(6)能代断層の活動性の推定に関する留意点

以上の推定に関連する能代断層の活動履歴に関して、2、3の留意点が挙げられる。

@ 砂層の堆積環境と単位変位量、再来間隔の関係

上記の推定では、能代地震による断層変位を十和田aテフラの鉛直変位量の約3mと見積もった。この見積は沈降側で十和田aテフラの下位に分布する砂層が水中で堆積し、約4,000年前以降、十和田aテフラの降下までの期間、平滑な地形面が存在していたことを仮定している。

この砂層の層相は水中の堆積環境を想起させるが、粒度分析を行うと平均粒径、淘汰度ともに砂丘砂と大きな差異が認められない(図3−2−7)。仮に砂層の一部または全部が砂丘砂であった場合、沈降側にはすでに砂丘の高まりが生じていたことになり、能代地震の際の変位量は過小評価される。敢えて極端な評価をすれば、A1面の離水直後に形成された腐植土層が示す8〜9mの高度差のすべてが能代地震によってもたらされた可能性も否定しきれない。

本調査の推定に立つと、米代川における能代断層の単位変位量は3〜4m、再来間隔は4,000〜6,000年程度と見積もられるが、砂層の厚さのすべてが砂丘の高まりであったとすれば、単位変位量、再来間隔ともに、推定の倍前後の値に評価される可能性もある。

A 沈降側の堆積勾配

本調査では、明確に能代断層の沈降側に配置されたボーリングはB−10孔1孔のみである。昨年度の地形調査に基づいて、B−11孔は撓曲構造のヒンジに配置されていると想定していた。しかし本年度の調査の結果からみると、沈降側に分布する新期砂丘の下の構造は地形調査では把握しきれておらず、B−10孔とB−11孔の間にヒンジが存在しているとみられる。

調査地隆起側には平滑な地形が広がり、地形調査によってもほぼ水平な地質構造が把握されたが、沈降側の沖積層の堆積勾配は、新期砂丘に覆われて明らかではない。本調査では高度差を単純に鉛直変位量として扱ったが、沈降側がある程度の勾配を持つ場合、変位量、変位速度に誤差が生じる可能性もある。

図3−2−1 米代川南岸地質断面図(全体)

図3−2−2 米代川南岸地質断面図(浅部)

図3−2−3 B−10孔上部の地質状況

図3−2−4 米代川南岸の沖積1面の離水年代検討図

図3−2−5 米代川南岸のテフラおよび14C測定試料分布標高−年代相関図

図3−2−6 米代川南岸での能代断層の活動と沖積層の堆積過程の変遷(概念図)

図3−2−7 砂の粒度分析結果