本調査のデータ処理・解析にあたっては、まず現場でハードディスクに収録した各起振点ごとのデジタル記録をワークステーション(SUN Ultra)に転送し、反射法探査データ処理ソフト ProMAX(LandMark社製)を用いて処理を行った。図1−2−4に処理・解析のフローチャートを示す。
以下に主な処理の概要を述べる。
@ジオメトリ編集
現場で取得した観測波形データは、起振点ごとにひとつのファイルとして保存されている。そこでまず、各ファイルがどの起振点のデータであるか、また、ファイル中の各チャンネルのデータがどの受振点のものであるか、関連づけておく必要がある。このような処理をジオメトリ編集と呼ぶ。
A静補正
測線上の地形が起伏に富んでいたり、弾性波速度が低い表層の層厚変化が大きい場合、仮に地下深部の反射面が水平であっても、反射波の到達時間にばらつきが生じてしまう。このような地表付近の不均質に起因する時間ずれを補正する処理が静補正である。静補正にはいくつかの方法があるが、ここでは、屈折波の初動走時を読み取り、屈折法解析により各起振点受振点における表層部の伝播時間(ディレイタイム)を求め、その値で補正を施す処理(Refraction Statics;屈折静補正)を適用した。
Bバンドパスフィルター(Band Pass Filter; 帯域通過フィルター)
周波数フィルターの一種である。観測された波形記録には、表面波のような反射波以外の波やバックグラウンドノイズ(振動などの雑音)が含まれている。これらのノイズと反射波の周波数帯域の違いに着目して、反射波の信号と異なる周波数を持つノイズを低減させる処理である。
CTAR(True Amplitude Recovery; 真振幅回復)
地表で発生した弾性波は、地下を伝播していくうちに、球面発散、透過損失、粘性減衰などの効果により振幅が減衰する。これらの現象により減衰した波形の振幅を、減衰を受る前の振幅に増幅する処理をTARと呼ぶ。ここでは球面発散に関する処理を適用した。この処理により、伝播経路長の長いものほど振幅が増幅されることになる。つまり、深部の反射面からの反射波がより増幅され、識別しやすくなる。
DAGC(Automatic Gain Control; 自動振幅調整)
観測された波形記録は、屈折波や表面波の振幅が大きく、反射波の振幅はこれらの波に比べて小さいのが一般的である。このような振幅の小さい反射波を初動付近の波の振幅と同程度の大きさになるように強制的に増幅する処理をAGCと呼ぶ。この処理を施すことによって、反射波信号の識別をさらに容易にすることができる。
Eデコンボリューションフィルター(Deconvolution Filter)
観測された反射波形は、地層の音響インピーダンス変化にともなう反射係数列と地下を伝わる波の基本波形のコンボリューションであると考えられる。したがって、基本波形の逆特性を持つフィルターを設計し、これに観測波形を入力すると、地下の反射係数列を得ることができる。このような処理をデコンボリューションフィルターと呼ぶ。この処理により、多重反射波を低減することができ、反射波をよりパルスに近い(周波数が高く独立している)波形に変換することができる。
FCDPソーティング(CDP Sorting; 共通中心点記録群への編集)
現場測定では、1回の起振で96受振点の波形記録を取得し、1起振点毎の記録として収録している。以下の処理を行うためには、すべての記録がCDPギャザーごとに並んでいる方が扱い易いため、起振点毎の記録をCDPギャザーごとに並び変える作業を行う。この並び変えを、CDPソーティングと呼ぶ。
<CDP>
図1−2−5(a)に示したような起振点受振点配置の観測データを並び替え(b)に示すように反射点が共通な記録、すなわち起振点と受振点の中点が同じ位置となる記録を集める。このような記録群をCDPギャザーと呼ぶ。最終的には微弱な反射波を強調させる目的でこの記録群内の記録を加算する。このような手法は、CDP重合法(CDPスタック)と呼ばれ、反射法探査の標準的な解析法として用いられている。
G速度解析
速度解析は、CDPスタックを実行する際に必要な速度を知るために、CDPギャザー内の反射波位相の並びから、反射波の発生深度(実際には伝播時間で表現する)およびその深度までの平均的な速度を決定する作業である。
i番目の反射面からの反射走時Ti(X)は、オフセット距離X(起振点受振点間の距離)、2−Way Time(X=0での反射面までの往復走時)T0i、CDPギャザー内での反射位相のみかけの平均速度Vstkによって次式のように表されるので、オフセット距離Xの異なるいくつかの波形記録から反射走時Ti(X)を読みとってグラフにプロットすれば、VstkとTを決定することができる。
Ti(X)={(T0i)2 +(X/Vstk,i)2 }1/2
ここに、 i :i番目の反射面を表す添字
X :オフセット距離
T :垂直(X=0での)往復走時
Vstk:CDPギャザー内の反射位相のみかけの平均速度
HNMO補正、ミュート、CDPスタック
CDPスタックとは、CDPギャザー内の記録を加算(重合)し、CDP位置における地下情報を表す1個の波形記録を作成することである。CDPスタックに先立ち、CDPギャザー内の各オフセット距離の波形記録をオフセットがゼロの場合の記録に変換する必要がある。この処理をNMO(Normal Move Out)補正と呼ぶ。次にNMO補正によって波形が大きく歪んだ部分や初動付近の屈折波等の不要な部分を消去する。この処理をミュートという。最後に、CDPスタックを実行して各オフセット距離の波形記録を重合する。CDPスタックを行うことによって、速度Vstkを持つ反射位相だけが重ね合わされ強調され、一方、多重反射波や表面波など、このVstkと異なるみかけ速度をもつ波の振幅は相対的に抑制される。重合後は、各CDP地点につき1本の波形記録となり、各々CDP点の記録として断面表示される(時間断面)。
I残差静補正
静補正では補正しきれなかった起振点受振点近傍の地表条件の違いによる反射波の走時のばらつきを補正する処理である。ここで用いたパワー最大化自動静補正は、NMO補正後のCDPギャザーにおいて、あらかじめ指定したウインドウ内でのスタック結果のパワーが最も大きくなるような補正値を各受振点、起振点別に求め、これをすべてのCDPに対して行い、測線全体を通して最もスタック結果のパワーが大きくなる各受振点、起振点の補正量を自動反復計算によって求めるものである。
Jマイグレーション
CDPスタックにより得られる時間断面は、反射面が傾斜していたり凹凸がある場合には、真の構造を示さない。このような時間断面上の見かけの構造を真の構造に近い断面に変換する処理をマイグレーションと呼ぶ。ここでは、周波数―空間領域で真の傾斜に変換するF−Kマイグレーションを用いた。
K深度変換
以上の処理・解析で求めた時間断面は、その縦軸が時間を表している。縦軸を深度で表す深度断面を得るためには、速度解析で求めた速度値あるいは、ボーリング調査結果などから推定された速度値を用いて、時間を深度に変換する必要がある。この処理を深度変換という。今回は、速度解析によって求めた速度分布モデルをスムージングし、深度変換の速度モデルとして使用した。
L地質解釈
極浅層反射法探査の解析結果は、地下の弾性波伝播特性の分布を示すもので、必ずしも地質分布を示すものではない。そこで、最終的なマイグレーション後の深度断面について、地質解釈を行う。すなわち、断面内に見られる主な反射面と地質境界を対応づけ、地質構造を明らかにする作業である。解釈にあたっては、地形・地質精査やボーリングなど、調査地で実施した各種調査結果を利用し、総合的な解釈を行う。