(1)調査結果

(1) 地質構成(ボーリング調査結果)

ボーリング調査で確認できた地質の構成及び特徴を以下に示す。この地質構成は、ボーリングでの層相境界を基に区分したものである。堆積環境が側方変化することなどを考慮するとボーリング地点で堆積環境が異なることが推定され、層相境界は漸移境界であり厳密には時間境界とは異なる。以下に層相を基に作成した地質断面図を図2−3−2に示す。北西側(B−2孔,B−3孔)と南東側(B−1孔,B−4孔)で更新統に段差が認められ、この間が入内断層の延長にあたると推定される。

<更新統>

砂層(P):

青灰色〜緑灰色の中〜粗粒砂を主体とし、比較的締まっている。B−1孔の33.23m以深、B−2孔の22.26m以深及びB−3孔の20.7m以深に分布する。

腐植物層T(O1):

腐植物、腐植質粘土及び腐植混砂からなり、比較的締まっている。B−1孔の30.13〜33.23m及びB−2孔の22.0〜22.26mに分布する。

十和田大不動火砕流堆積物(To−Of):

紫灰色の軽石火山灰を主体とし比較的固結する。層相及び火山灰分析結果から火砕流堆積物であると判断した。B−1孔の27.9〜30.13m、B−2孔の19.0〜20.0m及びB−4孔の27.35m以深に分布する。B−3孔では20.41〜20.7mで確認されるが、他の孔と層相がやや異なり軽石混粘土からなる。後述する火山灰分析で十和田大不動テフラと十和田八戸テフラが混合しており、陸上堆積及び激しい浸食が推定される。

腐植物層U(O2):

落下側(B−1孔の25.50〜27.90m及びB−4孔の24.80〜27.25m)では、炭化の進んでいない木材を含み、比較的締まった、腐植物層が厚く(約2.5m)分布している。上昇側(B−2孔の18.65〜19.00m及びB−3孔の20.30〜20.41m) では層厚0.5m以下の薄い腐植物層からなり、浸食されている可能性が高い。

十和田八戸火砕流堆積物(To−H):

B−2孔の17.73〜18.65mのみで確認された。やや黄色がかった灰白色の軽石火山灰を主体とし、比較的固結する。層相及び火山灰分析結果から十和田八戸火砕流堆積物であると判断した。同様の層相の軽石火山灰はB−1孔及びB−2孔のH1層の基底部に含まれる。これは浸食及び再堆積で形成されたと推定される。

<完新統>

完新統T(H1):

含水比が高く比較的軟質である。落下側(B−1孔の16.65〜25.50m及びB−4孔の17.10〜24.80m)では主にシルトからなり、貝化石が点在する。下部 (下限から約0.5m以内)に十和田八戸火砕流堆積物の再堆積物(φ5cm程度の軽石凝灰岩礫)を含むが、全体では層相変化が少なく湾の中央部で堆積したと考えられる。上昇側(B−2孔の12.20〜17.73m及びB−3孔の14.18〜 20.30m)では下部は砂、上部はシルトからなり、全体で上方細粒下の傾向が認められる。上部のシルト層(B−2孔の12.20〜15.10m及びB−3孔の14.18〜16.80m)は落下側と同様に層相変化が少ない。下部の砂層は海進時に海中に没してすぐの、水深が浅く砂が供給される環境での堆積物と考えられる。

完新統U(H2):

シルト分を多く含み、軽石粒及び貝殻片を混入する淘汰の悪い砂からなり、海岸近くの海底で陸水の影響下で短時間に堆積したことが考えられる。部分的に淘汰の良い砂層を挟在し、さらに細分化できる可能性はあるが、この砂層の連続性が不明であり、現在のボーリングの間隔では細分化することは難しい。B−1孔の9.95〜16.65m、B−2孔の9.00〜12.00m、B−3孔の9.84〜14.18m及びB−4孔の9.75〜17.10mに分布する。B−1孔の下部 14.62〜16.65m及びB−4孔の下部16.10〜17.10mは細粒でやや均質である。

完新統V(H3):

石英粒の多い淘汰の良い砂を主体とし、細粒(シルト等)の厚さ1cm以下の葉理が2〜3cm間隔で発達する。層相から海岸の極近傍で堆積した砂州の堆積物であると考えられる。B−1孔の3.50〜9.95m、B−2孔の2.90〜9.00m、B−3孔の2.91〜9.84m及びB−4孔の2.65〜9.75mに分布する。

完新統W(H4):

締まりが悪く非常にルーズである。基底部は腐植物を混入する砂礫で、上部は淡灰色の粗粒砂からなる。浜堤及び海岸の堆積物と考えられる。 B−1孔の0.50〜3.50m、B−2孔の0.70〜2.90m、B−3孔の0.60〜2.91m及びB−4 孔の0.48〜2.65mに分布する。

