(5)地震探査作業

通常の反射法地震探査はバイブレータ4台を震源として実施した。発震予定地が市街地で,人家などに近く発震ができないと判断した場合は発震点を適宜移動して調整した。発震点間隔は,調査対象が極めて深い事から200〜300mとしたが,秋田側の受振器番号100〜200の範囲については,千屋断層の浅部構造の把握も念頭に置き,50m間隔の発震も行った(以下高密度発震と呼ぶ)。バイブレータ震源は,ダイナマイトのようなインパルス(最小位相型)震源とは異なり,周波数を連続的に変化させた振動を地表面で発生させる零位相型の震源で,制御エレクトロニクス内の発震器の作り出した基準信号(スイープシグナル)に従ってベースプレート上の反力マスを油圧制御で振動させ,地面に人工的な振動を伝えている。取得されたデータは,スイープシグナルとの相互相関処理を経て,インパルス的な震源と同等の記録に変換される。図2−1−8には相互相関処理を通じてインパルス震源と同等な記録に変換する手順が示されている。

ダイナマイトの発震点は図2−1−3に K−1〜K−5 として示されるように,受振測線とその西側への延長部において約5qの間隔で選定された。ダイナマイトは,装薬量により震源のエネルギーを調整する事が可能な古くから使われてきたインパルス震源である。一箇所当りの発破孔の数は薬量や作孔深度により変動するが,本調査では30mの爆破孔1孔当り10kgの火薬の装填を標準としたため,発破孔の数は薬量30kgの2箇所に対し3孔,薬量50kgの3箇所に対して5孔となった。それらの発破孔は発震点位置を中心として測線に平行に誘爆を起こさない10m程度の間隔で配置した。

データの収録は多大チャンネルを用いた反射法調査において最も効率的なデータ収録方法であるディジタル・テレメトリー方式によった。本調査に用いたG・DAPS−4探鉱機のシステムダイアグラムを図2−1−9に示す。このシステムの主要部は,CRU(Central Recording Unit)とRSU(Remote Station Unit)から構成されている。CRUは観測車に搭載され,RSUは受振器と共に測線上に配置される。各受振器で取得されたデータは,RSU内で増幅,アナログ→デジタル(A/D)変換,相互相関処理を施された後に,ディジタル信号としてCRUに伝送され磁気テープに記録される。

本調査では,秋田側(254チャンネル)および岩手側(225チャンネル)に展開した受振器で同時観測を行った。G・DAPS−4探鉱機は1台でこれらのチャンネル数のデータ取得が容易に実施可能であるが,秋田測線と岩手測線は標高850mの急峻な真昼岳に阻まれ,両測線をケーブルで連結する事が困難なため,1台の探鉱機ではデータ取得が不可能になった。そこで,秋田測線および岩手測線にG・DAPS−4探鉱機を1台づつ持ち込み,2つの探鉱機を同期させて同時にデータ取得を行う事とした。図2−2−1はMaster Slave Operationと呼ばれる2つの探鉱機を同期させたデータ取得の概念図である。バイブレータ震源によるデータ取得の場合には,Pelton社製のEncode Sweep Generator ADVANCE II(通称 ESG)にMaster及びSlaveの設定を行ない,ダイナマイト発震時には,Macha International社の発破器(Blaster)にMaster & Slaveの設定を行って同期を取った。この操作の為に,指向性の強い八木アンテナ(秋田側5素子,岩手側3素子)を通信用のアンテナとして観測車に設置した他,真昼岳の山頂にも,中継用の八木アンテナとESGを設置した。この図は岩手側探鉱機をMasterとして発震とデータ取得を実施する場合の例で,Slaveに設定されている秋田側探鉱機は,岩手側の発震信号(TB)を受けてデータ取得を開始する。それと同時に,バイブレータも発震作業を開始する。実際のダイナマイト発震作業は,秋田側探鉱機をMasterとして実施し,広角反射データを取得した。

