a.名川町官代南南西から岩手県境にかけて推定される断層(折爪断層に相当)
前述したように、名久井岳付近から名川町南部の岩手県境にかけては、NNW−SSE方向に延びる背斜軸があり、この東翼部にこれとほぼ平行する急傾斜帯(撓曲帯)が通っている。急傾斜帯(撓曲帯)の西端は、概ね中新統末ノ松山層の名久井岳安山岩部層と高屋敷粗粒砂岩部層の境界付近にあり、一部で両者が逆転しているのが確認された。
石和南南西の林道では調査地域最下位層の中新統門ノ沢層の背斜をなし、その東翼部に高屋敷粗粒砂岩部層が約50mの露頭欠如区間を挟んで分布し、の間の地層(少なくとも厚い名久井岳安山岩部層)を欠いている。さらに、南方の青森・岩手県境付近では、西側の東西性の緩い構造をなす五日町凝灰質砂岩部層と東側の南北性の構造をなして急傾斜する高屋敷粗粒砂岩部層が著しく斜交して不連続となっている。このように、層序の欠如や構造的差異が著しいことから、急傾斜帯(撓曲帯)の西端沿いに断層が推定され、これが折爪断層に相当すると考えられる。
ちなみに、石和西方の小沢の露頭では、末ノ松山層中に、N2゚E・72゚W、N33゚E・62゚W、N4゚E・76゚Wという南北系西傾斜の小断層群が認められ、石和南南西の露頭でも、門ノ沢層中に、N10゚E・80゚Wという同系統の小断層が確認された。また、官代西方の林道では、名久井岳安山岩部層と高屋敷粗粒砂岩部層が東に急傾斜・一部逆転しており、層理面には小規模なすべり断層が認められた。
折爪断層の性状は、断層推定位置付近の地層に南北系西傾斜の小断層やW傾斜逆転層が認められることから、西上がりの逆断層で、地表断層部の延長は県境から官代付近まで、青森県内で少なくとも約3.6kmと推定される。
b.五戸町関口南方の浅水川中流右岸の断層
五戸町関口南方の浅水川右岸の露頭には、図3−2−3のスケッチに示す断層が認められる。断層は撓曲帯の上流約1.5kmの中新統舌崎層の泥岩(シルト岩)中にあって、断層ガウジ及び破砕帯を伴う。断層ガウジは、破砕帯を挟んで上・下盤に認められる。下盤側の断層は幅20〜50cmの強く破砕された部分があり、さらにこの中の5〜15cm間が礫混じり粘土状になっている。上盤側のそれは厚さ5cmの黄灰色粘土を伴っている。
断層面の走向・傾斜は、下盤側がN10゚E・70゚W及びN12゚W・72゚W、上盤側がN4E゚86゚Wを示し、いずれもN−S系で西傾斜である。破砕帯は、幅約2.5mで、大部分が破砕・角礫化した泥岩からなる。断層破砕帯の下盤側には、北東傾斜44゚〜50゚を示す厚さ約20cmの軽石質粗粒凝灰岩薄層が挟まれており、断層面に接する付近で上盤上がりの引きずり変形を受けている。すなわち、上盤側が相対的に上がった形で、ここだけを見ると西上がりの逆断層と判断される。一方、上盤側の破砕帯の中にも、これとよく似た軽石質粗粒凝灰岩薄層がもみ込まれた形で存在しており、全体的に東に傾斜している。
軽石質粗粒凝灰岩薄層が同一層であるとすれば、この断層は西落ち3〜4mの正断層ということになり、前記の変位センスと凝灰岩の引きずりの形態が一致しない。ただ、舌崎層の同層準には、類似した凝灰岩層が数枚挟在していることから、前記凝灰岩が同一層でない可能性があるので、ここでは引きずりの形態から西上がりの逆断層と判断した。
この露頭では被覆層が確認できないため、活動性の評価はできない。この断層は走向方向の延長線上で確認されていないので、連続性については不明である。断層は撓曲帯からは西側にずれるものの、名久井岳東麓の推定断層(折爪断層)の延長線上にあって、方向も調和的であることから、折爪断層及び撓曲構造形成に伴って生じた一つの断層である可能性がある。
c.名川町官代付近の断層
名川町官代東方の河床部に見られるもので、図3−2−4の概略スケッチに示すように、中新統末ノ松山層高屋敷粗粒砂岩部層と鮮新統斗川層相当層が断層で接している。断層面の走向・傾斜はN29゚E・43゚Wで、厚さ1〜5cmの黄灰色粘土を伴っている。上盤側は高屋敷粗粒砂岩部層(上流で貝殻片を多含する石灰質砂岩に移化する)、下盤側は斗川層相当層の礫岩及び極粗粒砂岩からなる。したがってこの断層は層序的に逆断層と判断される。なお、この露頭では断層を沖積層と思われる礫層と表土が不整合に覆っているが、これらに変位は認められないので、ごく新しい活動はなかったものと考えられる。
断層面の走向は、概ね谷の方向と一致しており、石和西方まで断層が延びている可能性があるが、走向方向の延長線上では断層露頭が確認されていない。
d.十和田市万代付近の断層
折爪断層とその撓曲の北方延長の十和田市万内付近には、佐藤・鈴木(1977)がNNE−SSW方向で東傾斜・東上がりの衝上断層を報告している(文献参照)。
現地調査の結果、万内南東約300m付近に断層露頭を発見した(図3−2−5)。断層は概略スケッチ図(図3−2−6)及び露頭写真(図3−2−7)に示したように5条あって、主にWNW−ESE方向・SW傾斜の正断層である。露頭上面の地形(地表)は、現在改変されているが、改変前の空中写真判読によれば、地すべり地形が認められる(図3−2−5)。断層はそのうちのSW方向に開いた半円形の地割れ状地形の北端部に位置している。現在は露頭の下半部が厚い崖錐堆積物に覆われて、本断層の性格を確定するに足る十分なデータが得られていないが、少なくとも折爪断層・辰ノ口撓曲のNW−SE方向・西上がりのセンスとは全く一致しない。また、少なくとも十和田軽石流(約1.3万年前)を変位させているにもかかわらず、本断層のWNW−ESE方向、佐藤・鈴木(1977)の断層のNNE−SSW方向あるいは折爪断層・辰ノ口撓曲のNW−SE方向のいずれの方向のリニアメントも認められない。本断層は地すべり地形の中にあって、地割れ状地形の北端部に位置し、正断層で、しかも落ちのセンスと地すべり変位が調和していることから、地すべりに起因した断層である可能性が高い。