(2)沈降側の層序

沈降側のボーリング試料では、年代の指標となる有力な広域テフラが得なれなかったため、浅部では14C年代測定結果、深部では主として花粉分析結果に基づいて層序を検討した。

@ 沖積層

B−6孔では深度7m(標高0m)まで、B−8孔では深度9m(標高−2m)までの区間に分布する。腐植物に富んだシルト〜砂質シルトからなる。

沖積層の底部の試料ではB−6孔において7,960〜8,180 cal.yBP、B−8孔では8,380〜9,290 cal.yBPの14C年代が得られ、約10,000前以降の完新世の堆積物である。これ以深の試料は、汚染されているとみられるB−8孔の一例を除き、すべて30,000 yBP 以上の年代を示し、同位体ステージ3以前の堆積物と判定される。

沖積層の上部は、腐植土層の直下がB−6孔で6,190〜6,320 cal.yBP、B−8孔では6,210〜6.490 cal.yBPの年代を示す。B−6孔では深度2.14m(標高約5m)に淡水生種、4.10m(標高約3m)に汽水生種の珪藻を含むことから、沿岸の汽水環境から陸域の湿地に移行した後、約6,000年前に離水したことを示している。離水前の環境や離水年代は、米代川南岸の沖積1面と類似しており、米代川地域と浅内沼測線の沖積1面(A1面)が一連の地形面であることを示している。沖積層中には、米代川の沖積層と同様、十和田−八戸テフラの漂流軽石が散見され、約10,000年前から6,000年前にかけて、米代川流域から堆積物の供給があったことを示している。また腐植物や軟体動物による生痕が多数認められ、八郎潟北岸沈降域の沖積層と類似した層相を示す。

A 洪積層

B−8孔の沖積層の直下には、特徴的な淡橙色の色調を持った塊状粘土がみられる。これは八郎潟北岸沈降域の沖積層の直下にも見られる白色〜淡橙色の塊状粘土と同一の層相であり、調査地周辺で中位段丘面を覆うローム層に類似した層相を示す。B−6孔ではこの塊状粘土が生物撹乱に伴ってパッチ状の粘土片となり、沖積層の底部に散在する。塊状粘土より下位の層準に挟在する泥炭層は、30,000 yBP以上の年代を示す。また八郎潟北岸沈降域の白色〜淡橙色の塊状粘土からは、同位体ステージ3〜4相当の気候を示唆する花粉群集を産する。このことから、塊状粘土より下位の層準を洪積層と判断した。

B−6、B−8孔の洪積層の層序は、図3−1−1に示す微化石分析結果から、同位体ステージ3〜4に相当する堆積物、同位体ステージ5に相当する堆積物、および同位体ステージ6以前に相当する可能性がある堆積物に区分される。

・ 同位体ステージ3〜4に相当する堆積物

B−6孔の深度82.5mまで、B−8孔の深度64.0m付近までは、トウヒ属に加えて、マツ属単維管束亜属、カバノキ属、およびハンノキ属の花粉群集を伴う亜高山帯から冷温帯の古環境を示す。挟在する腐植質シルトや泥炭層の14C年代が30,000 yBP以上の年代を示すこと、下位にスギ属、ブナ属、およびコナラ属コナラ亜属の花粉を含む温暖期の環境を示す同位体ステージ5相当の堆積物が分布することから、この区間の堆積物を同位体ステージ3〜4相当と推定した。

本区間では、トウヒ属、カバノキ属等の木本花粉の組合せによって更に詳細な花粉帯が識別されるが、B−6孔、B−8孔の花粉帯と層相との対比が必ずしも明確ではなく、同位体ステージ3と4に相当する堆積物を識別することは困難である。

本区間の堆積物は、上部の砂層を主体とする区間と、下部の礫層/シルト層が繰り返す区間に大別される。上部と下部の境界は、B−6孔の深度38m付近、B−8孔の深度28m付近である。堆積物中に含まれる海生珪藻は、殻の強い種や生育時に生産量の多い種が多いため、二次化石群集の可能性があり、珪藻群集からは明確に海成堆積物と判定できる試料はない。下部のシルトには湿地や沼沢など陸生の珪藻を多く含む部分があり、礫層も基質がシルト分に富んでいるため、扇状地等の陸上の環境が示唆される。一方上部の砂層を主体とする部分には、しばしば生痕が認められ、生物撹乱が見られない砂層には良く円磨さ細礫の並びや、平行葉理が認められることがあるため、海成堆積物を伴う可能性がある。

・ 同位体ステージ5に相当する堆積物

B−6孔の深度87.5〜90mまで、B−8孔の深度74.5m以深には、スギ属、ブナ属、およびコナラ属コナラ亜族の花粉を含む温帯〜冷温帯の環境を示す。この層準は白石・竹内(1999)が男鹿半島の潟西層模式地で記載した潟西層(同位体ステージ5c)や、安田海岸のAso−4上位の潟西層(同位体ステージ5a)の花粉化石群集に調和することから、同位体ステージ5に相当する堆積物と推定される。

B−6孔の深度102.0m付近にトウヒ属の卓越する寒冷期の花粉群集が得られていることから、同位体ステージ5相当層の下限は、これより上位に位置するとみられる。B−8孔には、この寒冷期の層準は確認されていないが、B−6孔の深度102.5mに漂流軽石を含む層準が、B−8孔の深度78.5mに出現するため、漂流軽石が分布する層準の直上までが同位体ステージ5相当と予想される。いずれにしても下位の寒冷期を示す分析結果がB−6孔の1試料にとどまっているため、同位体ステージ5の下限の深度から、断層の活動性評価を行う精度は期待できない。

一方この堆積物の上限は以下のように推定される。

B−6孔の深度88〜90m(標高−81〜−83m)に貝殻片を含む層準があり、同様な貝殻片がB−8孔の深度68.5m(標高−61.5m)付近に分布する。これらは同位体ステージ5相当の海面の上昇期を示唆する。これより上位では、B−6孔の深度82.5m付近、B−8孔の深度64.0m付近に同位体ステージ3〜4に相当する花粉群集が得られているため、同位体ステージ3〜4と5の境界の位置は、B−6孔の深度82.5〜88.0m、B−8孔の深度64.0〜68.5mに限定される。

同位体ステージ5に相当する堆積物は、上部が細粒砂、下部が砂質シルトないしシルトからなる塊状の層相を示し、全体として上方へ粗粒化している。貝化石や生痕を伴うため大部分は海成堆積物とみられる。

・ 同位体ステージ6以前に相当する可能性がある堆積物

B−6孔の深度102.0m付近にトウヒ属の卓越する亜高山帯(亜寒帯)の花粉群集が得られ、白石・竹内(1999)による男鹿半島の樽沢層下部に対比される可能性がある。そのためこれより下位を「同位体ステージ6以前に相当する可能性がある堆積物」とした。

この寒冷期の花粉化石群集は、B−6孔深度102.5m(標高−95.5m)の漂流軽石を含む層準の直上に位置する。漂流軽石は、焼石−山形テフラ(Yk−Y:降下層準Aso−4直上)と、ガラスの屈折率、形態、随伴鉱物が似ているが、層準が一致せず、中期更新世以前のテフラの可能性がある。漂流軽石を含む砂層以深では全体としてシルトないし極細粒砂を主体とした無層理塊状、細粒な層相が30m程度連続し、その中で大きく2回の上方細粒化サイクルを示す。そして深度128.5m(標高−121.5m)において固結度が著しく上昇する。この間1層準に漂流軽石が認められるが、広域テフラに対比されるものはない。また数試料の微化石分析を実施したが、有孔虫は検出されなかった。