盛土・耕作土:

地表部は角礫を主体とした盛土が分布する。盛土の下位には、B−2孔は畑地であったことから耕作土が分布する。B−1孔、B−3孔及びB−4孔では海岸で材木置場として使用されていたことから、木片を混入した砂が分布する。

ボーリングコアの内で特徴的な火山灰層(十和田大不動火砕流堆積物及び十和田八戸火砕流堆積物等)の火山灰分析結果を表2−3−3−1表2−3−3−2に示す。

(2) 年代測定結果

放射性炭素年代測定結果の一覧を表2−3−4に、各ボーリング孔の年代値の遷移を図2−3−3−1図2−3−3−2図2−3−3−3に示す。この図では十和田八戸火砕流堆積物の年代を、1.25万年前、十和田大不動火砕流堆積物の年代を3.3万年前として示している。各試料の放射性炭素年代測定結果データは資料編に示す。撓曲変形を考慮し測定試料は両端のH10−B−1孔及びH10−B−2孔の試料を主体として採取し時間柱状図の確立を試みた。そのうち、更新統は腐植物層の上部及び下部、火砕流堆積物中の炭化木を試料とし、完新統は砂層中の貝殻及び腐植物片、挟材する薄い腐植質シルトを試料とした。貝殻、大きな木材以外は堆積物の全分析で分析している。

この結果で、同層準の貝殻(shell)と腐植物等(organic sediment)を比較すると貝殻(shell)が若い値を示す傾向にある。これについては、海成層中の腐植物は異地性であり、植物が堆積するまでの時間間隙があること及び再堆積したものが含まれることから、現地性の貝よりも古い年代値を示すと考えられる。

また、リザーバー効果、暦年代補正についても検討した。

海水中では、深海域の放射性炭素を含まない海水の循環で放射性炭素の割合が少なくなる。このため海水中で生息していた貝殻などは、実際の年代値より約400年程度古い値が測定されることが知られている。これをリザーバー効果という。しかし、陸水の影響によってリザーバー効果の程度が変化することなども考えられるが、詳細は明らかになっていない。

今回の測定結果にリザーバー効果を考慮すると、同層準の貝殻(shell)と腐植物等(organic sediment)の年代値の差が広がる。しかし、リザーバー効果の影響の有無及び程度について検討できるデータ(他の手法による年代測定値など)が無いことなどから、貝から得られた年代値と腐植物等から得られた年代値を別扱いし、リザーバー効果を考慮した場合と考慮しない場合で検討を行った。

放射性炭素年代値は、大気中の二酸化炭素に含まれる放射性炭素の割合が一定であるとして算出される。しかし、実際にはその割合が変化しており、更に正確な年代値を把握するために暦年補正が行われる。暦年補正は、樹木の年輪年代と放射性炭素年代測定の比較、珊瑚化石のウラン系列と放射性炭素の年代測定値の比較、湖成層の年縞と放射性炭素年代測定の比較等で現在も研究が進められており、その結果として暦年補正曲線が提唱されている。本調査では、一般的に比較的精度の良い1万年前以降の年代に対して、陸成の試料(腐植物など)は年輪年代との比較から得られた補正曲線を、海成の試料(貝殻など)は珊瑚化石のウラン系列年代測定との比較から得られた補正曲線を利用して補正を行う。本調査でも上記の方法と同様の暦年補正を行っている。表2−3−4に暦年補正の1シグマの値を示したが、年代測定値と同様な傾向を示し、値の逆転など大きく変わるものはほとんど無い。腐植質シルトからなるB−2孔深度8.50mの試料は、唯一大きく古い値になる可能性があるが、他の腐植物の測定値が貝の測定値と比較して古い値が得られるのと同様な傾向を示し、検討の際には影響が少ない。これらの検討から本調査では暦年補正を行っていない放射性炭素年代値を用いて検討を行った。

(3) 花粉分析結果

<花粉化石>

花粉分析の結果を表2−3−5−1表2−3−5−2表2−3−5−3表2−3−5−4表2−3−5−5に示す。解析を行うために同定・計数の結果にもとづいて、花粉化石群集図を作成した(図2−3−4−1図2−3−4−2図2−3−4−3図2−3−4−4)。出現率は、木本花粉(Arboreal pollen)ではヤマモモ属とハンノキ属を除く木本花粉の合計個体数を、木本花粉のヤマモモ属、ハンノキ属と草本花粉(Nonarboreal pollen)およびシダ・コケ植物胞子(Pteridophyta & Bryoph−yta spores)は花粉・胞子の合計個体数をそれぞれ基数として百分率で算出した。ヤマモモ属とハンノキ属を木本花粉の基数から除くのは、これらの植物には湿地などに局地的に分布する種類があり、このような環境下では、これらの化石が著しく高率に産出するために、広域の要素を示す花粉群が相対的に低率になり、解析に支障を生じるためである。本分析でも、B−1ボーリングにおいてヤマモモ属にその傾向が顕著に認められた。図表において複数の種類をハイフォン(−)で結んだものは、その間の区別が明確でないものである。

