5−3 14C年代測定調査

本調査では、断層の活動年代、変位量、地層の堆積環境等を把握するために、トレンチ壁面及びボーリングコアより分析用の試料として、数十個の試料を採取し、14C年代測定を行った。

14C年代測定にはβ−線係数測定、加速器質量分析測定と2種類ある。いずれの方法も生物遺体等の内部の14C/12C比を求めて年代値を推定する方法である。生きている生物(植物)は大気や海水中の炭酸ガス・炭素イオンの14C濃度と等しい、ほぼ一定の値を示す。しかし、死ぬと一定に保つ働きはなくなる。その結果、放射性炭素である14Cは、時間がたつにつれて14Cから12Cへの壊変がすすむ。そのため、生物遺体中の14Cと12Cの比を求めることによって、生物が死んでからの時間を推定することが可能となる。β−線係数測定は、この比を求めるために14Cが放出するβ−線をカウントすることで、14Cを定量するものである。一方、加速器質量分析測定は14Cと12Cのわずかに重さが違うことを利用して、これら2つの元素を分離し、定量を行うものである。

放射年代測定は他にも様々なものが利用されている。14Cの測定レンジが0〜5万年程度と、比較的新しい部分を対象としているため、活断層調査では、断層の最終活動年代や、地層が断層によって、いつ変形させられたのかを調べるのに用いられる。また、その分析に用いる試料は生物遺体(植物片、材)や有機質土であり、変形している部分から直接採取した。

 天然物の炭素には、12C、13C、14Cの3種の同位体が存在する。これら同位体の大部分は12Cが占めている。これらのうち、12Cと13Cは安定同位体で、14Cは放射性同位体である。安定同位体である13C/12C比は一定の同位体比を示すのに対し、14Cは放射崩壊するために、14C/12C比は時間とともに時間の経過とともに半減期(5730年)に従って小さくなっていく。これが、放射性炭素14Cが年代測定に用いられる基本原理である。

 14Cは高層大気中で、大気の主成分である窒素ガスと宇宙線との反応によって生成され、宇宙線強度、地球磁場の変動、太陽活動の変動、核実験の影響がない限り、大気中のCO2の14C/12C比は一定である。

一定の14C/12C比をもった大気の二酸化炭素は、食物連鎖によって各生命体に取り込まれる。それら生命体の14C/12C(14C/13C)は、大気中のCO2のそれと同じである。これら生命体の死後は、外部からの供給が無くなるため、取り込まれていた14Cは減少していくのみとなる。その現象の速度は、14C固有の半減期により規定される。

一般的に、放射性同位体の崩壊程度と経過時間tとの関係は、次の式で示される。

N=N0・exp(−λ・t)

すなわち

t=(1/λ)ln(N0/N)

N0:閉鎖系成立時(t=0)の放射性同位体の原子数

N:経過時間tをへた時の放射性同位体の原子数

λ:放射性同位体の壊変定数

この式を放射性炭素の場合について、14C/12Cと、半減期T1/2を用いて書き直すと、つぎのようになる。

t=(1/λ)ln(14C/12C)0/(14C/12C)

=(T1/2/0.693)ln(14C/12C)0/(14C/12C)

T1/2:14Cの半減期(現在では、5730年が正しいとされているが、国際的な申し合わせにより、5568年を用いることになっている(歴年代の項参照)。

(14C/12C)0 :閉鎖系成立時(生命活動停止後)の試料または、大気CO2の同位体比1950ADの樹木年輪を便宜上、標準としている。

(14C/12C) :試料の同位体比

一般的に、前項までで述べてきた14C年代は、歴年代と一致しない。その理由は、主に以下に示すようなことによる。

@ 試料炭素物質が、過去に生成された当時の大気CO2の14C濃度が、現代(1950年AD)のそれとは必ずしも同一でない。この時間的変動に加えて、空間的な変動(たとえば、南北両半球間の相違もあることが知られている。

A 前述の14C年代計算に用いた半減期(5568年)が、現在もっとも信頼されている半減期(5730年)とは、2%程度異なっている。従来半減期として用いられている5568年を用いることは、14C年代値に混乱を起こさないための国際的な申し合わせである。

@の原因として、銀河宇宙線の強度変化、地球磁場の変動、太陽活動の変動、水圏からのCO2の供給量の変動により引き起こされる。また、最近では、化石燃料からのCO2や核実験の影響もある。この年代0年の時間的、空間的変動のうち、時間的変動及び半減期問題に関しては、樹木年輪補正曲線により補正することができる。すなわち、歴年代既知(年輪年代学)の年輪について、14C年代測定を行うことにより、歴年代と14C年代との補正曲線を求めることができる。この曲線を用いて補正したものが14C歴年代値である。現在のところ、この歴年代への補正曲線は、約8000年BC以降についてのみ、実用化されている。