上下変位量を求める際には,地表面での金沢断層の位置に垂線を引き,上・下盤での各段丘面を平均的な地形勾配でそれぞれ延長させ,垂線に交差した箇所での差を上下変位量とした。ただし,下盤側に上盤側と同一の段丘面が存在しない段丘面や断層近傍で撓曲している場合が有り,以下に示すような判断に基づき,求値した。
中位段丘1面及び中位段丘2面については,上盤側で主に断層近傍にしか分布せず撓曲が認められることから,上盤側で採用する基準面標高を撓曲部の最高標高とした。下盤側については,二つの基準面標高を採用し,一つ目は地表面とした。二つめはボーリング結果(BSA−1,BBI−2)から地表面下(最低位段丘7,最低位段丘6)25mの深度まで,中位段丘1及び中位段丘2が出現しないことが確認されたことから,下盤側の最低位段丘6面ないし7面の平均的な各段丘面標高から25mを引いた標高を下盤側の基準面標高とした。これら基準面に対し,上・下盤の基準面標高の差を上下変位量とした。
低位段丘3については,中位段丘と同様に二つの基準面標高を採用し,一つ目は地表面とした。二つ目は下盤側のボーリング結果(BBI−2)から,最低位段丘6面下及び7面下約2.5mに低位段丘3が存在することから,下盤側の各最低位段丘面下2.5mの標高を下盤側の基準面標高とした。
低位段丘4については,下盤側に分布しないことから低位段丘5面を下盤側の基準面標高とした。
なお,吉沢川沿い段丘面高度分布図においては,金沢断層より下盤側には有効な段丘面が存在しないことから,この図からは上下変位量を求めていない。
これらの結果より,上下変位量を求値すると以下のようになる。
[三貫堰沿い]
中位段丘1(T1):約35m以上ないし約60m以上
中位段丘2(T2):約20m以上ないし約45m以上
低位段丘3(T3):約9mないし約11.5m
低位段丘4(T4):約4m
[杉沢扇状地中央]
中位段丘1(T1):約35m以上ないし約60m以上
低位段丘3(T3):約4.5mないし約7m
低位段丘4(T4):約4m
低位段丘5(T5):約2.5m
[杉沢川沿い]
中位段丘1(T1):約30m以上ないし55m以上
低位段丘3(T3):約8.5mないし約11m
低位段丘5(T5):約3m
なお,1/2500の地形図を基に,図1−3−5−1・図1−3−5−2・図1−3−5−3・図1−3−5−4に段丘面高度分布図を示す。標高及び比高は,部分的に実施した簡易測量に基づいて算定した。
図1−3−5−1 三貫堰川沿い段丘面高度分布図
図1−3−5−2 杉沢扇状地中央縦断段丘面高度分布図
図1−3−5−3 杉沢川沿い段丘面高度分布図
図1−3−5−4 吉沢川沿い段丘面高度分布図
低位段丘4(T4)〜最低位段丘6(T6)の段丘面は現在水田となっており,大規模な地形改変はないと判断される。しかし,詳細には,局所的な1m程度の改変はあると考えられ,低位段丘3(T3)から低位段丘5(T5)の上下変位量については,1m程度の誤差を含む可能性がある。
また,これらの上下変位量を算出した断面線上では,年代測定により各段丘の年代を確認していない。このため,これらの各段丘で年代測定を実施した場合,現在想定している段丘と異なる年代の段丘になる可能性がある。
この理由として,金沢断層を境にして下盤側から上盤側に連続する段丘面が少ないこと,上盤側に広く分布する低位段丘4(T4)が下盤側に分布しないこと,各段丘全体にわたって年代測定を実施していないこと,下盤側の沈降量が小さいこと等があげられる。
このようなことから,下盤側に分布するる低位段丘5(T5)面は,低位段丘4(T4)面ないし低位段丘3(T3)面に対比される可能性があり,最低位段丘6(T6)面は,低位段丘5(T5)面に対比される可能性がある。
また,変位量が小さい低位段丘4(T4)面及び低位段丘5(T5)面からは,有意な平均変位速度を算定することが出来ないために,低位段丘3(T3)面についてのみ平均変位速度を算出した。
低位段丘3(T3)面の上下変位量は,約4.5m〜約9mないし約7m〜約11.5mであり,段丘面の形成年代が約38,000年前であることから,平均変位速度を算定すると以下のようになる。
0.1〜0.2m/千年
低位段丘3(T3)面: ないし
0.2〜0.3m/千年