3−2 深部構造調査

深部構造調査では,千屋断層を対象に,バイブロサイス及びダイナマイトを震源として秋田県から岩手県側に設定したそれぞれ10kmを超える測線上で反射法地震探査データの同時取得を行った。データ解析の結果,地下の地質構造形態を表した重合断面図,マイグレーション断面図,震度断面図,速度構造図等を得られ,これらの図面と大学が提供してくれた情報を基に解釈作業を行い,横手盆地東縁断層帯の深部構造形態を明らかにした。この解釈作業は,Sato et al.(1997)の結果との整合性を保つように実施した。以下に地質構造解釈の概要をまとめる。

反射記録はノイズの少ない東側の脊梁山地中央部で良好で,バイブロサイスでも下部地殻からの反射イベントも認められる。断面では西縁の千屋断層と東縁の川舟断層などの逆断層によって境された隆起帯をなす真昼山地の下の上部地殻の構造が捉えられた。岩手県側の4〜5秒の所に見られる顕著な西上りの反射イベントや真昼岳直下の西上りの反射イベント群,それに秋田側の浅部における構造形態と地表地質の情報を構造地質学的な見地から矛盾なく説明できるように解釈した結果が図3−2−1にまとめられている。図中の赤線は断層のトレース,灰色の線は大まかな地層境界を表現したものである。解釈の結果,A,Bの記号を付けた断層が想定された。この内,Aは極めて明瞭で,千屋断層に対応する。一方,BはA程明瞭ではないが地表では確認されており,さらに地形,地表地質や地層の傾斜に関する情報等から判断し妥当なものである。

千屋断層の延長と判断される反射層は断面東端部の往復走時2.5秒付近(深さ約7km)から立ち上がり,約40゜で東に傾斜した形状を示す。断層は浅部に向かって傾斜を変化させ,地表付近の震度1kmで2つに別れ,一方はそのまま地表に達するが(Bと記したもの),もう一方は傾斜を減少させたのち,地表にAと記した千屋断層(500m以浅では30゜東傾斜)に連続している。真昼山地の隆起運動は東西圧縮の場におけるこれらの断層と岩手側に想定されている川舟断層の相互作用等により説明可能である。真昼山地の隆起運動にも関わらず,往復走時で2秒程度までのP波の速度構造は,とくに浅層部で東側に単調に増加し,その傾向は岩手側まで続いている。隆起帯である真昼山地下で,低下側の川舟断層の東側よりも遅い速度を示すことは,日本海形成時の正断層運動を反映していると考えられる。尚,図中に?印を付けた箇所には重力異常の局地的な変化が見られる処から貫入岩の存在を考える事も可能かもしれない。

速度解析の結果,得られたRMS速度値を各層序に対比してみると,

   (時 代)     (地層名)     (速 度)    (色対比)

 鮮新統〜第四系     千屋層    2.0〜2.1km/s   黄

 上部中新統〜鮮新統  弥勒層    2.1〜2.5km/s   橙,青

 中部中新統上部     吉沢川層  2.2〜2.7km/s   紫

 中部中新統下部     真昼川層  2.5〜4.0km/s   茶,緑

 下部中新統        湯田層    4.0〜4.5km/s   水色

 先第三系         花崗岩    4.5km/s以上    赤

となる。この中で,弥勒層(相々野層)は軽石質凝灰岩(橙)と泥岩(青)に,真昼川層は泥岩(茶)と火山砕屑岩(緑)に大別される。

東北日本の典型的な内陸地震断層である千屋断層(横手盆地東縁断層)は,「新編 日本の活断層(活断層研究会 1991)」の中で,千畑町の平野部と丘陵部の境界に存在が推定されていたが,調査の結果,地表に推定されている位置からその傾斜を変化させながら真昼岳の真下で7km程度の深さに達し更に岩手側にまで延びている事がほぼ判明し,併せて地震波の速度構造の大略を得ることができた。この断層の幾何学的な深部構造並びに速度構造は今後,大学の研究グループが進めている屈折法の解析結果や稠密な地震観測の結果と併せてより詳細に吟味され,強震動予測などを行っていく上での重要な基礎データとなるであろう。