(1) 地質構成および地質年代
・ボーリング調査地点付近には、T4a層、T4b層、沖積層(B〜L層に細分化)、旧河道堆積物(A2層・A3層)、盛土及び耕作度(A1層)が分布し ている。
・表層を盛土及び耕作度(A1層)に覆われる。
・水路付近には、局所的に旧河道堆積物であるA2〜A3層が分布している。堆積物の年代は以下の値が得られた。
A2層 腐植土 1950*(100.4±0.4)% y
A3層 腐植土混じり砂 670±50〜970±60y.B.P
・ピット底面以深の沖積層の層相は、H9B−13孔とH9B−9孔との間(水路付近)で異なっており、段丘側(H9B−13、12、11孔)ではシルト薄層を伴う細粒砂主体(ピット1、2、4でのJ層以深の沖積層はK層、L層に区分される)となっているのに対し、平野側(B−9、14、10孔)では砂礫層主体(ピット3でのI層以深の沖積層はJ'層、K層に区分される)となっている。
・各地層から採取した試料の年代測定結果は表2−2−3に示したとおりであるが、各地層の年代は概ね以下のようにまとめられる。
A層 約970年前以後
B層 約710年前
C・D層 未詳(上位と下位の間)
E層 約2,400〜3,000年前
F・G層 未詳(上位と下位の間)
H層 約3,800〜4,000年前
I層 約4,300〜4,700年前
J層 約4,200〜6,800年前
K層 約5,100〜5,700年前
L層 約9,700年前
T4b層上部 約30,000〜50,000年前
T4b層下部 約50,000年前
T4a層 約43,000年前以前(約50,000〜60,000年前)
(2) 地質構造
前掲した図2−2−26地質断面図において、岩相及び測定した年代値から地層の区分を行った結果を以下に記述する。
T4a層:砂・シルト・腐植土からなる。T4a層中には2枚の腐植土層が挟まれており、良好な鍵層となっている。ボーリングH9B−10孔では標高約−5〜−3m付近に、H9B−9孔では標高約−4〜−2mに2枚の腐植土層が分布しており、連続する。これらの腐植土層は、東側(平野側)に約5.5゚の傾斜を有している。また、14C法年代測定の結果で約43,000年前の年代値が得られている。しかし、上位の地層と年代が逆転していることからこの年代値は信頼が低く、50,000年前より古い時代の地層と考えられる。
T4b層:T4b層は層相から、主に砂・シルトからなる下部と、主に腐植土からなる上部に分けられる。
T4b層(下部):主に軽石・腐植物を含む砂・シルトからなり、上部で均質で混入物をほとんど含まない細粒砂〜シルトとなる。ボーリングH9B−10孔の標高約1m及びボーリングH9B−9孔の標高約2mの礫を含む層が分布しており、それをT4b層の基底とした。ボーリングH9B−10孔の標高約4〜6m、H9B−9孔の標高約4.5〜7m、H9B−13孔の標高約5〜8m、H9B−12孔の標高約5.5〜8m、H9B−11孔の標高約5.5〜7mに分布する砂・シルト互層は層相が類似しており、連続すると考えられる。また、ボーリングH9B−10孔の標高約6〜7m、H9B−9孔の標高約7〜7.5m、H9B−13孔の標高約8〜9.5m及びH9B−12孔の標高約8〜8.5mには、均質な細粒砂〜シルトが分布する。この細粒砂〜シルトは、腐植物などの混入物をほとんど含まない、酸化により黄色に変色しやすい等の特徴があり、連続すると考えられる。これらの地層(基底等)は概ね東側(平野側)に約4゚の傾斜を有し、14C法年代測定では概ね約50、000年前の年代値が得られた。
T4b層(上部):主に腐植土・シルトからなる。ボーリングH9B−13孔の標高約9〜10.5m、H9B−12孔の標高約8.5〜10.5m、H9B−11孔の標高約8.5〜10mには腐植土層が分布しており、連続するものと考えられる。この腐植土層の層相は、ボーリングH9B−13孔では主に木片からなり、H9B−12孔では、下部で砂を主体とし腐植物及びシルトの偽礫を含み、上部で粘土質の腐植土となり、H9B−11孔では粘土質の腐植土からなる。この腐植土の上面は、微少だが西側(段丘側)に約1゚程度の傾斜を有する。14C法年代測定で得られた年代値は、H9B−13孔の木片から約43,000年前、H9B−12孔の腐植土層の下部の砂質部中の木片で、約48,000年前以前、H9B−12孔の腐植土層の上部の粘土質部で約30,000年前である。この年代値から、この腐植土層が約5万年前から3万年前の長い期間で堆積したと考えられる。
沖積層(下部( J・K・L層))
沖積層の基底が、ボーリングH9B−9孔とH9B−13孔の間で約3.5mの標高差を生じる。岩相は平野側と段丘側で異なり、平野側は主に砂礫からなる粗粒相からなり、段丘側は主に砂からなる細粒相からなる。14C法年代測定で、約9,700年前のデータが得られた沖積基底付近を除くと、約4,200〜6,800年前の年代値が得られている。
沖積層(上部(平野側 E〜I層、段丘側 B〜I層))
層相は、平野側で砂を主体とし、段丘側で砂・シルトを主体としている。段丘側及び平野側で腐植土層を挟有し連続することが考えられる。これらの腐植土層は、極わずかな傾斜(東側に約1.5゚程度)を有する。14C法年代測定から、約4,500年前以降の年代が得られている。
以上の結果から、細越浅田地区(北側)の調査範囲(約40m間)での調査結果を以下にまとめる。
T4b層(下部)が、ボーリングH9B−10孔からH9B−11孔に連続して分布し大きな段差が無いと考えられることから、調査範囲では段差を生じるような断層変位は無いと推定される。
T4a層で約5.5゚、T4b層(下部)で約4゚、沖積層(上部)で約1.5゚、東側へ傾斜を有す。地層の傾斜に累積性があることから、撓曲による変形を受けていると推定される。
T4a層、T4b層(下部)、沖積層(上部)の傾斜が一定であり、調査範囲(約40m間)全体が、撓曲の影響範囲にあることが推定される。
沖積層基底の約3.5mの標高差は、下位の地層(T4b層(下部))に断層が認められないこと、層相が平野側と段丘側で異なることから、沖積層基底の浸食量の違いで形成されたと考えられる。
(3) 砂層の液状化の発生年代
ピット1及びピット2で観察された液状化の痕跡は、約3,800年前のH層を貫いており、約3,000年前のE層に覆われている。従って、液状化の発生年代は約3,800年前から約3,000年前の間であると結論される。液状化の痕跡の存在は、この地点で強い地震があったことを示す。当然、入内断層の活動による可能性が考えられる。
(4) まとめ
以上のように、下位の地層(T4a層及びT4b層)に大きな標高差が無いことから、剪断面の両側に落差の生じるような断層は存在しないと推定された。
しかし、各地層の東側への傾斜から撓曲による変形が認められ、その傾斜が調査範囲(約40m間)でほぼ一定であることから調査範囲全体が撓曲の範囲内にあることが判断された。
また、ピットで観察された液状化の痕跡から、約3,800年前から約3,000年前の間に、この地点で強い地震動があったことが明らかになった。