厚である。不整合面はやや起伏に富み,5m程度の凹凸が認められる。本層は,デイサイト,安山岩および和泉層群の砂岩礫を主体とし,基質に火山灰を含まないことから,姶良−Tn火山灰を含む礫層から区別される。Iy−5では,基質から淡水産の浮遊性珪藻化石がわずかながら産するため,流れのある河川の堆積物と推定される(四国電力,1985)。
本層からは,堀越・他によって,29,300年B.P.の14C年代が報告されているが,Iy−3上流における本層に含まれている木片および腐食質シルトの14C年代はいずれも>40,000年B.P.である(四国電力,1985)。従って本層は,14C年代から立川面ではなく武蔵野面相当層と考えられる。
姶良−Tn火山灰を含む礫層は,明神山等の背後の山地から供給された土石流〜扇状地堆積物で,LI段丘面を被覆する。層厚は数m以内である。本層は,デイサイト,安山岩の礫を主体とする未固結の礫層である。基質は,著しく火山灰質で,姶良−Tn火山灰を挟む。この火山灰は,最も純度の高い部分でも20%程度の不純物を含んでいる。鹿島・他(1982),高橋・他(1990)が報告した火山灰は,本層から採取したものと推定される。また,本層の基質および火山灰層からは,淡水産底棲の珪藻化石を産出し,流れのよどんだ河川もしくは,湖沼を伴った河川の堆積物と推定される。本層は,立川面相当層で,2〜3万年前の堆積物と推定される。
LI面より一段低いLU段丘面は,伊予地区清掃センター付近に分布する。
本層中の火山灰質シルト質は,鬼界アカホヤ火山灰を含んでいる(ピット掘り調査P−2)。
〔伊予市〕
H面段丘堆積物は,伊予断層の南側と伊予断層の北側とでは,堆積物の性質が異なっている。
伊予断層の南側のH段丘堆積物は,伊予市大道寺南の標高60〜80mの平坦面を構成する。本堆積物は,旧森川から供給された砂岩,流紋岩片岩の円礫を主体とする扇状地堆積物で,地表付近に赤色土を伴う。
これに対して,伊予断層の北側のH面段丘堆積物は,伊予市稲荷付近に分布する。ここでの堆積物は,赤色土を伴わないが,基質および礫の風化が進行し,固結度も非常に良い(ピット掘り調査 P−4,P−5)。礫は,和泉層群砂岩の亜角−亜円礫からなり,マトリックスサポートの土石流堆積物を主体としている。
LT面段丘堆積物は,伊予市上山付近に海浜堆積物が分布する以外はすべて河成堆積物である。伊予市上山の標高20m付近には,分級の良い良く円磨された中硬岩が分布する。基質は砂質で,赤色風化を受けて明褐色になっている。本層は,海浜礫と推定される。
河成のM面段丘堆積物は,伊予市市場〜上三谷にかけて,伊予断層の北側に分布する。本層は,伊予断層の南側の山地から供給された土石流〜扇状地堆積物からなる。
本地域では,双海町高野川地区と異なり,LT面の分布が乏しい。これは,本地域では,伊予断層の南側の山地から,継続的に土砂が供給され,LT面からLU面がほぼ連続的に形成された可能性も考えられる。
LU面段丘堆積物は,当地域に広く分布する。本層も伊予断層の南側から供給された土石流〜扇状地堆積物からなる。本層は,姶良−Tn火山灰を挟む(P−8', P−15)。
LV面の段丘は, 上記段丘面を開析する谷から海浜平野にかけて分布する。