(4)変位地形に起因するリニアメント

調査地域内(青森県内)においては、名久井岳東麓に沿って断層運動による変位地形の可能性のある地形の直線的断続(以降これをリニアメントと呼ぶ)が認められた。変位地形の可能性のある地形としては山地と丘陵との間の傾斜変換点、三角末端面、稜線の鞍部、直線状の谷、河川の屈曲等が判読でき、これらは名川町石和西方から同町法光寺を経て馬淵川南岸の同町高瀬付近までNNW−SSE方向に断続して判読された。しさし、馬淵川より北では判読されず、北方へは延長しない。なお、リニアメントの主体は名久井岳より南方の岩手県側にあり、県境より折爪岳東麓を経て葛巻付近まで約50kmにわたり断続して追跡でき、全体的に青森県内より明瞭である。

<名久井岳東麓の変位地形と小河川の変位等>

名久井岳東麓において変位地形の可能性のある傾斜変換点、三角末端面、稜線の鞍部、直線状の谷、河川の屈曲等を判読し、これらを連ねたリニアメントは図3−2−2のようになる。

傾斜変換点、三角末端面、稜線の鞍部、直線状の谷、河川の屈曲等、変位地形の可能性のある地形は名久井岳の山地急斜面とその東側の丘陵緩斜面との間に判読され、いずれもやや不明瞭で、それらを連ねたリニアメントは1本の連続したものではなく、比較的短いリものが幅200〜400m間に雁行している。これらリニアメントは新第三系を著しく変位・変形させている折爪断層及びその北方延長の辰ノ口撓曲(後述)とほぼ一致することから、それぞれの断層構造及び撓曲構造を反映してたものである可能性がある。

扇状地1面はリニアメントの東側(丘陵側)に分布する特徴がある。その一部がリニアメントを横断して西側(山地側)まで延びて分布するが、リニアメント直下で変位は認められない。この扇状地1面の形成年代は高館面(約10〜12万年前)を侵食し、五日市面(約3万年前)を侵食していないことから、高館面形成以降の海退期(ステージ4)に相当する約6〜3万年前と考えられる。

小河川はリニアメント西側(山地側)ではV字谷をなし、相対的に急勾配となっているが、東側では扇状地を刻み、相対的にやや緩傾斜のU字谷となって、谷底が水田として利用されている。いずれの小河川においてもリニアメント直下での垂直変位は判読できない。

東麓北部の法光寺から北の小河川では、リニアメント直下で左横ずれの屈曲が系統的に認められる。しかしながら、このような系統的な河川の屈曲は法光寺以北の北向き扇状地斜面にのみみられ、それ以南の東向き扇状地斜面では認められない局地的なもので、屈曲の東側には西側の稜線に対応するそれも認められない。水平変位量も約100〜250mと斜面が北に向くほど大きくなるが、その北方延長の高館面に右ずれ変位は認められない。。したがって、これらの屈曲は少なくとも扇状地1面形成以降の断層運動に起因したものではなく、扇状地形成に伴う流路変更などによるものと考えられる。ちなみに扇状地1面の形成年代を6〜3万年前として、平均変位速度を計算すると、最大約8〜4m/千年となり他地点での垂直変位速度(0.2m/千年以下)に対しオーダー的にも整合しない。ただ、これら小河川の北流屈曲は、扇状地1面形成前に折爪断層の運動に規制されて、すでに形成されていた可能性もあり、それ以前の折爪断層の活動を否定するものではない。