8−2−3 東部地区

高鶴(畑)地区では、空中写真判読・地表踏査結果により、リニアメントを挟んで北側の緩傾斜地が、埋積された断層沈降盆地地形であると考えていた。そのため、他の南断層の調査地区と同様に、沈降側でボーリング調査を実施し、実際に沈降しているかどうかの確認を行った。その結果、2本のボーリングのいずれにおいても、リニアメント北側の第四紀堆積物は、3m程度と極く薄いことがわかった。したがってリニアメント北側の緩傾斜地形は、断層沈降盆地ではないことが分かった。また北側緩傾斜地の基盤を被覆する未固結堆積物の年代は、ほとんど現在と同じ新しいものであるという結果が得られている。

それに対し、リニアメントを挟んだ南側には、急峻な地形と、小さな段丘面が発達する。それらの段丘面は、いずれも未固結な堆積物が薄い。これは、河川の浸食力が強かったと推定される。

以上より、当初、断層沈降盆地であると推定された地形は、未固結な第四紀層が薄く、断層沈降盆地ではないことが分かった。従って、リニアメント抽出の根拠となった断層沈降盆地状の地形は、岩質の違いによる差別浸食の結果形成されたと考えられ、調査地付近に活断層が存在する可能性は低いと考えられる。

鴨川低地断層帯南断層をその分布形態から、西部地区、中部地区、東部地区の3地区に区分して、各種の現地調査を実施した。その結果、もっとも変位している可能性が高いと考えられた西部地区においても、実際には段丘面は変位しておらず、リニアメントは、岩質の硬軟の差による差別浸食を反映している可能性が高いことが分かった。また、中部地区及び東部地区でリニアメントを挟んで、顕著に認められた断層沈降盆地状地形についても、実際には沈降しておらず、南断層全体で、活断層の活動を裏付ける証拠は認められなかった。そのため活断層の存在する可能性は低いと考えられる。

ただし、リニアメントは地質時代の断層や、破砕帯を反映している可能性があり、地質的には弱層である可能性は高い。そのため、直接活動するよりも、ほかの原因(元禄地震や大正関東地震などのプレート境界に発生する海溝型)で、地すべり等の土砂災害の発生が懸念されるため、それらに対しての注意が必要であると考えられる。また、海岸部では同様の理由にて、津波等に警戒する必要があると考えられる。