(3)活動履歴の推定

完新統については様々な要素の誤差が考えられ、活動履歴の確証は得られないが、昨年度推定した最新活動時期(約3,500〜3,800年前)以降に断層活動は推定されない。更新統においては、変位基準となり得る地質が分布し活動履歴の推定があると考え検討を行った。以下に検討について順次示す。

以後の検討を行う際に、調査結果から仮定し固定する値を以下に示す。

・最新活動時期 3,500年前(平成9年度、液状化痕から推定した約3,500〜3,800年前から仮定)

・活動間隔 3,500年以上(最新活動時期から仮定)

・十和田八戸火砕流堆積物(To−H)の年代 約1.2〜1.3万年前(既存文献)

・十和田八戸火砕流堆積物(To−H)の標高差 約5〜6m(ボーリング調査及び既存ボーリングから推定)

・十和田大不動火砕流堆積物(To−Of)の年代 約3.3万年前(既存文献、年代測定結果)

・十和田大不動火砕流堆積物(To−Of)の標高差 約10m(ボーリング調査)

・腐植物層Uの約2万年前の同時間面の標高差 約7m(ボーリング調査及び年代測定から推定)

・上記した地層の標高差を断層変位で生じた変位量として考える。

@ 活動間隔が3,500年以上と考えられることから、To−H(約1.2〜1.3万年前)以降の断層活動の回数は3回以下と推定される。

A To−Hの標高差(約5〜6m)とTo−Hの断層活動の回数から単位変位量(鉛直方向)を推定すると、1回の場合約5〜6m、2回の場合約 2.5〜3m、3回の場合約1.7〜2mと推定される。東北地方における内陸主要活断層の事例研究(粟田,1998など)から単位変位量(鉛直方向)が5m以上になる可能性が低いと考えられることから、To−H以降に断層活動が1回であった可能性は低いとし、以下にTo−H以降の断層活動が2回ないし3回の場合について検討を進める。

B To−Hの年代(約 1.2〜 1.3万年前)、最新活動(3,5OO年前)及び活動間隔(3,500年以上)から、活動間隔は2回の場合4,250〜9,500年間隔、3回の場合3,500〜4,750年間隔と算出される。

C 図2−3−17−1図2−3−17−2にTo−Hの標高差を約6mとして単位変位量(鉛直方向)を仮定し推定した活動履歴を示す。これらの図ではTo−Ofの標高差とやや矛盾が生じる。以下ではTo−Hの標高差を約5mとして検討を進める。

D To−Hの標高差約5mから、単位変位量(鉛直方向)を、十和田八戸火砕流堆積以降の断層活動が2回の場合は約2.5m、3回の場合約1.7mと仮定する。

E To−H以降に2回の断層活動があり、単位変位量(鉛直方向)2.5m、活動間隔を4,250〜9,500年と仮定して活動履歴を推定すると、図2−3−18に示すとおりとなる。この図では活動間隔が長い(9,500年)ときはTo−Ofの標高差と矛盾しないが短い(4,250年)ときはやや矛盾がある。

F さらに、To−Ofは10mの標高差があり、単位変位量が2.5mであることから4回の活動を受けていることことになる。To−Ofの年代(約3.3万年前)、最新活動(3,500年前)及び4回の活動から活動間隔を推定すると、7,375〜9,833年間隔と算出される。この活動間隔と単位変位量(鉛直方向)2.5mで活動履歴を推定すると図2−3−19に示すとおりとなる。

G 図2−3−18図2−3−19で各地層と矛盾なく、重複する範囲は活動間隔7,375〜9,500年のときである。重複する範囲を図2−3−20に示す。このことから、To−H以降に2回の断層活動が起きた可能性が考えられ、活動間隔は概ね7,000〜10,000年程度として考えられ、平均変位速度(鉛直方向)は0.25〜0.36m/千年となる。

H 同様に、To−H以降に3回の断層活動があり、単位変位量(鉛直方向)1.7m、 活動間隔を3,500〜4,750年と仮定して活動履歴を推定すると、図2−3−21に 示すとおりとなる。この図では完全に矛盾は無くならないが、年代、断層の 活動間隔のばらつきなどの様々な誤差を考慮すると、3回である可能性は否 定されない。

I さらに、To−Ofは10mの標高差があり、単位変位量が1.7mであることから6回の活動を受けていることになる。To−Ofの年代(約3.3万年)、最新活動(3,500年前)及び6回の活動から活動間隔を推定すると、4,917〜5,900年間隔と算出される。この活動間隔と単位変位量(鉛直方向)1.7mで活動履歴を推定すると図2−3−22に示すとおりとなる。

J 図2−3−21図2−3−22で重複する範囲は無いが、その違いは200年以下であり、誤差要素を考慮すればこれを矛盾と考える必要はない。図2−3−23にTo−HとTo−Ofで仮定した際の範囲を示す。以上から、To−H以降に3回の断層活動が起きた可能性があり、この場合は活動間隔は概ね4,500〜5,000年程度と考えられ、平均変位速度(鉛直方向)は0.34〜0.38m/千年程度となる。