B−1〜B−4ボーリングの花粉分析の結果をみると、花粉化石群集の特徴とその変遷が酷似しているので、調査地域はAOMP(青森花粉の略)−T〜W帯の花粉化石群集帯に分帯でき、表2−3−6のようにまとめられる。各ボーリングにおける花粉化石群集帯(B*P−)と、調査地域全体の花粉化石群集帯(AOMP−)の関係は図2−3−5のように対比される。また、本調査に於いて明らかにされた花粉化石群集の変遷は既往文献と比較しても、東北地方および北海道南部地域における最終氷期以降の花粉化石群集の変遷とほぼ調和し、対比できる。これより、堆積年代についても推定することが出来た。

花粉分析結果をまとめ以下に示す。

花粉化石は、トウヒ属、モミ属、ツガ属、カラマツ属、ブナ属、コナラ亜属、ハンノキ属、ヤマモモ属などの木本花粉やミズバショウ属、イネ科、カヤツリグサ科、ヨモギ属、キク亜科、などの草本花粉が良好に産出し(表2−3−5−1表2−3−5−2表2−3−5−3表2−3−5−4表2−3−5−5参照)、これらの花粉化石の変遷により各ボーリングごとに局地花粉化石群集帯を設定した(図2−3−4−1図2−3−4−2図2−3−4−3図2−3−4−4参照)。

各ボーリングの局地花粉化石群集帯を対比・統合して、調査地域における花粉化石群集の変遷を5帯(AOMP−T〜W)にまとめ、各花粉帯の年代を、14C年代測定値や既往調査との比較より推定し、表2−3−6図2−3−5に示した。

なお、各ボーリング及び調査地域における花粉化石群集変遷と推定される古環境(気候)、年代などについては資料編に示す。

本調査では、最新活動時期及び活動履歴の解明を目的としており、完新世の花粉分帯(V帯,W帯)について、さらに細分することを試みた。また、既存文献ではブナと属とコナラ亜属の出現率の逆転で分帯をしているが、ここでは出現率の増加及び減少に着目し分帯を試みた。花粉分帯において個体数が多い属が誤差が少ないため検討に適している。最も個体数の多い花粉はブナ属及びコナラ属コナラ亜属である。また、寒冷を示し個体数の多い花粉はトウヒ属であり、やや温暖を示し個体数の多い花粉はトチノキ属である。その他に個体数は少ないが、トウヒ属と同様の寒冷な気候帯を示すツガ属及びマツ属単維管束亜属、乾湿の影響も含まれていることが考えられるがトチノキ属と類似した温暖な気候を示すスギ属も含めて検討を行った。これらの属(亜属)の出現率を図2−3−6に示す。縦軸に出現率を示し、横軸にボーリング深度を示す。これを、南東側からB−1孔、B−4孔、B−3孔、B−2孔の順に配列した。

この図で完新世の花粉分帯を大きく5つに細分した。@はV帯に対応し、トウヒ属が20%を越える特徴がある。A、Bは寒冷を示すトウヒ属が減少し、温暖を示すトチノキ属が増加する傾向にある。また、トウヒ属の減少及びトチノキ属の増加が階段状になり、1段目と2段目の境界をAとBの境界とした。Cはブナ属が上昇しコナラ亜属が減少する特徴を持つ、このときトウヒ属及びトチノキ属は比較的変動が少なくなる。この境界は滝谷・萩原(1997)の西南北海道横津岳の花粉分帯のW帯とX帯の境界(約4000yBP)と同じ傾向を持つ。Dはトチノキが再び上昇する傾向を持つ(B−3孔では不明瞭)。

これらの特徴から青森周辺の完新世の気候を推定すると、完新世(@〜D)は温帯に含まれるが、気温の変動の傾向を検討すると、@〜Bで上昇、Cで停滞またはやや減少、Dで再び上昇すると読みとることができる。

しかし、本調査でのサンプリング間隔が約50cmであり、詳細な検討を行うにやや粗い。この検討結果の精度を上げるためにはさらに細かい間隔(10cm程度)でサンプリングする必要があり、その結果で大きく変わってしまうことも考えられる。ただし、現段階で青森周辺の完新世の花粉分帯について、上述したした@〜Dの5つの分帯を提案できると考える。図2−3−7にこの分帯を投影した地質断面図を示す。