8−3 断層の分布と活動性

陸域においては空中写真判読、地表地質踏査及び試料分析、海域においては反射法地震探査の既往データの再解析により、当調査地域の断層の分布と活動性について調査・検討を行った。その結果、陸域には連続する断層変位地形は存在しないものの、調査地域中央部の衣川より南側の海岸線は直線状の海食崖を形成し、海側に東側隆起の断層存在の可能性が推測された。

沿岸・海域での断層の分布・性状は表7−4、図7−35図7−36に示す通りである。各々の断層について以下に述べる。なお、断層の変位量は断層傾斜角が解釈断面図で明確に判定できないため垂直変位量のみとし、これを仮に現在までの年数で試算し、10年当たりの平均変位量を求めた。

KY−1(北由利)断層;反射法地震探査の再解析からは解釈できなかったが、藤岡ほか(1976,1977)、大沢ほか(1977)等による実在の北由利断層であり、転記した。陸域の調査では断層変位地形はなく活断層ではないと考えられる。長さは30km。

KY−2断層;調査地域南半部の海岸に沿って分布する南北走向東傾斜の逆断層で、長さは18km程度である。構造的にはKY−1の枝分れと考えられる。約90万年前のG層を最大1,000m以上変位させている。このため、仮に現在までの年数で試算すると10年当たりの平均変位量は1.1m以上となる。

KY−2’断層;KY−2断層より2測線を隔ててその北側の測線に東傾斜の逆断層を推定した。E、F層は切り、G層は切っていないが撓曲させている。断層先端部(最浅部)は深度1,000m程度である。10年当たりの平均変位量の試算値は0.3m程度となる。

KY−3断層; G層の背斜構造を撓曲構造と見て東傾斜の逆断層を解釈した。KY(W)−1断層の下位に位置し、浅層部の位置等が不明である。断層先端部(最浅部)は深度2,000m前後と深い。

KY−3’断層; KY−3断層の南側延長上で一測線隔てたRSA882測線に、G層の背斜構造を撓曲構造と見て東傾斜の逆断層を解釈した。測線が短く、浅層部の性状が明らかでない。

KY−3”断層; KY−3’断層の南側延長上で一測線隔てたRSA884LM測線に推定した。A層を切り、C層に撓曲変形を与えているが、D層堆積以降は活動していない。

KY−4断層;G層の背斜構造を撓曲構造と見て東傾斜の逆断層を解釈した。KY(W)−2断層の下位に位置し、浅層部の位置等が不明である。断層先端部(最浅部)は深度3,500m前後と深い。

KY−5断層;G層の背斜構造を撓曲構造と見て東傾斜の逆断層を解釈した。H層に影響せず、活動を停止していると考えられる。

KY(W)−1断層;調査地域北半部のKY−2の延長上南北方向に分布する。しかし、西傾斜の逆断層で背斜構造を伴っている。長さは11km程度、G層の撓曲構造より垂直変位量は300m、10年当たり平均変位量の試算値は0.3m程度である。

KY(W)−2断層;調査地域北半部から秋田市北方にかけて、沖合い5km付近に南北方向に分布する。KY(W)‐1と同様に西傾斜の逆断層で背斜構造を伴っている。秋田沖北部SI−1(試錐)と土崎沖SK−1(試錐)の地層の対比より逆断層の存在が考えられる。長さは30km以上、G層の撓曲構造より垂直変位量は最大800m程度であるが、H層に撓曲の影響は無さそうである。

KY(W)−3断層;RSA881LM測線のみの解釈で、背斜構造を伴う逆断層であることより、同様の南北走向、西傾斜と考えられる。長さは8km程度、垂直変位量はG層の撓曲構造で300m程度であるが、H層に影響せず活動を停止していると考えられる。

A−1断層;堆積盆地西縁をなす断層である。測線RSA884LMでは逆断層が明瞭で、特徴的な盆地反転構造と考えられる。逆断層上盤側の海底地形は100m程度隆起し、地形的特徴から活断層と考えられる。なお、下盤側の地層のデータが無く、断層変位量の算定が困難である。

A−1’断層;A−1断層と同様に堆積盆地西縁をなす断層である。しかし、再解析の断面図のみでは逆断層が東傾斜か西傾斜か解釈が難しく、深部の重力データの解析など総合的な検討が必要である。

A−2断層;堆積盆地内の東傾斜の逆断層である。撓曲の影響はG層に及んでいるが、H層上位には影響せず、活動を停止していると考えられる。

B−1断層;RSA886測線のみの解釈で、背斜構造に伴う東傾斜の逆断層である。G層の撓曲形態の比較から、北側のRSA885測線には連続しないと判断した。データ不足で長さ等は不明である。

B−2断層;G層の背斜構造を撓曲構造と見て東傾斜の逆断層を解釈したものである。断層先端部(最浅部)は深度2,000m前後である。

 

以上の結果より、KY‐1(北由利)断層は天徳寺層等を切る断層であるが、陸域の調査からは断層変位地形は無く、最近の活動は認められない。

 

KY−2断層は約90万年前のG層に最大1,000m以上の垂直変位を発生させた顕著な断層である。このKY−2断層位置は直線状の海食崖位置とも対応し、これを高度不連続の断層変位地形とすると海側の活断層そのものに該当することになる。今回の再処理・再解析では浅層部の詳細な性状が明らかでないので、今後の調査が必要である。

一方、二測線隔てた延長上のKY−2’断層はE、F層を切るがG層は切っていない。また、G層の撓曲構造からによる平均変位量の試算値は0.2m/10年と小さい。KY−2断層の見掛変位量は北へ向かうと小さくなる傾向(表7−4)にあり、KY−2’断層も分布位置のみならず変位量からも延長上にあると見なすことができる。

KY−3〜5断層は撓曲構造に関与した地下深部の断層で、西傾斜の逆断層の下位に分布する断層や、また、活動を停止した断層と考えられる。

KY(W)−1〜2断層はKY−3〜5断層と同様に背斜構造に関与した地下深部の断層である。西傾斜で北由利断層とは形態が異なるものの、KY(W)−1断層はKY−2断層の北側延長部にあること、KY(W)−2断層もこれらに近接して併走することより、念のため最新活動時期の解明が必要と考えられる。

KY(W)−3断層は西傾斜の逆断層で、最上位層には撓曲の影響がなく、活動を停止していると考えられる。

A‐1、1’、2断層は堆積盆地西半部の分布位置及びその地下構造からみて、北由利断層とは切り離して扱うのが妥当と考える。また、B−1、2断層はKY−2断層の延長から外れ、G層の形態も異なることから、別の断層(仁賀保断層)と判断される。