(3)単位変異量、活動周期及び最新活動時期

本調査においては、津軽山地西縁断層帯が幅約1kmという幅広い撓曲であるために、トレンチ調査によって活動履歴を決定することができなかった。したがって、3.7.1項の結果を受けて断層パラメーターの経験式として広く用いられている松田(1975)の式を適用して単位変位量を求め、活動周期を推定した。

以下に示す松田(1975)の式は、1891年の濃尾地震以降に日本の陸上に現れた地表地震断層の長さと、その活動によって生じた地震の規模の対応関係から求めた経験式であるが、断層活動によっては、その分布範囲全部にわたって断層が地表に出現するとは限らない(つまり実際の断層の分布は地表に現れた範囲よりも長い)。このため実際のマグニチュードは松田(1975)の式で求めたものよりも小さい。また、一般には地震の規模がM7程度以上の地震の際に現れた地表地震断層を対象とし、この式を撓曲構造に適用することができるのかどうかということについても不明である。

上記のような問題はあるがここでは松田(1975)の式が適用できるとする。断層の分布範囲である約15kmを式に当てはめると、地震の規模はM6.8、単位変位量は1.2mとなる。また、単位変位量を平均変位速度で割った活動周期は6000年となる。また、大平断層についても、分布は断続的であるがこれを一連の断層と考えると、地震の規模はM6.8、単位変位量は1.2m、活動周期は2万4千年となる。

〈松田(1975)の式〉

LogL=0.6M−2.9 ただし、Lは断層の地表での分布範囲(km)、

LogU=0.6M−4.0 Uは単位変位量(m)、Mはマグニチュードを示す。

最新活動時期についてはトレンチ調査で大平断層の活動イベントが認定できなかったため、少なくとも大平断層の最新活動時期については3万3千年以前であると考えられる。津軽山地西縁断層帯については最新活動時期は不明であるものの、Wfa面は撓曲していることから、少なくとも約2万年前以降には活動があったと考えられる。

津軽山地西縁断層帯の最新活動時期を考えるときに、調査目的のひとつである、明和3年(1766年)の津軽の地震との関連ということがある。この歴史地震は宇佐美(1985)によると震源は浪岡町西部で、被害状況と被害分布から推定された地震の規模はM71/2である。

歴史地震資料の抄録を2−135〜2−156ページにその歴史地震資料から得られた1766年の津軽の地震の被害分布図を図2−3−32に示す。地震被害は浪岡・黒石・田舎館付近に集中しており、この被害分布から考えれば津軽山地西縁断層帯が明和の津軽地震の震源断層であった可能性がある。しかし、津軽山地西縁断層帯の最新活動時期が未詳であり、また近傍の浪岡撓曲及び黒石断層の活動性が未詳であるというように、不確定要素が多いため今のところ確証は得られていない。後述する浪岡撓曲の調査では、この撓曲は津軽山地西縁断層帯に劣らない規模と活動度であることが明らかになった。したがって、津軽山地西縁断層帯が1766年の津軽地震の際に活動した可能性は高いが、単独の地震断層であったかどうかは未詳である。