(2)逆向き断層群

〈 高野野断層 〉

空中写真で判読される高野野断層の断層崖は、現地においても直線的かつ明瞭な崖地形として認められる。M4面の高度差は約10m、L1面の高度差は約5mである(巻末図版8)。

高野野断層によって変位しているM4面およびL1面の構成層は、断層隆起側、沈降側にそれぞれ確認される。M4面の構成層は砂礫の上位に厚さ1m前後の淡褐色のシルト層を載せ、シルト層の下部は砂分に富んでしばしば平行葉理や斜交葉理が認められる。また、L1面の構成層は粘土分を含む礫層の上位に厚さ数十cmの塊状のシルト層を載せる。このことから断層上盤、下盤の地層に同一性があることはほぼ確実であり、断層変位の累積性が示される。

なお、M4段丘とL1段丘に挟まれた段丘間の幅100m程度の沖積面には、空中写真で断層低下側に湿地が判読されるが、現在は水田の整備によって失われている。

〈 磐断層 〉

空中写真で判読される磐断層の断層崖は、現地においてもM2面とM3面とに3〜4m の高度差を与えていることが認識できる(巻末図版9)。しかし、南方延長のM4面では高度差が不明瞭であり、断層の位置を特定できない。

磐断層によって変位しているM2面の構成層は、断層隆起側、沈降側ともに薄いシルト層を挟在した砂層であり、砂州ないし砂丘に近い堆積相を示すことから、地形面の同一性が確認される。一方、M3面の離水直前の堆積物は、断層隆起側では最上部に砂鉄に富んだ葉理と生痕を伴う海成の砂礫層であるのに対し、沈降側では粘土〜シルト分に富んだ河川性の礫層であり、同一面の形成環境に違いがある。

〈 小手萩断層 〉

空中写真で判読される小手萩断層がつくる背斜構造は、M3面とM4面とに高さ十数mの高まりを形成している。地形面の保存が良く、M4面がM3面を浸食した河食崖が撓曲しているのが明瞭に認識される。また、M3面に形成された背斜構造の高まりはM4面よりやや規模が大きく、小手萩断層の変位に累積性があることを示している(巻末図版10)。

能代市石盛台北東方の切土法面では、M3面を構成する砂礫層が、地形面とともに背斜構造を形成しているのが観察され、背斜構造東翼でM3段丘面構成層が最大25°で東へ傾斜している(巻末図版11)。

また、能代市藤切台西方では、小手萩断層東側を併走する小背斜にも同様の構造が観察され、M3段丘面構成層が背斜構造を形成する。背斜構造西翼では段丘堆積物が7〜8°の緩やかな傾斜を示すが、東翼では最大44°まで傾斜して撓み込んでいる(巻末図版12)。 

いずれの露頭においても、M3面の構成層は基質がシルト分に富んだ礫層を主体とし、礫層の上位はシルトと砂または細礫の互層となり、さらに淡褐色〜明褐色の粘土層(ローム)に移化する。段丘堆積物やロームは背斜構造の東側で厚さを増す傾向があり、背斜構造東翼基部に断層が存在することを示唆する。

〈 逆川断層A 〉

逆川断層Aは、空中写真では不明瞭な崖地形として判読され、MD面の初生的な凹凸と識別しにくい。既存研究資料でもこの地形を断層崖として扱ったものはない。本調査で能代市逆川北方において、MD面構成層が東へ急傾斜している露頭が確認されたことから、この位置に断層が分布すると判断した。この露頭ではMD面を構成する砂丘砂に平行葉理やシルト質な挟在層が認められ、これらが直立ないし東へ高角度で傾斜している。砂丘砂とこれを覆う橙褐色ロームの境界は漸移的であるが、概ね50°前後で東へ傾斜している。また、ローム上位の黒土は地形面とともに東へ20〜30°で傾斜しており、地層の変形に累積性が認められる(巻末図版13)。

なお、この露頭には正断層変位を持った小断層が4〜5条認められるが、周囲の地形状況から地すべり等の重力性の構造とは考えにくい。おそらく逆断層変位に伴う撓曲部に生じた引張性の構造と推定される。

〈 逆川断層B 〉

空中写真で判読される逆川断層Bの断層崖は、現地においても明瞭な崖地形として認められる。

能代市逆川南西方において、MD段丘面構成層とこれに挟在するToya、Aso−4を切断する断層露頭を確認した。この露頭は大沢他(1985)が記載した「逆川断層の露頭(loc.1)」に相当し、造成が進んでより深部の構造が現われたものとみられる。断層隆起側では破砕されたシルト岩を覆って、MD面を構成する砂層が厚さ20m程度分布し、西へ10〜15°傾斜している。砂層の底部から数mにToyaが、その上位約10mにAso−4が確認される(巻末図版14)。断層部には数条の断層面が認められ、西側の一条が傾斜したToyaを切断し、最も東側にある一条が断層低下側のAso−4を切断している。砂層の層序を詳細に検討すると、Aso−4を切断する断層面が最も大きな変位を示している(巻末図版15)。露頭内の断層低下側にToyaは分布していないが、北へ約500m離れた地点に露出するToya(野村他,2000が記載した地点)の標高を投影すると、Toyaの鉛直変位は約22m、Aso−4の鉛直変位は約17mとなり、断層変位に累積性があることが確認される。また、この露頭の南方約500mの地点では、同断層がロームを切断している小露頭が観察される(巻末図版16)。

いずれの断層露頭においても逆川断層Bは傾斜30°程度の低角度逆断層であり、断層上盤では段丘堆積物が大きく撓み込んだ構造を示している。

〈 逆川断層C 〉

空中写真で判読される逆川断層Cの断層崖は、一部高速道の建設等で改変されているが、高さ10m程度の崖地形が明確に追跡される。本年度の反射法探査測線(浅内沼測線)の横断部では、高さ4m程度の改変された崖地形が認められる。

本調査で逆川断層Cの露頭を直接確認することはできなかったが、能代市福田東方の断層崖の位置に、MD面を構成する砂層とこれに挟在するシルト層が東へ25°傾斜し、撓み込んでいる露頭が確認されたことから、断層の存在は確実とみられる(巻末図版17)。

〈 逆川断層D 〉

空中写真で判読される逆川断層Dの断層崖は、一部造成によって失われているが、高さ5m程度の崖地形が断続的に追跡される。本断層の北端部が本年度の反射法探査測線(浅内沼測線)を横断する地点では、高さ4m程度の改変された崖地形が認められる。

本調査で逆川断層Dの露頭を直接確認することはできなかったが、能代市成合の断層崖の位置に、MD面を構成する砂層が東へ30°傾斜し、撓み込んでいる露頭が確認されたことから、断層の存在は確実とみられる(巻末図版18)。

表4−2−2 断層変位に関わる踏査結果一覧表