郡中層は,伊予市森の海岸付近の丘陵に分布し,淡水性の礫,砂,シルトおよび粘土の互層から構成されている,非常に固結度の良い堆積物である(永井,1957;Saito,1962)。郡中層は,元来和泉層群を不整合に覆って堆積したものであるが,現在は,郡中断層とされる地質境界によって和泉層群と接している。
郡中層の層序は,海岸部でほぼ連続的に観察される。ここでは,郡中層は,粘土,シルト層を主体とする下部層,礫層を主体とする中部層および,粘土,シルト層主体の上部層からなる(図4−4−6 ,図4−4−7)。
図4−4−6 郡中層の地質図(長谷川,1993)
図4−4−7 郡中層の総合柱状図(長谷川,1993)
下部層は,青灰色〜黄灰色の粘土およびシルトからなり,礫層や砂層をはさむ。シルト−粘土層中には,植物化石を含む炭質層が挟まれている。礫は,中礫を主体とする円礫〜亜円礫である。そのほとんどは和泉層群の砂岩で,わずかに石鎚層群の流紋岩類,領家花崗岩類を含む。三波川変成岩類の礫は,ほとんど含まれない。また,礫層や砂層中には,トラフ状の斜交層理が観察される。
乳白色ガラス質火山灰層(GT−1)等の特徴のある火山灰が挟まれている。
中部層は礫層を主体とし,薄いシルト−粘土層が挟まれるが,炭質層はほとんど見なれない。また,ゴマシオ状の薄い火山灰層が挟まれている。礫は,三波川変成岩類,流紋岩,和泉層群砂岩の中−大礫からなる。本部層の下部は,ほとんど片岩礫からなり,中部では砂岩の割合が増加し,上部では流紋岩礫を多く含む。中部層の礫の淘汰は,下部層に比べて悪い。
上部層は,黄灰色シルトおよび礫層を主体とし,植物化石を含む炭質シルト−砂層を多数挟む。また,ゴマシオ状の薄い火山灰を数枚挟む(水野,1987)。
礫層は,砂岩,片岩,流紋岩等の中−大礫からなる。
郡中層は, Metasequoiaなどの植物化石や淡水性の貝化石,珪藻化石を産し,鮮新世後期〜更新世前期の湖沼性堆積物と考えられている(八木・日山,1954;八木,1957;Saito,1962)。水野(1987)は,本層の時代を鮮新世後期〜更新世前期とし,その上限は,1Ma頃と推定している。
郡中層中には,特徴的な火山灰が挟まれている(高橋・鹿島,1985;松井・他,1985;水野,1987)。このうち下部層の最下部に近い層準に挟まれるGT1火山灰は, 高純度の細粒ガラス質で,軽石型火山ガラスがバブル型火山ガラスより多い。火山ガラスは無色で, 屈折率は1,510 〜1,512 の範囲で, 最頻値は1.511 である。有色鉱物は斜方輝石>磁鉄鉱>単斜輝石である。斜方輝石の屈折率は, 1,703〜 1,706で,1.705 に最頻値を持つ。本火山灰中から分離したジルコンのフィッヨントラック年代は,1.9 ± 0.7Maである(松井・他,(1985)。郡中層中のシルト層および火山灰層の古地磁気は,M3を除いてすべて逆帯磁をし,松山逆磁極期に相当する(松井・他,1985)。M3正帯磁は下位のGT1火山灰のフィッショントラック年代から,Olduvai かReunionevent に相当する可能性が高い。
以上の結果を総合すると, 地表に分布する郡中層は, 後期鮮新世〜前期更新世にかけてのおよそ1〜2Maの時代と推定される。
また, 反射法地震探査によれば, 地表で急傾斜する郡中層の下位には, 数100mに達する厚い堆積物がある。本層は郡中層の最下部層と考えられる。したがって, 郡中層の時代は,後期鮮新世よりさらに古くなる可能性がある。
[地質構造]
郡中層は,N10°〜80°E の走向で, 北へ40°〜85°傾斜している(図4−4−8)。また,斜交層理,級化層理等から,地層は北上位の同斜構造を形成している。すなわち,郡中層は, 鮮新−更新統であるにもかかわらず,一部では,直立に近いほど急傾斜しており,しかも走向,傾斜のばらつきが著しい。層理面の傾斜は, 和泉層群との境界付近(郡中断層)でほ直立するものの,郡中層の分布の北端部の上山では, 40 °と緩傾斜である。しかし,郡中断層から遠ざかるにしたがって, すなわち地層の上位に向かって次第に緩傾斜になるわけではない(高橋・鹿島,他1985)。
郡中層中には,NS〜 NWN走向で, ほぼ鉛直な小断層が観察される。これらの断層は密着しており,断層面に沿って走向変位を示す条線が形成されている。したがって, 見掛け上は,落差が数mの正断層であるが,水平変位はこれより大きいと推定される。ただし,これらの断層は,内陸部に追跡できないし(高橋・鹿島,1985), 郡中層中の岩層分布に影響を与えていないので,局所的なものと推定される。また,ほとんど破砕を伴わないことから,これらの断層は,郡中層が未固結〜半固結時に形成された可能性が高い。郡中層相当層は,伊予灘海底に広く分布し,伊予灘層と呼ばれている(緒方,1975)。緒方(1975)の音波探査結果によると,伊予灘層は,ほぼ全域で水平構造を形成しているが,森の海岸付近と伊予断層延長部で傾斜している。このうち,伊予断層延長部では,極めて緩い褶曲構造を形成しているにすぎず,急傾斜構造なのは森の海岸付近に限られている。四国電力(1984)の音波探査データによると,郡中層に対比されるT層の急傾斜構造の範囲は,伊予断層の北側の和泉層群に隣接する狭い範囲に限られており,極めて局所的な構造である。
また, 反射法地震探査によれば,郡中層は不調和な褶曲構造をし,上位層ほど傾斜が急になっている。これは, 郡中層のひきずりでは説明できず, また,通常の褶曲とも異なる。
図4−4−8 傾斜する郡中層(伊予市森の海岸)
図4−4−9 伊予断層北側の丘陵を構成する八倉層相当層(伊予市宮下)