(2)段丘面の編年

前述のように吾妻(1995)はこの地域の段丘面を、高位よりTm面、Uf面、Vm面、Vf面、Wf面及びXm面に区分している。ローマ数字は津軽半島における段丘面の形成順序をあらわし、m及びfの記号はそれぞれ海成段丘面及び扇状地面であることをあらわす。これらの段丘面のうちVm面は段丘堆積物の最上部に洞爺テフラ(Toya;10〜12万年前(町田・新井、1992))をのせている。このVm面を基準として、高海水準期に海成段丘が、低海水準期に扇状地が形成されたとして海水準変動との組み合わせで面の時代区分を行っている(文献抄録参照)。以下に吾妻(1995)による各段丘面の編年について述べる。

Tm面は、高度約50〜100mの間に分布する海成段丘面で、五所川原市野里東方から浪岡町にかけて広く分布している。面の保存は良好である。この面はVm面よりも一段高い海成段丘面であり、その間にほかの海成段丘面がないため、Vm面形成時の高海水準期のひとつ前の高海水準期である、約20〜22万年前に形成されたと考えられている。

Uf面は高度30〜150m程度の扇状地面で、面は開析が進んでいる。また、末端をVm面に切られている。Uf面は金木町金木東〜北東方に分布している。Uf面の年代については、Tm面形成時期とVm面形成時期の間の低海水準期に形成されたと考え、約14〜16万年前に形成されたと推定している。

Vm面は高度が20〜40mで、五所川原市飯詰付近より北方に分布している。Vm面は津軽半島一帯に広く分布し、洞爺テフラ(Toya)を段丘堆積物直上に載せていることから、約12〜13万年前に形成された海成段丘面と考えられる。関東地方の下末吉面に対比されるものと思われる。

Wf面は主に現在の河川沿いに高度10〜20mで分布している。Wf面は洞爺テフラ(Toya)を載せず、段丘面の延長が沖積面下に没することから、洞爺テフラ(Toya)降下以降の低海水準期に形成されたと考えられるため、約2万年前という年代を推定している。

今回実施した地形分類の結果では、吾妻(1995)とほぼ同様な区分が得られたが、一部では異なっている。重要なものはWf面の時代区分についてである。

五所川市飯詰付近では吾妻(1995)によるWf面が分布している。この扇状地面の末端は沖積面下に没している。浪岡町下石川でも谷の出口で扇状地状の地形が認められる。その末端は不明瞭ながら飯詰のWf面と同様に沖積平野下に没している。解析の度合いは金木町付近のUf面ほど進んでいない。

したがって、下石川の谷底低地及び谷出口の扇状地面をWf面として認定した。ボーリングコアの試料から14C法年代測定を行った結果、面を覆っている砂礫層直下のシルトに含まれる木片は約3〜5万年前の値を示したため、これを吾妻(1995)によるWf面よりも古い扇状地面であるとして、Wfb面として区分し、その年代を約3〜5万年前とした。吾妻(1995)によるWf面は、後述する五所川原農林高校でのピット掘削の結果を考慮して、その形成年代を従来どおり約2万年前であるとし、Wfa面とした。Wfb面は下石川付近と、五所川原市高野の前田野目川付近に認められる。