3−6−2 反射法地震探査の解釈断面による比較

米代川と他の2地域との間に沈降速度の差異が生じた原因として、昨年度実施された八郎潟北岸の反射法地震探査再解析断面において、現海浜部に別の撓曲構造が認定され、浅内沼測線の解析断面でもこの傾向が認められることとの関連性が注目される。浅内沼測線や八郎潟北岸測線では、能代断層の沈降域は同時に海浜部の撓曲構造の隆起部にも位置しているため、前縁部の撓曲構造の活動に伴って隆起と沈降が相殺されている可能性が指摘される。このことを反射法地震探査による深部の構造から検討する。

図3−6−2に12、13年度に実施された東西方向の測線で実施された反射法地震探査(5測線中4測線は再解析)のマイグレーション断面図を、測線配置とともに並列図示した。

各反射法断面に共通する層準として、1.2MaとされるGlobigerina pachydermaの形態変化(右巻→左巻)を層準Tとして示した。層準Tは、昨年度解析した浅内沼測線や八郎潟北岸測線では男鹿半島の北浦層上部の基底に相当する。

各測線について層準Tの出現深度、撓曲帯の幅、海浜部の撓曲構造の有無を、能代断層の隆起側と沈降側で比較すると表3−6−1のように整理される。

表3−6−1 層準Tの反射走時(sec)等一覧表

各測線での層準Tの反射走時、走時差、撓曲構造には、以下のような差異が認められる。

@ 層準Tの反射走時(深度)は、隆起側、沈降側ともに北へ向かって深くなる傾向がある。

A 隆起側と沈降側の層準Tの走時差は、北へ向かって大きくなる傾向がある。地震波の速度が各地域で概ね一定しているものと仮定し、層準Tの走時差を概ね変位量、変位速度とみなすと、東雲台地における変位速度に対して、米代川〜浅内沼測線の変位速度はその2/3程度であり、八郎潟北岸は1/3程度となっている。

B 能代断層の撓曲帯の幅は、東雲台地では約3kmであるが、米代川〜浅内沼では約2km、八郎潟北岸では1.5km程度となり、南へ向かって小規模になる。

C 八郎潟北岸と浅内沼測線では、沈降側の層準Tに向斜構造が現れている。米代川では向斜構造は不明瞭であり、沈降側に層準Tのほぼ水平な構造が現れている。さらに東雲台地では明確に水平となった部分は見られず、西へ向かって傾斜が緩やかになる。

D 八郎潟北岸と浅内沼測線の能代断層の沈降側では、向斜構造と対になって背斜構造が現れている。この背斜構造は、能代断層とは別に海浜部に存在する撓曲構造の隆起部に相当するとみられる。完新世の沈降速度が小さい浅内沼測線B−6孔や、八郎潟北岸B−1孔は、この背斜構造に近い位置に配置されている。

以上のように反射法地震探査から得られる能代断層の撓曲帯の構造は、調査地北部へ向かってより規模が大きくなっている。浅内沼測線から八郎潟北岸では、能代断層の撓曲帯の規模が縮小し、これに代わって海浜部に別の撓曲構造が現れている。また沈降側の撓曲構造は、ボーリングで把握された縄文海進最高海面期堆積物の沈降速度の地域的差異を良く説明している。

図3−6−2 マイグレーション断面図による撓曲帯の連続性と空中写真判読結果の比較