地表で人工的に発生させた地震波が地下に伝播する途中,地層境界面に入射すると,そのエネルギーの一部が反射して地表に戻ってくる。このような反射波を地表に設置した地震計で観測し,地下における反射イベントの分布図(反射記録断面図と呼ぶ)を作成する技術が反射法地震探査である。反射法地震探査作業の概念は図2−1−6に既に示した通りであるが,反射波は一般に互いに異なった物性値を持つ地層の境界面で発生し,その強度は境界面での音響インピーダンス(弾性波速度と密度の積)の関数である。連続した反射イベントの存在は,そこに地層境界面が存在することを意味している。従って,反射記録断面図は地層の形状を反映していることになる。
反射法地震探査では,一つの発震点に対して多数の受振点で反射記録を取得するので,様々な発震点と受振点の組み合わせができるが,発震点間隔を受振点間隔の整数倍とすれば,発震点と受振点の中点の位置は,受振点間隔の2分の1の間隔で規則的に並ぶことになる。このような中点を共通反射点(CDPまたはCMP)と呼ぶ。個々の発震点と受振点の組み合わせは,CDPとオフセット距離(発震点と受振点間の距離)としても表現でき,同一のCDPを構成する記録(トレース)の集合をCDPギャザーと呼ぶ。CDPギャザーを構成するトレースでは,反射波の経路は異なっても,地下の構造が水平多層構造と見なせる場合には,反射点の位置は同一になる。反射法地震探査では,経路の異なった反射波をその共通反射点での垂直走時に変換して加算することにより反射記録断面図が作成可能になる。このような手法を共通反射点重合と呼ぶ。この原理は既に図2−1−7にまとめて示した通りである。
この手法はシングルチャンネルの音波探査と比較して次のような利点を持つ。反射波の走時とオフセット距離との関係から地層中の速度を求めることができる。この速度から反射イベントを垂直走時に変換する(NMO補正)ための補正量が計算できる。異なった経路の反射波を重合することにより,多重反射などの不要なイベントを消去して,S/N比(Signal to Noise Ratio)を向上させる事ができる。
CDPを構成するトレース上の反射波の走時は,地層速度,反射波の深度とオフセット距離の関数であり,オフセット距離に対してほぼ双曲線となる。地層境界面に多少の傾斜を持つ場合には,同一の反射点とはならないが,その走時もオフセット距離に関してほぼ双曲線となる。また,この双曲線は,地層の速度と密接な関係があることから,地層の速度が判れば,これを同一の垂直走時に変換でき(NMO補正),これを加算(重合)することにより,ノイズの消去または軽減を図る。
反射波を垂直走時に変換するには,オフセット距離が既知なので,反射面までの速度を与えればよい。この速度を求める方法としては,異なるいくつかの速度を系統的に与えて重合を行い,重合を行い,重合後の反射イベントの振幅(エネルギー)が最大となる速度を摘出する方法が一般的であり,反射法地震探査における速度解析と呼ばれる。
このような方法で得られた重合速度は,地表から反射面までの平均的な地震波速度であるが,水平多層構造については,RMS速度と呼ばれ,一般的には重合速度とも呼ばれている。この速度に従って反射波をすべて垂直走時に変換して重合することにより,地下の断面図が得られる。さらに,二つの反射面に対する重合速度から,Dix(1959)の式を用いてその区間の地層速度も求める事ができる。このようにして,反射法地震探査では,地下の反射記録断面を作成すると共に地層の速度構造を求めることができる。
反射記録断面図は,横軸がCDPの位置,縦軸が反射イベントの垂直往復走時として表したものであるが,速度解析から得られた区間速度を用いて縦軸を反射面までの深度に変換することも可能である。このような深度に変換したものを深度断面図という。本実験では,往復走時が20秒(バイブロサイス)のデータを収録しており,当該地域の平均的な速度が少なくとも3q/sを超える事から,深度30qより深部の情報を取得できている可能性がある。後述する調査結果によれば,有効な反射波は,往復走時で7秒付近に確認されている処から,同様の方法で,有効な探査深度は11q以上と見積もる事ができる。