3−1−3 鴨川地溝帯南断層の総合評価

鴨川地溝帯南断層は、中央部付近で不明瞭になる以外は、南側隆起の特徴を顕著に示す断層といえる。表3−1−2に精査箇所での変位地形等の特徴を簡潔に示す。

表3−1−2  鴨川地溝帯南断層の地区別特徴

以上に示す地区ごとの特徴に基づいて、今年度の調査で把握した南断層全体的な特徴は、以下のようにまとめられる。

@ 南断層は、リニアメントとしては、大別すると岩井海岸〜平久里川左岸までの区間と、古畑西方〜竹ノ中〜畑谷〜太海にわたる区間で、連続性が認められる。

A 東部地区において、河川が右側に屈曲する部分もあるが、系統的ではない。

B 調査地全域で、リニアメントを横断する古い段丘(6000年以前)はほとんど認められない。唯一、このような段丘面が存在するのが平久里地区であり、リニアメントを横断する部分で、同一段丘面が変位している部分が認められる。

C 地すべりは、全域で発達しているが、中部及び東部では、リニアメントを挟んで北側で顕著に発達する。

D リニアメントを横断して南側では、南流する河川沿いに段丘の発達が顕著である。

E それぞれの断層変位は相対的に南側隆起である。

特に南流する河川沿いの段丘面対比において、段丘面分布が変位による影響を受けている可能性が高いが、リニアメント付近の調査のみでは、段丘面の正確な対比が困難である。そのため平久里地区(平久里川)、古畑地区(丸山川)、竹ノ中地区(三原川)、高鶴地区(洲貝川)のそれぞれで、調査範囲を広げて、海岸部からそれぞれの調査地区までの詳細な段丘面の対比を行った。その一覧を表3−1−3に示す。

表3−1−3はリニアメントを横断して南流する河川について、それぞれ海岸線より段丘面区分を行った結果を示したものである。それぞれの区分は、上位ほど古い段丘面を示している。また、リニアメントは二重線でしめしてあり、リニアメントを横断してそれぞれの精査地点での詳細な段丘対比と、沼面との対比を行った結果を示す。“=”で結んである部分については、直接対比可能であると考えられるもの、“?”は直接対比できないものの、対応が推定されるものである。

この結果から、沼T面については、いずれの河川でも、リニアメントを挟んで段丘面高度の分布に不連続が認められ、相対的に南側が隆起しているという形態を示す。

沼U面については、平久里川では変位が認められるが、それ以外の地域では、リニアメントを挟んで、段丘面の高度分布はほぼ連続するため、河川勾配による高度差のみ変形していると考えるか、もしくは無理に変位をしていると考えなくても、対比可能である。

また、各河川において沼U面よりも新しい面については、精査結果で認められる段丘面とほぼ1対1で対応するのに対して、変位を受けていると考えられる沼T面に対応する精査結果による段丘面区分では、単独の面を特定できない傾向が生じる。これは、沼T面相当にあたる時代に、リニアメント南側の相対的隆起側において、強制的な離水が起こって、本来は形成されるはずのない面が断層の活動に伴って、形成されたためではないかと推定される。

同様に、鴨川地溝帯南断層について、各河川沿い(平久里川、丸山川、三原川、洲貝川)に段丘の標高を、海岸部よりプロットし、各段丘面のプロファイルを作成した。その結果、いずれの河川においても、リニアメントよりも南側の部分で、河川勾配及及び地形の傾斜が急になる部分が認められ、しかも、それらは東西方向に系統的に連続するように見受けられる。これらの形成理由として、鴨川地溝帯南断層の活動に何らかの影響を受けている可能性が推定される。

以上、今回の調査の結果、南断層は、中央部の一部を除いてリニアメントとしては明瞭に認められ、断層変位の疑いのある地形が確認できた。さらに、南断層の最終活動時期は、段丘対比によって沼T面形成後の可能性を整理した。

また、一連の断層の可能性についても考察した。今後は、次章で述べるようにまず、平久里、岩井地点にて調査を進めることが望まれる。

図3−1−7 平栗川河口部〜精査地区までの段丘面を沼面に対比した結果

図3−1−8 丸山川河口部〜精査地区までの段丘面を沼面に対比した結果

図3−1−9 三原川河口部〜精査地区までの段丘面を沼面に対比した結果

図3−1−10 洲貝川河口部〜精査地区までの段丘面を沼面に対比した結果