受振器は1受振点に対し18個の地震計から構成され,表面波などの除去を目的に,それらの地震計を2.78mに直線配列した(図2−2−2)。地震計として10Hzの固有周波数を持った速度計が使用された。現場作業にかかる統計表とデータ取得に関わる発震点と受振点の関係を示す展開表をそれぞれ表2−1表2−2−1表2−2−2表2−2−3表2−2−4表2−2−5にまとめた。

データ収録に先立ち測定パラメータのテストを行った。以下に各テストの結果を示す。

1)プリアンプゲイン

G・DAPS−4のRSUでは0dB,12dBおよび24dBのプリアンプゲインが設定可能である。ジオフォンからの入力電圧が0dB増幅時で±4.5Vを越えると入力が許容電圧を超えてしまう(12dBで±1.125V,24dBで±0.28V)。そこで相互相関を行わずに1スイープのデータを取得し,各トレースの最大振幅を評価した。最大振幅はいずれも4.5Vを下回っていたため,プリアンプゲインは24dBとした。

2)スイープ周波数

高分解能の反射データを得るためにはできる限り広い周波数帯域のスイープが必要である。一方,深部の探査には低周波成分が有効である。本調査のターゲットが10〜20qである事を念頭に置き最適な周波数を決定するため,3種類のスイープ(6−60 Hz,6−45 Hz,6−30 Hz)の比較テストを実施した。その結果,6−60Hzのスイープは他のものと比べ若干質の低下が見られた事から採用しない事とし,できる限り高分解能化を図るため6−45Hzを採用した。

3)重合数

一般にデータのS/Nは重合数の増大に伴い改善されるが,重合数をいたずらに多くしてもS/Nの飛躍的な向上は望めず,むしろ作業効率の著しい低下につながる。そこで,調査期間と必要発震点数および作業効率とを考慮した重合数を決める必要がある。テストの結果,20回以上では明確な差異を認められない事から,安全性の観点から重合数を標準では30回とし,状況に応じて24回に調整する事も行った。

測定仕様と主要機器は以下の通りである。

【バイブロサイスによる反射法地震探査】

発震系

震源 BW/MK4+Y2400 4台

発震点間隔 200−300m(高密度発震は50m間隔)

発震点数 秋田側41点,高密度発震33点

スイープ周波数 6−45Hz

スイープ長 20秒

スイープ数 24および30回/VP(高密度発震は1回/VP)

スイープモード Linear up sweep

ドライブレベル 90%(一部50%)

震源制御装置   PELTON ADVANCE U

受振系

受振器 MARK PRODUCTS UM−2(10Hz)

受振器感度 0.275V/kine

受振器間隔 50m

受振器数 18個/点

設置パターン 2.78m間隔 直列配列

記録系

ディジタル探鉱機 G・DAPS−4

チャンネル数 479(秋田側254CH,岩手側225CH)

サンプル間隔 4msec

記録長 20秒(相互相関後)

フォーマット SEG−Y

利得制御 24bit Σ−Δ.

プリアンプゲイン 24dB

低域遮断周波数 OUT

高域遮断周波数 OUT

【ダイナマイト発震による広角反射データ取得】

発震系

震源  ダイナマイト

発震点数 5点

薬量 30kg(K−3,K−4)および50Kg(K−1,K−2,K−5)

発破制御装置 MATCHA THE SHOOTING SYSTEM

MASTER − SLAVE CONTROLLER

受振系

受振器 MARK PRODUCTS UM−2(10Hz)

受振器間隔 50m

受振器数 18個/点

設置パターン 2.78m間隔 直列配列

記録系

ディジタル探鉱機 G・DAPS−4

チャンネル数 479(秋田側254CH,岩手側225CH)

サンプル間隔 4msec

記録長 30秒

フォーマット SEG−Y

利得制御 24bit Σ−Δ.

プリアンプゲイン 24dB

低域遮断周波数 OUT

高域遮断周波数 OUT