2−3−1 解釈結果

現地調査後のデータ解析を行い,真昼岳の直下までを含めて設定した総延長約20qの測線に対し,地下の地質構造形態を表した重合断面図,マイグレーション断面図,深度断面図,速度構造図等が得られた。これらの図面と大学が提供してくれた情報(図2−2−13−1の断面図参照)を基に総合解釈作業を行い,横手盆地東縁断層帯の深部構造形態を明らかにした。以下に反射法地震探査データの解析結果から分かった事をまとめる。図2−2−12は深度断面図上にデータ解析結果と地質構造解釈結果をオーバーレイ表示したものである。

反射記録はノイズの少ない東側の脊梁山地中央部で良好で,バイブロサイスでも下部地殻からの反射イベントが認められる。断面では西縁の千屋断層と東縁の川舟断層などの逆断層によって境された隆起帯をなす真昼山地の下の上部地殻の構造が捉えられた。図2−2−13−1から分かるように,真昼岳と秋田側の測線並びに岩手側の測線との連結部付近の直下の深部構造は必ずしも明瞭ではない。これは重合数が少ない事に起因している。しかしながら,岩手県側の4〜5秒の所に見られる顕著な西上りの反射イベントや真昼岳直下の西上りの反射イベント群,それに秋田側の浅部における構造形態と地表地質の情報を構造地質学的な見地から矛盾なく説明できるように解釈した結果が図2−2−12にまとめられている。図中の赤線は断層のトレース,灰色の線は大まかな地層境界を表現したものである。解釈の結果,A,Bの記号を付けた断層が想定された。この内,Aは極めて明瞭で,千屋断層に対応する。一方,BはA程明瞭ではないが,地表では確認されており,更に地形,地表地質や地層の傾斜に関する情報等から判断し妥当なものである。

千屋断層の延長と判断される反射層は断面東端部の往復走時2.5秒付近(深さ約7q)から立ち上がり,約40゚で東に傾斜した形状を示す。断層は浅部に向かって傾斜を増大させ(45゚),地表付近1qで2つに別れ,一方はそのまま地表に達するが(Bと記したもの),もう一方は傾斜を減少させたのち,地表にAと記した千屋断層(500m以浅では30゚東傾斜)に連続している。真昼山地の隆起運動は東西圧縮の場におけるこれらの断層と岩手側に想定されている川舟断層の相互作用により,合理的に説明可能である。真昼山地の隆起運動にも関わらず,往復走時で2秒程度までのP波の速度構造は,とくに浅層部で東側に単調に増加し,その傾向は岩手側まで続いている。隆起帯である真昼山地下で,低下側の川舟断層の東側よりも遅い速度を示すことは,日本海形成時の正断層運動を反映していると考えられる。尚,図中に?印を付けた箇所には重力異常の局地的な変化が見られる処から貫入岩の存在を考える事も可能かもしれない。

速度解析の結果,得られたRMS速度値を各層序に対比してみると,概ね

時 代            地層名       速度(q/s)        色対比

鮮新統〜第四系    千屋層        2.0〜2.1q/s       黄

上部中新統〜鮮新統 弥勒層        2.1〜2.5q/s        橙,青

中部中新統上部    吉沢川層       2.2〜2.7q/s       紫

中部中新統下部    真昼川層       2.5〜4.0q/s       茶,緑

下部中新統       湯田層         4.0〜4.5q/s       水色

先第三系         花崗岩        4.5q/s以上        赤

となる。図中の色付けは,ここに記載した色対比によっている。この中で,弥勒層と真昼川層の2つの地層は構成する岩石種に基づき,それぞれ2つに分類し,異なる色で塗り分けた。つまり,弥勒層は軽石質凝灰岩(橙)と泥岩(青)に,真昼川層は泥岩(茶)と火山砕屑岩(緑)に大別した。

今後,大学の研究グループにより島弧横断測線から得られる速度構造をもとに反射断面の再検討が行なわれる他,同時に実施されている稠密な地震観測の結果も考慮して上部地殻における断層の詳細な形状について更に検討が進められるであろう。